リード
虫刺されをかいた傷が翌朝には水ぶくれに変わり、2日後には顔に同じ病変が飛んでいた。「とびひ」という名前はこの経過をよく表している。夏に多い皮膚感染症で、子どもに特に多い。
感染が「飛ぶ」理由は単純で、病変部の分泌液や破れた水疱が皮膚に接触すると感染が広がるからだ。抗菌薬の使い方と家庭内での行動が、経過を左右する。
2タイプのとびひ
伝染性膿痂疹: 細菌感染による水疱・かさぶたが皮膚表面に生じ、接触で広がる急性皮膚感染症(いわゆる「とびひ」)には、主に2つの型がある。
水疱性膿痂疹(全体の約70%): 黄色ブドウ球菌が産生する外毒素: 細菌が体外に分泌するタンパク性の毒素(表皮剥脱毒素)が表皮の細胞間接着を障害することで、透明〜黄色の水疱が形成される。痒みが強く、破れると他の部位に「飛ぶ」。発熱は軽度または欠如することが多い。
痂皮性膿痂疹(残りの約30%): A群溶連菌(または黄色ブドウ球菌との混合感染)が原因で、水疱が破れた後に蜂蜜色の痂皮(かさぶた)が形成される。より炎症が強く、発熱・リンパ節腫脹を伴うことがある [1,2]。
2つの型では治療戦略の細部が異なる。痂皮性のタイプでは溶連菌が関与することがあり、リウマチ熱予防の観点から十分な期間の抗菌薬投与が重要になる。
抗菌薬の選択と服用期間
とびひの第1選択薬はセファレキシンなどの第1世代セフェム系抗菌薬だ。7〜10日間の投与で約90%が治癒する [1]。外用抗菌薬(ムピロシン等)も、限局した病変では有効だが、広範な病変や全身症状を伴う場合は経口薬が必要になる。
近年注目されているのが市中感染型MRSA: メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略称。通常の抗菌薬が効きにくい耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の関与だ。日本でも地域差はあるが、セフェム系が効きにくいケースが増加傾向にある [5]。「通常の抗菌薬で治りが悪い」と感じた場合は、培養・感受性検査の追加を医師に相談する選択肢がある。
処方された抗菌薬は、症状が改善しても処方日数分を飲み切ることが重要だ。特に溶連菌が関与する痂皮性のタイプでは、不完全な投与はリウマチ熱のリスクと関連しうる。
家庭内で感染が広がらないために
とびひが「飛ぶ」経路は、主に患部への直接接触と、タオル・衣類などを介した間接接触だ。家庭内での対策として、次の点が重要になる。
爪を短く保つ: 患部をかいた手で他の皮膚に触れることで感染が広がる。爪を短く切り、かくことを防ぐ。
タオル・衣類の共用を避ける: 患部に触れたタオルや衣類は、洗濯で他の家族のものと分けることが望ましい。
患部を覆う: ガーゼや包帯で病変を覆うことで、直接接触による感染拡大を減らせる。
保育園・学校への登園については、施設によって「ガーゼで覆えば登園可」「抗菌薬開始から○日後に登園可」など基準が異なる。事前に施設のルールを確認しておくことで、急な対応に慌てずに済む。
受診のタイミング
次のような状況は、早めに受診することを検討する指標になる。
- 病変が急速に広がっている
- 38度以上の発熱や全身倦怠感を伴う
- 3日以上外用薬を使っても改善しない
- 顔・目の周囲に病変がある
乳児では、広範なとびひが「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群: 黄色ブドウ球菌の毒素が皮膚全体に作用して広範な皮膚剥離を起こす重篤な感染症(SSSS)」という全身性疾患に進展することがまれにある。皮膚全体が赤くなり剥けてくる場合は速やかに受診する。
まとめ
とびひは適切な抗菌薬治療と家庭内での感染制御で大半が短期間に回復する。2つの型を理解し、処方された薬を飲み切り、家族への二次感染を防ぐことが治療の3本柱だ。症状の経過を日付・病変の広がりとともに記録しておくと、受診時の情報提供に役立つ。
References
- Hartman-Adams H, Banvard C, Juckett G. Impetigo: diagnosis and treatment. Am Fam Physician. 2014;90(4):229–235. PMID: 25250997.
- Nardi NM, Schaefer TJ. Impetigo. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023. PMID: 32119383.
- Bowen AC, Tong SYC, Andrews RM, et al. Short-course oral co-trimoxazole versus intramuscular benzathine benzylpenicillin for impetigo in a highly endemic region: an open-label, randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet. 2014;384(9960):2132–2140. doi:10.1016/S0140-6736(14)60744-3. PMID: 25172578.
- Moran GJ, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Methicillin-resistant S. aureus infections among patients in the emergency department. N Engl J Med. 2006;355(7):666–674. doi:10.1056/NEJMoa055356. PMID: 16914702.
- 日本皮膚科学会. 皮膚感染症診療ガイドライン2009. 日皮会誌. 2009;119(6):1133–1193.