リード
「うちの子に見えない友達がいるみたいで……」と、少し困惑した様子で話す保護者は少なくない。名前がある、一緒に食事をすると言い張る、ときには「○○ちゃんが怒ってる」と言って自分の行動の説明に使う——こうした子どもの振る舞いを前にして、保護者は二種類の方向に不安を感じることがある。「何か問題があるのではないか」という心配と、「天才の証拠かもしれない」という過剰な期待だ。
どちらも、この現象を正確に反映していない。想像上の友達(imaginary companion)は、就学前児においてごく一般的な現象であり、研究では心の健康や社会的能力と正の相関を示している。同時に、その相関は強くなく、想像上の友達を持つ子が特別に優れているとも言えない。
この記事では、想像上の友達についての研究知見を、誇張なく整理する。
どのくらいの子に見られるか
想像上の友達の「出現率」は、定義の広さによって変わる。
狭い定義(目に見えない人物・生き物の友達)では、就学前児の20〜30%程度に見られる。定義を広げ、擬人化された物体(特別な人格と関係性を持つぬいぐるみなど)も含めると、40〜65%に上昇する [1]。
Taylor & Carlson(1997)が152名の3〜4歳児を対象に行った研究では、この広い定義に基づくと、約63%の子どもに何らかの想像上の友達または擬人化した物体との特別な関係が見られた [2]。Taylor(1999)の著書では、就学前児の約65%という数字が広く引用されているが、これは狭義のinvisible companionと擬人化物体の両方を含む推計値に近い [1]。
一点付け加えると、この現象は「ある・ない」で二分できるものではなく、ごっこ遊びの豊かさや空想活動のスペクトラム上にある。「うちの子は違う」と感じる場合も、より広い空想的遊びという文脈で見ると共通するものがある。
心の理論との正の相関
研究の中で一貫して示されているのは、想像上の友達を持つ子どもは、心の理論課題での成績が同年齢の子と比較して高い傾向がある、という関連だ。
Taylor & Carlson(1997)は、4歳児において、空想的な遊び(imaginary companionの有無を含む)と誤信念課題・外見-実在区別などの心の理論課題の成績との間に、言語能力を統制した後も有意な正の相関を見出した [2]。
Taylor ら(2004)が同じ子どもを3年後に追跡した研究では、小学校低学年の段階でも、幼児期の空想的遊びと感情理解・他者理解の指標との関連が持続していた [3]。
ただし繰り返しになるが、これは相関であり因果ではない。想像上の友達が心の理論を育てるのか、心の理論が発達しているからこそ想像上の友達が可能になるのか、あるいは第三の要因が両方を支えているのか、を現在の研究では断言できない。Leslie(1987)のメタ表象: 現実の表象と仮想・信念の表象を同時に保持し、混同せずに操作する高次認知能力理論に基づけば [4]、想像上の友達も心の理論も、同じメタ表象能力を基盤に持つという解釈が最も整合的だろう。
性別・きょうだいとの関係
想像上の友達の出現には、性別差とひとりっ子かどうかの差が報告されることがある。
Hoff(2005)の研究では、想像上の友達は女児に多い傾向があり、ひとりっ子やきょうだいの少ない子に多いという結果が報告されている [5]。後者は、一人で過ごす時間が多い環境での代償的な社会的刺激として機能している、という解釈もできる。
ただし、この性別差や家族構成との関連は研究によって結果が一致しておらず、過剰な解釈には注意が必要だ。「ひとりっ子だから想像上の友達を持ちやすい」という解釈は一方でデータに沿っているが、他方で「ひとりっ子は孤独だから」という誤ったナラティブに接続されるリスクもある。
保護者はどう関わればよいか
想像上の友達に対する保護者の反応について、研究が一致して示すのは「否定しない」ことの重要性だ。「そんな子いない」「嘘をつかないで」という反応は、子どもの想像的な遊びの空間を閉じてしまい、コミュニケーションの回路を細くする。
一方で、想像上の友達を過剰に「現実の一員」として扱う必要もない。「○○ちゃんのご飯を用意しなきゃいけないの?」という問いに大人が真剣に悩む必要はなく、「○○ちゃんも来るんだね」と流れに乗りながら、空想の世界を子どもが主導する形にしておくのが自然な関わりだ。
想像上の友達が消える時期は、多くの場合7歳前後と言われる。学校という現実の社会関係が豊かになる時期と重なっている。消えることを心配する必要はなく、逆に無理に「卒業」させようとする必要もない。
Memoriのような記録ツールで、想像上の友達とのやり取りを書き留めておくと、後から振り返った時に子どもの当時の世界観を再発見できる素材になる。育児記録の中でも、こうした言語・空想の記録は写真と違う質の記憶を残してくれる。
病気のサインではないか、という不安について
想像上の友達を精神的問題の兆候として心配する保護者もいる。結論から言えば、定型発達の子における想像上の友達は、精神的問題とは関連しない。むしろ逆方向の関連(心の健康・社会的能力との正の相関)が報告されている [1,2]。
一方で、全く異なる文脈での「声が聞こえる」「見えないものが命令する」は、想像上の友達とは別の現象であり、専門家への相談が適切だ。両者を混同する必要はない。判断に迷う場合は、子どもがその「友達」との関係を楽しんでいるか、日常生活に支障が出ているかを基準にするとよい。
まとめ
想像上の友達は、就学前児の相当数に見られる、定型的な現象だ [1]。心の理論の発達と正の相関を持つが、その因果の方向は未確定であり、「持つ子が優れている」という単純化には注意が必要だ [2,3]。
保護者の関わりとしては、否定もせず過剰化もせず、子どもの空想の主導権を子どもに残す形が自然だ。病気の証拠でも才能の証拠でもなく、子どもの想像力が豊かに機能している様子として受け取ることが、最も現実に即した見方だ。
References
- Taylor M. Imaginary Companions and the Children Who Create Them. New York: Oxford University Press; 1999.
- Taylor M, Carlson SM. The relation between individual differences in fantasy and theory of mind. Child Dev. 1997;68(3):436–455. doi:10.1111/j.1467-8624.1997.tb01950.x. PMID: 9249959.
- Taylor M, Carlson SM, Maring BL, Gerow L, Charley CM. The characteristics and correlates of fantasy in school-age children: imaginary companions, impersonation, and social understanding. Dev Psychol. 2004;40(6):1173–1187. doi:10.1037/0012-1649.40.6.1173. PMID: 15535765.
- Leslie AM. Pretense and representation: the origins of "theory of mind." Psychol Rev. 1987;94(4):412–426. doi:10.1037/0033-295X.94.4.412.
- Hoff EV. Imaginary companions, creativity, and self-image in middle childhood. Creat Res J. 2005;17(2–3):167–180. doi:10.1080/10400419.2005.9651477.