リード
保育園から「水いぼがあるのでプールは禁止」と言われた。皮膚科で「取りましょう」と言われたが、子どもが痛がるのが気になる。一方で「ほうっておいても治る」という話も聞く。
この記事では、伝染性軟属腫(水いぼ)について、「治療する」「待つ」という2つの選択肢をエビデンスの観点から整理する。
水いぼとはどういう疾患か
水いぼは、ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス(MCV)による皮膚感染症だ。直径2〜5mm程度の光沢のある丘疹: 皮膚から少し盛り上がった、直径1cm未満の小さな隆起性病変が、体幹・四肢・顔面に散在する。免疫能が正常な子どもでは、多くの場合自然消失する良性疾患である。
乳幼児での有病率はおよそ5〜8%で、保育施設を通う子どもで高い傾向にある [2]。接触感染(皮膚同士の直接接触、タオルや遊具などを介した間接接触)で広がる。
自然軽快の実際
水いぼは放置しても消えると言われているが、それには時間がかかる。有病率を追った縦断研究では、18ヶ月以内に約65〜70%が自然消失し、24ヶ月以内にほぼ全例が消失するとされる [2]。つまり、自然軽快は「すぐ」ではなく「1〜2年かけて」という経過になる。
待機中に数が増えること(個数の増加は経過中に起こりうる)、アトピー性皮膚炎のある子どもでは湿疹が悪化する可能性があること [3]、も念頭に置く必要がある。ただし、免疫能が正常な子どもで全身に広がったり重篤化したりすることは稀だ。
治療法のエビデンスは何を言っているか
水いぼの治療法として実施されているのは、主に次のものだ。
- ピンセット(鑷子)による機械的除去: 最も広く行われているが、痛みと処置への恐怖感が伴う
- 硝酸銀ペースト・液体窒素: 焼灼による方法
- カンタリジン(スパニッシュフライ由来の発泡剤): 日本では保険適用外
- イミキモドクリーム: 免疫賦活: 免疫応答を高めて病変の消退を促す作用。特に難治性例で使われる
2017年に更新されたコクランシステマティックレビュー: 複数の臨床研究を統合して治療効果を総合的に評価した研究論文は、これらの治療法について包括的に評価した。その結論は、「積極的治療が watchful waiting(経過観察)よりも有意に優れるというエビデンスは現時点では不十分」というものだ [1]。痛みや瘢痕: 傷が治癒した後に残る線維性の組織変化といった有害事象を差し引くと、多くの治療法のトレードオフは明確ではない。
治療を選択する根拠になりうる状況として、数が多い・増加が著しい・アトピー性皮膚炎を悪化させている・アトピーの子に周囲から感染させてしまっているといった事情があれば、医師と相談しながら選択肢を検討することになる。
保育園・学校での扱いはどうなっているか
日本では「水いぼがあるとプールに入れない」という慣行が一部の施設で続いてきた。しかし、日本小児皮膚科学会は「水いぼはプール禁止の対象ではない」という立場を示している [5]。
水いぼは学校保健安全法の「出席停止の対象疾患」にも含まれていない。プールの水を介した感染よりも、皮膚接触・タオルの共有が主たる感染経路であり、プール自体を禁止する根拠に乏しい。
保護者が保育園・学校から登園・入水制限を求められた場合、学会の見解を根拠に施設側と対話するという選択肢がある。医師に「学校への説明文を書いてほしい」と依頼することも実際に行われている。
「治療しない」を選ぶとき
コクランレビューの結論を踏まえれば、「治療しない」は医学的に根拠のある選択肢だ。特に、次のような状況では待機の方が子どもへの負担が少ない可能性がある。
- 年齢が小さく、処置中の体動が激しい
- 痛みへの恐怖心が強く、医療機関での経験が今後の受診態度に影響しうる
- 数が少なく、悪化傾向がない
一方、「治療する」という選択も不合理ではない。学校や保育園のルールとの兼ね合い、数が多くなってきた場合、保護者が待つことへの不安が強い場合など、治療の動機はさまざまだ。
大切なのは、「どちらが正解か」ではなく、エビデンスの現状を把握したうえで、子どもの状態と生活環境を考慮した判断をすることだ。
まとめ
水いぼは自然軽快する良性疾患であり、積極的治療の優位性を示す強いエビデンスはまだない。治療するかどうかは、子どもの年齢・痛みへの耐性・施設の方針・保護者の選好などを含めた文脈で決まる。プール禁止の根拠も医学的には薄い。この知識を持っておくと、受診時の対話の質が変わる。
References
- van der Wouden JC, van der Sande R, Kruithof EJ, Sollie A, van Suijlekom-Smit LW, Koning S. Interventions for cutaneous molluscum contagiosum. Cochrane Database Syst Rev. 2017;5(5):CD004767. doi:10.1002/14651858.CD004767.pub4. PMID: 28513067.
- Olsen JR, Gallacher J, Piguet V, Francis NA. Epidemiology of molluscum contagiosum in children: a systematic review. Fam Pract. 2014;31(2):130–136. doi:10.1093/fampra/cmt075. PMID: 24297656.
- Silverberg NB. Molluscum contagiosum virus infection can trigger atopic dermatitis disease onset or flare. Cutis. 2000;65(4):247–251. PMID: 10780964.
- Hanna D, Hatami A, Powell J, et al. A prospective randomized trial comparing the efficacy and adverse effects of four recognized treatments of molluscum contagiosum in children. Pediatr Dermatol. 2006;23(6):574–579. doi:10.1111/j.1525-1470.2006.00312.x. PMID: 17155994.
- 日本小児皮膚科学会. 伝染性軟属腫(水いぼ)の取り扱いに関する見解. 2010.