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赤ちゃんが百日咳にかかる前に — Cocooning戦略と家族の追加接種

読了時間 約 5 分English version available
対象
新生児・乳児の保護者、祖父母と同居・頻繁に接触する家族
文字数目安
1,400字
ステータス
ドラフト v1

3行まとめ

  • ·乳児百日咳は先進国でも死亡率1〜4%に達し、典型的な「ウープ」咳が出ない代わりに無呼吸発作として現れるため、気道症状よりも「咳の後に顔色が変わる」という観察が重要になる
  • ·DTaPワクチンによる免疫は5〜7年で保護レベルを下回り感染源となりうる大人が周囲にいるという構造が乳児期の最大のリスクであり、コクーニング戦略と妊婦Tdap接種が空白期間を埋める
  • ·妊娠中のTdap接種で乳児の百日咳による入院リスクが91%低下したという英国の観察研究は、「子どもが打てない期間を大人の免疫で守る」という考え方の最も強力な根拠だ

目次

  1. リード
  2. 百日咳という疾患の特殊性
  3. 免疫はなぜ消えるのか
  4. Cocooning戦略と妊婦接種
  5. 家庭でできること
  6. まとめ
  7. References

リード

生後2ヶ月の乳児は、まだ百日咳ワクチンを1回も打っていない。DTaP初回接種は生後2〜3ヶ月が標準だからだ。問題は、その空白の時間に百日咳ウイルスが接近してくることがある、という点にある。

感染源として多いのは、子どもではなく大人だ。免疫が消退した親や祖父母が感染し、「長引く咳」として気づかないまま、新生児と同じ空間で過ごす。乳児では「咳が出ない」ことさえあり、代わりに無呼吸発作: 呼吸が一時的に停止する発作。乳児百日咳では激しい咳の代わりにこれが現れ、酸欠で顔色が変わるサインになる(apnea)として現れることがある。乳児百日咳は、先進国でも死亡率が1〜4%に達する [1]。

「コクーニング戦略: まだワクチンが打てない新生児・乳児を、周囲の家族・保育者が先に接種することで「繭(まゆ)」のように包んで守るという公衆衛生上の発想」という考え方がある。ワクチン未完了の乳児を守るために、周囲の大人が接種で「繭」を作るアプローチだ。この記事では、百日咳の特殊性と、家族接種の実際の意味を整理する。


百日咳という疾患の特殊性

百日咳菌(Bordetella pertussis)が引き起こす感染症は、3つの病期に分かれる。

カタル期(1〜2週): 鼻水や軽い咳。普通の風邪と区別がつかず、この時期が最も感染力が強い。

痙咳期(2〜6週): 「ウープ(whoop)」と呼ばれる笛のような吸気音を伴う激しい咳の発作が特徴。ただし乳児では典型的なウープが出ないことも多く、代わりに咳の後に呼吸が止まる(apnea)という危険な経過をたどる。

回復期(数週間): 徐々に軽快するが、咳が完全に消えるまで数ヶ月かかることもある。「百日咳」という名は、この長い経過に由来する。

成人の百日咳は「2週間以上続く咳」として現れることが多く、特別な症状がないため気づかれにくい。一方、乳児に感染すると重症化のリスクが高く、入院・ICU管理が必要になるケースも少なくない。


免疫はなぜ消えるのか

DTaP(ジフテリア・破傷風・百日咳混合)ワクチンは日本では生後2〜3ヶ月から定期接種が行われる。有効性は高いが、免疫の持続期間には限界がある。自然感染後の免疫も同様で、接種または感染から5〜7年で保護的なレベルを下回るとされる [2]。

これは「再接種しない限り、成人は百日咳に感染しうる」ことを意味する。先進国での百日咳の再流行が報告されているのはこのためで [3]、2024年は日本でも届け出患者数が増加した [4]。

子どもは定期接種スケジュール通りに打てば一定の保護を得られる。問題は、接種が完了するまでの乳児期初期に、感染源となりうる大人が身近にいるという構造だ。


Cocooning戦略と妊婦接種

この問題への対策として、「コクーニング戦略」が提唱されている。新生児と濃厚接触する可能性のある人々(両親、同居の祖父母、保育者など)が、出産前後にTdap(成人用破傷風・ジフテリア・百日咳混合)ワクチンを接種することで、新生児の周囲に感染しにくい環境を作ろうとするアプローチだ。

より直接的なエビデンスとして、妊娠中の母親へのTdap接種がある。英国での観察研究では、妊娠中にTdapを接種した母親の乳児では、百日咳による入院リスクが91%低下したと報告されている [5]。母体の抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、生後早期の保護に働くと考えられている。

Tdapは成人が過去にTdワクチン(破傷風・ジフテリア)を接種していても、百日咳の追加免疫として有効だ [6]。「子どもは打ったが、自分は何十年も打っていない」という保護者は、接種歴を確認する価値がある。


家庭でできること

ワクチン接種以外にも、発症前後に取れる行動がある。

  • 新生児の周囲で2週間以上の咳が続いている大人がいる場合、百日咳の可能性を念頭に受診を検討する。PCRや抗体検査で確認できる。
  • 乳児のDTaP初回接種(生後2〜3ヶ月)が完了するまでの期間は、感染者との近距離接触を可能な限り避ける選択肢がある。
  • 「乳児が咳の後に顔色が変わる」「呼吸が止まるように見える」場合は、速やかに救急受診を。無呼吸発作は迅速な対応が必要になる。

記録という観点でも、乳児の体調変化を日付・症状・経過とともに記録しておくことが、受診時の情報提供に役立つ。咳の様子や呼吸の変化は、口頭で説明しにくいことが多い。


まとめ

百日咳は「昔の病気」ではなく、免疫消退した成人を感染源として現在も流行を繰り返している。最もリスクが高いのは、ワクチン未完了の乳児期初期だ。コクーニング戦略と妊婦へのTdap接種は、その空白を埋めるための選択肢として位置づけられる。乳児が自分で自分を守れない期間、周囲の大人の免疫状態が直接的な意味を持つ。


References

  1. Cherry JD. Epidemic pertussis in 2012 — the resurgence of a vaccine-preventable disease. N Engl J Med. 2012;367(9):785–787. doi:10.1056/NEJMp1209051. PMID: 22931315.
  2. Wendelboe AM, Van Rie A, Salmaso S, Englund JA. Duration of immunity against pertussis after natural infection or vaccination. Pediatr Infect Dis J. 2005;24(5 Suppl):S58–61. doi:10.1097/01.inf.0000160914.59160.41. PMID: 15876927.
  3. Skoff TH, Hadler S, Hariri S. The epidemiology of nationally reported pertussis in the United States, 2000–2016. Clin Infect Dis. 2019;68(10):1634–1640. doi:10.1093/cid/ciy757. PMID: 30212798.
  4. 国立感染症研究所. 百日咳 感染症発生動向調査. IASR. 2024.
  5. Amirthalingam G, Andrews N, Campbell H, et al. Effectiveness of maternal pertussis vaccination in England: an observational study. Lancet. 2014;384(9953):1521–1528. doi:10.1016/S0140-6736(14)60686-3. PMID: 25037990.
  6. Gall SA, Myers J, Picicchero M. Maternal immunization with tetanus-diphtheria-pertussis vaccine. Am J Obstet Gynecol. 2011;204(4):334.e1–5. doi:10.1016/j.ajog.2010.11.024. PMID: 21186366.

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