リード
風疹: 風疹ウイルスによる感染症で、発熱と細かい発疹、リンパ節腫脹を起こす。三日ばしかとも呼ばれるは子どもがかかっても「発熱と発疹が数日続く軽い病気」で終わることが多い。しかし妊娠初期の女性が感染した場合、胎児に深刻な影響を与えることがある——先天性風疹症候群: 妊娠初期に母が風疹に感染することで、胎児に心疾患・白内障・難聴などの先天異常が生じる病態(CRS)だ。
「自分は子どもだからかかっても軽い」「周囲に妊婦がいない」という認識では、CRSを防ぐ視点に立てない。この感染症の問題は、感染した本人ではなく、その人が接触しうる妊婦の胎児に生じることにある。
先天性風疹症候群(CRS)とは何か
妊娠初期(特に8週以内)の女性が風疹ウイルスに感染した場合、胎盤: 妊娠中に子宮内にできる臓器で、母と胎児の間で酸素・栄養・老廃物・抗体などをやり取りするを通じてウイルスが胎児に到達し、先天異常を引き起こす。その影響率は妊娠1〜8週の感染で85〜90%とされており [1]、3主徴は先天性心疾患・白内障・難聴だ。
妊娠週数が進むにつれてリスクは低下し、20週以降の感染では胎児への影響はほぼないとされる。しかし妊娠初期——多くの場合、妊娠に気づいていない段階も含まれる——での感染が最も危険という点が、予防を難しくしている [1,2]。
無症状の感染者が感染源になりうることも重要だ。風疹の感染者の20〜50%は無症状とされており [2]、「発疹がないから大丈夫」は成立しない。
日本特有の問題:接種歴のない世代
多くの国でMMRワクチン(麻疹・おたふく・風疹の3混合)を男女ともに定期接種している中、日本では1977〜1994年の間、風疹ワクチンは中学生女性にのみ接種されていた。この期間に生まれた男性(特に1962〜1979年生まれ)は、風疹ワクチンを定期接種として受けていない世代として残っている。
この「免疫空白世代」の男性が主な感染源となり、2013〜2014年および2018〜2019年に大規模な風疹流行が発生、複数のCRS患者が報告された [3,4]。
第5期定期接種事業(2019〜2024年)
2018〜2019年の流行を受け、厚生労働省は1962〜1979年生まれの男性を対象に、2019〜2024年の5年間にわたる無料抗体検査・ワクチン接種事業(第5期定期接種)を実施した [4]。この事業は2024年3月に終了しているが、対象世代への接種の推進が日本の風疹対策の大きな柱のひとつだったことは記録しておく意味がある。
子どもの定期接種が社会免疫を支える
MRワクチン(麻疹・風疹混合)は定期接種として1期(1歳)・2期(就学前年度)の2回接種が行われる。風疹成分を含むワクチン2回接種の防御率は97〜99%以上とされる [2]。
子どもの接種を完了させることは個人の保護にとどまらず、妊婦の周囲での感染連鎖を断つ集団免疫の形成に貢献する。「なぜ子どもにMRワクチンを打つのか」という問いの答えには、CRS予防という社会的意味が含まれている。
親にできること
- 子どものMRワクチン1期・2期が母子手帳に記録されているかを確認する。
- 妊娠希望の場合は事前に風疹抗体検査を受け、必要に応じてワクチン接種を行う(妊娠中のワクチン接種は禁忌のため、妊娠前に完了させる)。
- 家庭内に妊娠中の方がいる場合、手洗いと咳エチケットの徹底が風疹を含む呼吸器感染症全般の予防につながる。
まとめ
風疹対策の核心は「自分が軽くすむかどうか」ではなく「妊婦や胎児を守るための集団免疫を維持できるかどうか」にある。子どものMRワクチン2回完了は、個人の予防であると同時に、妊娠初期の誰かを守ることにつながっている。接種歴の記録と確認は、その貢献の最初の一歩だ。
References
- Bouthry E, Picone O, Hamdi G, Grangeot-Keros L, Ayoubi JM, Vauloup-Fellous C. Rubella and pregnancy: diagnosis, management and outcomes. Prenat Diagn. 2014;34(13):1246–1253. doi:10.1002/pd.4467. PMID: 25056283.
- Reef SE, Plotkin S, Cordero JF, et al. Preparing for elimination of congenital rubella syndrome (CRS): summary of a workshop on CRS elimination in the United States. Clin Infect Dis. 2000;31(1):85–95. doi:10.1086/313928. PMID: 10913400.
- Yoshida N, Uchida K, Kase T. Rubella vaccines in Japan: time to act now. Lancet Infect Dis. 2015;15(8):880–881. doi:10.1016/S1473-3099(15)00085-0. PMID: 26194031.
- 厚生労働省. 風疹に関する特定感染症予防指針(第5期). 2018.
- 国立感染症研究所. 風疹及び先天性風疹症候群の発生動向. IASR. 2024.
- Kakoulidou M, Forsgren M, Lewensohn-Fuchs I, Johansen K. Seropositivity for rubella in Swedish women after change of vaccination strategy. Vaccine. 2010;28(3):774–778. doi:10.1016/j.vaccine.2009.10.091. PMID: 19878751.