噛む・叩く・蹴る — 攻撃性の発達経路

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対象
1〜4歳の子の保護者
文字数目安
2,400字
ステータス
ドラフト v1(査読論文中心)

リード

ある日、子どもが友達を噛んだ、と保育園から連絡がくる。次の週は、別の子を叩いた。家では下の子のおもちゃを取り上げて、抵抗されたら蹴った。

その瞬間、頭をよぎるのは、たぶんこういう問いだ。「これは異常なのか」「うちのしつけが悪いのか」「このままだと暴力的な子になるのか」。

結論から書くと、2 歳前後の子が叩き・噛み・蹴りを示すのは、発達研究の蓄積から見ればむしろ標準である。減っていくのが標準であり、ピークがそこにあるのも標準だ。問題は「攻撃的かどうか」ではなく、「その後どう変化していくか」のほうにある。この記事では、攻撃性の発達経路を縦断研究のデータで整理し、保護者が見るべき線がどこにあるのかを考える。

身体的攻撃は減っていく現象である

幼児の攻撃性についての通念は、長らく「学習されて増えていくもの」だった。テレビ、しつけ、環境がそれを増幅する、という見方である。

この通念を裏返したのが、Richard Tremblay らの一連の縦断研究だ。Tremblay らは生後 5 ヶ月の乳児 572 名を 17・30・42 ヶ月で追跡したで、母親による身体的攻撃の頻度評価を取った [1]。結果は明快で、17 ヶ月の時点ですでに大多数の子が、きょうだい・仲間・大人に対して何らかの身体的攻撃を示している [1]。叩く・押す・物を奪うといった行動の頻度は 2〜4 歳でピークに達し、その後、ほとんどの子で徐々に減少していく [1,2]。

つまり、人は身体的攻撃を後天的に学んで「増やす」のではなく、生得的に持っているそれを社会化のなかで「減らす」と捉えるのが、現代発達科学の枠組みである [2]。1〜2 歳児が叩いたり噛んだりするのは、欠陥ではなく、まだ抑制が来ていないだけだ。

国際的にも、カナダ・米国の大規模な縦断データセットを横断的にメタ統合した研究で、生後 24 ヶ月前後をピークとして就学までに身体的攻撃が顕著に減少する典型的軌跡が再現されている [3]。

「ピークを過ぎても下がらない」群は約 5〜10%

ここからが重要な分岐点である。Tremblay らの 17〜42 ヶ月コホートを軌跡分析した報告では、3 つの群に分かれた [1]。

Nagin & Tremblay の有名な縦断研究(モントリオールの男児 1,037 名を 6〜15 歳で追跡)でも、似た分岐が報告されている。「慢性的高頻度群」「高水準だが減衰する群」「中水準で減衰する群」「ほとんどない群」の 4 つに分かれ、慢性群は全体の数%程度にとどまるが、その後の暴力的非行のリスクが他の 3 群より明確に高い [4]。

つまり、保護者が見るべきは「うちの子が攻撃的か」ではなく、「年齢とともに減っているか」だ。ピーク時の絶対量より、軌跡の傾きのほうが予測力を持つ [1,4]。

関係性攻撃という、別の経路

身体を使う攻撃が落ち着いたあと、しばしば代わりに増えるのが、関係性攻撃(relational aggression)である。これは Crick & Grotpeter が 1995 年に概念化したもので、仲間外れにする、悪口を広める、無視する、といった社会的な手段で相手を傷つける行動を指す [5]。Crick らの研究は小学生 491 名を対象にしたもので、関係性攻撃は身体的攻撃と区別される独立の次元であり、女児に多く、被害側・加害側の双方で孤独感・・仲間からの拒絶と関連していた [5]。

Crick らの研究は小学生 491 名を対象にしたもので、関係性攻撃は身体的攻撃と区別される独立の次元であり、女児に多く、被害側・加害側の双方で孤独感・抑うつ・仲間からの拒絶と関連していた [5]。

Côté ら(2007)の縦断研究は、2 歳から 8 歳までの 1,183 名を追跡し、身体的攻撃と間接的攻撃(関係性攻撃に近い概念)が同時に発達する経路を分析した。身体的攻撃は加齢に伴って減少する一方、間接的攻撃は 4 歳前後から増加していくこと、両者の軌跡は子どもによって異なる組み合わせを取ることが示された [6]。

これが意味するのは、「叩かなくなった」ことを単純に成熟の証と読んでよいわけではない、ということだ。手が出なくなる代わりに、言葉や仲間関係を使った攻撃が出てくることがある。手を出すよりは社会的に許容されやすいぶん、見えにくくもなる。

介入を考える線はどこか

「2 歳のピークは正常」と「介入が必要なライン」は、別の話である。

Tremblay の研究グループ自身が、慢性的高頻度群への早期介入の必要性を繰り返し論じている [2,4]。具体的な目安として、以下のような状況は専門機関への相談を検討してよい範囲だとされる。

逆に、2 歳前後で叩く・噛む・蹴るが頻発しても、語彙が増え、ルールが入り、半年〜1 年単位で頻度が下がってきているなら、それは身体的攻撃を減らす学習が進んでいるサインだと読める [1,2]。

家庭でできることのうち、エビデンスが比較的強いのは、攻撃の「機能」を奪わない範囲で代替手段を増やすことだ。「噛んだら欲しいものが手に入る」という経験が積み重なると行動は強化される。逆に、欲求を言語化して通る経験を積めば、言語化が代替経路になる [7]。叱るかどうかよりも、要求が通る別ルートが用意されているかが効く。

記録が「軌跡」を可視化する

軌跡を見るには、点ではなく線が必要だ。今日叩いた、という出来事だけを切り取ると親はいつも消耗する。先月に比べて今月は減っているか、という縦軸での比較ができると、「ピークを過ぎつつあるかどうか」が見えてくる。

Memori のような時系列で日々の出来事を残せる仕組みは、こうした軌跡の観察に向いている。「噛んだ」「叩いた」を記録する目的は、他人に共有することではなく、半年後に自分が遡って「あの時期はピークだったのか」と読み直すためだ。

そして、半年後にその記録を読み返した自分が、こう書いてあるのを見つけることになる。「3 月、保育園から呼び出し」。となりには、「9 月、ちゃんと言葉で言えるようになった」と書かれている。出来事は変化を含んだとき、初めて読み物になる。

まとめ

身体的攻撃は、2 歳前後をピークに減っていく現象である [1,2]。ピーク時の絶対量より、軌跡の傾きのほうが予測的に重要だ [1,4]。手が出なくなる代わりに関係性攻撃が増える経路もあるが、それは別の発達課題として後から立ち上がる [5,6]。

「うちの子は攻撃的か」よりも、「半年前と比べて減っているか」を見る。減っていれば、その子は身体的攻撃を減らす学習を、いま生きているということだ。


References

  1. Tremblay RE, Nagin DS, Séguin JR, Zoccolillo M, Zelazo PD, Boivin M, et al. Physical aggression during early childhood: trajectories and predictors. Pediatrics. 2004;114(1):e43–e50. doi:10.1542/peds.114.1.e43. PMID: 15231972.
  2. Tremblay RE, Vitaro F, Côté SM. Developmental Origins of Chronic Physical Aggression: A Bio-Psycho-Social Model for the Next Generation of Preventive Interventions. Annu Rev Psychol. 2018;69:383–407. doi:10.1146/annurev-psych-010416-044030. PMID: 29035692.
  3. Tremblay RE. The development of aggressive behaviour during childhood: What have we learned in the past century? Int J Behav Dev. 2000;24(2):129–141. doi:10.1080/016502500383232.
  4. Nagin D, Tremblay RE. Trajectories of boys' physical aggression, opposition, and hyperactivity on the path to physically violent and nonviolent juvenile delinquency. Child Dev. 1999;70(5):1181–1196. doi:10.1111/1467-8624.00086.
  5. Crick NR, Grotpeter JK. Relational aggression, gender, and social-psychological adjustment. Child Dev. 1995;66(3):710–722. doi:10.1111/j.1467-8624.1995.tb00900.x. PMID: 7789197.
  6. Côté SM, Vaillancourt T, Barker ED, Nagin D, Tremblay RE. The joint development of physical and indirect aggression: Predictors of continuity and change during childhood. Dev Psychopathol. 2007;19(1):37–55. doi:10.1017/S0954579407070034. PMID: 17241483.
  7. Dionne G, Tremblay RE, Boivin M, Laplante D, Pérusse D. Physical aggression and expressive vocabulary in 19-month-old twins. Dev Psychol. 2003;39(2):261–273. doi:10.1037/0012-1649.39.2.261. PMID: 12661885.