ごっこ遊びと心の理論

読了時間 約 5 分English version available
対象
2〜5歳の子の保護者・幼児教育に関心のある人
文字数目安
2,200字
ステータス
ドラフト v1

リード

「ぬいぐるみにご飯を食べさせている」「人形をお医者さんにして注射ごっこをしている」——2歳を過ぎると、多くの子がごっこ遊びを始める。大人から見ると可愛らしい光景だが、なぜ子どもはリアルでないものをリアルのように扱えるのか、という問いは、認知発達研究者にとって40年近く中心的なテーマであり続けてきた。

ごっこ遊びが「(theory of mind)」の発達と深い関係にあることは、複数の研究で示されている。しかしその関係が、ごっこ遊びが心の理論を育てるのか、同じ能力が両方を支えているのか、という因果の向きについては、研究者の間でも現在も議論が続いている。

この記事では、ごっこ遊びと心の理論をつなぐ理論と実証研究の概要を、誠実に整理する。


ごっこ遊びの認知的な基盤

2歳前後の子どもは、バナナを電話に見立てたり、空のコップからお茶を飲む真似をしたりする。一見単純に見えるこの能力は、認知的には相当に高度だ。

Leslie(1987)は、ごっこ遊びが成立するためには、「現実の表象」と「仮想の表象」を同時に保持し、かつ混同しないでいる能力——「メタ表象(metarepresentation)」——が必要だと論じた [1]。バナナを電話として扱いながら、バナナは食べ物であることも知っている。この2つの表象を同時に扱える能力こそが、ごっこ遊びを可能にする。

Leslieの主張でさらに重要なのは、このメタ表象能力が、心の理論——他者が自分とは異なる信念や欲求を持つことを理解する能力——とも同じ認知機構を共有しているという指摘だ [1]。他者の「(false belief)」を理解する能力とごっこ遊びが、発達的に連動して現れる理由がここにある、というのがLeslieの理論の核心だ。


ごっこ遊びと心の理論の発達的な連動

Leslieの理論的予測は、その後の実証研究で部分的に支持されてきた。

Belsky & Most(1981)は、7.5〜21か月の乳幼児40名を縦断的に観察し、ごっこ遊びの発達に12段階の連続的な進展があることを示した [2]。最初の単純な対象操作(なめる・たたく)から始まり、自分自身へのフリ(眠る真似)、人形への投影(人形にご飯を食べさせる)、そして複数の行為を組み合わせた複合的なごっこ遊びへと段階的に進む [2]。

Taylor & Carlson(1997)は、3〜4歳の152名の子どもを対象に、空想的な遊び(imaginary companion の有無、ごっこ遊びの活発さ)と心の理論課題(誤信念課題、外見と実在の区別など)の関連を検討した [3]。4歳児では、空想的遊びの指標と心の理論課題の成績に有意な正の相関が見られ、言語能力を統制しても関連が残った [3]。

ただし相関は因果ではない。ごっこ遊びが心の理論を育てるのか、それとも共通する認知的成熟が両方を支えているのかは、相関研究だけからは判断できない。


「ごっこ遊びが認知を育てる」説への批判的検討

ごっこ遊びには豊かな発達的利点があると長年言われてきた。しかしその証拠の質は?

Lillard ら(2013)は、ごっこ遊びが認知・社会・言語・創造性の発達に寄与するという主張の実証的根拠を体系的にレビューした [4]。結論は慎重なものだった。「ごっこ遊びがなければ発達が阻害される」という証拠は薄く、ごっこ遊びは「いくつかある発達の経路のひとつ」に過ぎない可能性が高い、というのが彼女たちのまとめだ [4]。

たとえば、創造性や語彙との正の相関が報告されているが、多くは観察研究であり、ごっこ遊びの多さを結果の原因として確定することは難しい。因果を示すには、ごっこ遊びをランダムに操作する実験が必要で、そのような研究は倫理的・方法論的制約から少ない [4]。

Lillardたちが論じるのは「ごっこ遊びは無意味だ」ということではなく、「これが他の何かより優れているという証拠は今のところ弱い」という、より慎重な立場だ。


保護者はどう関わるか

では、ごっこ遊びに関与する保護者の役割はどのようなものか。

Harris(2000)は、子どものごっこ遊びが「想像すること(imagining)」の能力の練習場になっていると論じた [5]。他者の立場を想像する、過去・未来・反事実の状況を思い浮かべる——これらはごっこ遊びにおいて繰り返し実践される。

ここで保護者に示唆があるとすれば、ごっこ遊びを「育てるための道具」として設計的に与えるより、子どもが始めたごっこ遊びに大人が参加する形が、自然で効果的な関わりに見える。「お医者さんごっこ」で注射される役を引き受けること、人形の名前と状況に付き合うこと——こうした参加が子どもの想像の展開を支える。

一方で、大人主導で「正しいごっこ遊びの筋書き」を与えすぎると、子ども自身の表象の自由度が下がる可能性もある。大人の関与は、参加はするが導きすぎない、という加減が鍵になる。

「2歳なのにごっこ遊びをしない」という心配については、Belsky & Mostの段階モデルが示すとおり、ごっこ遊びは7.5か月から21か月にかけて段階的に発展するものだ [2]。2歳前後で複合的なごっこ遊びが見られない場合も、まずは単純なフリ行動(自分自身にご飯を食べさせる真似など)が見られるかどうかを観察する方が、ゼロかイチかの判断より現実に即している。


まとめ

ごっこ遊びとメタ表象・心の理論の発達は、理論的にも実証的にも深い関係にある [1,3]。ごっこ遊びは乳幼児期から段階的に発展し、2〜4歳にかけて複合的な形態に至る [2]。

ただし「ごっこ遊びをたくさんすれば心の理論が育つ」という因果関係は、現時点では証拠が十分でない [4]。大切なのは、ごっこ遊びを通じて子どもが想像力を行使する機会を豊かに持てているか、という観点だ [5]。

ごっこ遊びは目的を持って育てるものではなく、子どもが自然に始め、大人が傍に寄り添うものだ。


References

  1. Leslie AM. Pretense and representation: the origins of "theory of mind." Psychol Rev. 1987;94(4):412–426. doi:10.1037/0033-295X.94.4.412.
  2. Belsky J, Most RK. From exploration to play: a cross-sectional study of infant free play behavior. Dev Psychol. 1981;17(5):630–639. doi:10.1037/0012-1649.17.5.630.
  3. Taylor M, Carlson SM. The relation between individual differences in fantasy and theory of mind. Child Dev. 1997;68(3):436–455. doi:10.1111/j.1467-8624.1997.tb01950.x. PMID: 9249959.
  4. Lillard AS, Lerner MD, Hopkins EJ, Dore RA, Smith ED, Palmquist CM. The impact of pretend play on children's development: a review of the evidence. Psychol Bull. 2013;139(1):1–34. doi:10.1037/a0029321. PMID: 22905949.
  5. Harris PL. The Work of the Imagination. Oxford: Blackwell; 2000.