リード
風邪をひいた数日後、子どもの足首から膝にかけて紫色の点々が広がっていた。痛みを訴えながら歩くのを嫌がる。この状況に遭遇した保護者の多くが、最初は何が起きているのかわからない。
これは「IgA血管炎」(旧称:ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、HSP)という小児特有の血管炎の典型的な発症の仕方だ。大半は自然軽快するが、腎臓への合併症(紫斑病性腎炎)が長期的に重要なポイントになる。
IgA血管炎とはどういう疾患か
IgA血管炎は、小血管に免疫複合体: 抗原と抗体が結合した複合体。血管壁に沈着して炎症を引き起こす(IgAを中心とした沈着)が生じることで引き起こされる全身性血管炎だ。小児の血管炎では最も多く、発症年齢は2〜11歳に多い。有病率は小児10万人あたり13〜20人と報告されている [6]。
4つの主な症状(主徴):
- 紫斑: 下肢・臀部に好発する触知可能な非血小板減少性紫斑: 血小板の数が正常であるにもかかわらず生じる紫色の皮膚出血斑。血小板数は正常。
- 関節痛・関節炎: 膝・足首に多い。歩行が痛くてできないことも。
- 腹痛: 腸管の血管炎によるもの。腸重積の合併も報告されている。
- 腎炎(紫斑病性腎炎): 血尿・タンパク尿として現れる。
2010年に改訂されたEULAR/PRINTO/PRESの診断基準では、「触知可能な紫斑(必須)」に加え、上記のうち1つ以上が揃えば診断が成立する [2]。
自然経過と再発
IgA血管炎の大半は、4〜6週以内に主症状が軽快する良性疾患だ。入院が必要になるケースもあるが(重症腹痛、腎症進行など)、治療の主体は安静と症状に対する対症療法だ。
再発は約30〜40%に起こるとされる。再発は多くが初回エピソードより軽症で、自然軽快することが多い。とはいえ、再発時も症状の記録と受診が重要になる。
コルチコステロイド: 副腎皮質から分泌されるホルモンを化学合成した抗炎症・免疫抑制薬の総称は、重症の腹痛や腎炎の進行がある場合に使用されるが、軽症例では推奨されていない。NSAIDs: 非ステロイド性抗炎症薬の総称。イブプロフェン等が代表例(イブプロフェン等)は関節痛の緩和に使われるが、腎機能への影響に注意が必要な場合もあり、医師の指示に従う。
紫斑病性腎炎 — 長期経過で最も重要な合併症
IgA血管炎において、長期的に最も重要なのは腎症(紫斑病性腎炎)への進展だ。合併率は30〜50%と報告されており [3,4]、多くは血尿・タンパク尿という形で現れる。
腎症の大半は自然軽快するが、一部の例では慢性腎不全へ進展することがある。30年以上の長期追跡研究では、慢性腎不全へ進展する例は約2〜5%とされる [4]。早期に検知して専門家と連携すれば、予防的介入が可能なケースもある。
このため、IgA血管炎と診断された後1〜3ヶ月間は、定期的な尿検査が推奨される。尿に血やタンパクが出ていないかを確認することが、長期的な腎予後を守るための核心的な行動だ。
家庭でのモニタリング
保護者が自宅で注意すべき「再受診の目安」を以下に示す。
- 尿が赤い・ピンク色になった: 肉眼的血尿の可能性。早めに受診。
- 尿が泡立つ: 大量タンパク尿のサインのことがある。
- 顔や手がむくんでいる: 腎臓からのタンパク喪失(ネフローゼ: 腎臓の障害により大量のタンパク質が尿中に漏れ出し、浮腫や低アルブミン血症を来す状態)の可能性。
- 腹痛が激しい・嘔吐を繰り返す: 腸重積などの合併を疑う。
- 紫斑が体幹・顔面に広がる: 稀だが重症化の可能性。
症状の推移(紫斑の広がり・腹痛の程度・関節の動き)を日付とともに記録しておくと、再診時の情報提供に役立つ。「先週より多い・少ない」という変化の傾向は、保護者の継続的な観察によってしか把握できない。
まとめ
IgA血管炎の急性期は多くが自然軽快する。長期管理で重要なのは腎臓への合併症の監視だ。診断後数ヶ月の定期尿検査と、家庭でのモニタリングが、予後を守る実践的な行動になる。「下肢の紫斑」という視覚的なサインは早期受診につながりやすいが、その後の経過観察こそがこの疾患への適切な向き合い方といえる。
References
- Tizard EJ, Hamilton-Ayres MJ. Henoch Schonlein purpura. Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2008;93(1):1–8. doi:10.1136/adc.2005.083550. PMID: 18208968.
- Ozen S, Pistorio A, Iusan SM, et al. EULAR/PRINTO/PRES criteria for Henoch-Schönlein purpura, childhood polyarteritis nodosa, childhood Wegener granulomatosis and childhood Takayasu arteritis. Ann Rheum Dis. 2010;69(5):798–806. doi:10.1136/ard.2009.116095. PMID: 20418544.
- Mir S, Yavascan O, Mutlubas F, Yeniay B, Sonmez F. Clinical outcome in children with Henoch–Schönlein nephritis. Pediatr Nephrol. 2007;22(1):64–70. doi:10.1007/s00467-006-0244-x. PMID: 17028874.
- Davin JC, Coppo R. Henoch-Schönlein purpura nephritis in children. Nat Rev Nephrol. 2014;10(10):563–573. doi:10.1038/nrneph.2014.126. PMID: 25113611.
- 日本小児科学会. ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の診療指針. 2013.
- Saulsbury FT. Henoch-Schönlein purpura. Curr Opin Rheumatol. 2001;13(1):35–40. doi:10.1097/00002281-200101000-00007. PMID: 11148714.