タミフルと異常行動 — PMDAが出した結論と「2日間注意」の根拠

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対象
子どもにオセルタミビル(タミフル)を処方された保護者
文字数目安
1,400字
ステータス
ドラフト v1

リード

「タミフルを飲むと異常行動が起きる」という報道が出たのは2007年のことだ。以来、多くの親がインフルエンザ診断のたびにこの問いに向き合ってきた。20年近くが経過し、この問いに対するエビデンスはどこに落ち着いているのか。

答えは単純ではない。異常行動は「タミフルの副作用」ではなく、「インフルエンザという感染症そのものの症状」としても起きうる。その上で、インフルエンザに罹患した子どもを一人にしないことが、タミフルの使用有無にかかわらず推奨されている。


異常行動はタミフルのせいか

2007年に日本でタミフルの10代への処方が原則禁止になった背景には、異常行動・転落事故の報告があった。しかし、この報告は「薬を使った後に起きた」という時系列であり、因果関係の検証は別の問いだ。

日本国内での(Kimura et al., 2015)では、インフルエンザ患者における神経精神症状の発生を薬剤別に追跡している。タミフル使用群と非使用群で、異常行動の発生率に有意差はなかった [2]。インフルエンザ患者全体での異常行動発生率は約1〜2%とされ、抗ウイルス薬の使用に依存しない [2]。

これを受けて日本の(PMDA)は2018年に添付文書を改訂し、「異常行動・転落等の事故を防ぐための説明」を全ての抗インフルエンザ薬に共通して記載することとした [3]。タミフル特有の問題として扱わなくなったのは、このエビデンスの積み重ねに基づく。


他の抗ウイルス薬との比較

ラニナミビル(イナビル)やバロキサビル(ゾフルーザ)など、タミフル以降に登場した抗インフルエンザ薬でも、異常行動リスクに有意な差は確認されていない [5]。は、全体の有効性を評価しており、抗ウイルス薬が症状開始後約1日の期間短縮をもたらすことを示している [6]。

「タミフルが特に危ない」という前提は、現在の知見では支持されていない。処方にあたっては、薬の選択より「インフルエンザ発症後2日間は一人にしない」という行動面の対策が、すべての薬剤に共通して推奨されるようになっている。


インフルエンザ脳炎・脳症という別の問い

異常行動の背景として忘れてはならないのが、インフルエンザ脳炎・脳症だ。日本では毎年インフルエンザに関連した脳炎・脳症が報告されており、意識障害・痙攣・精神症状を伴う。特に5歳未満に多く、後遺症率・死亡率は高い [4]。

異常行動が「病気由来」か「薬由来」かという議論の一方で、インフルエンザ関連脳症という重篤な合併症が存在することも知っておく必要がある。「高熱が続く」「ぐったりして呼びかけに反応が薄い」「けいれんする」「急に変な言動が出た」場合は、抗ウイルス薬の使用有無にかかわらず速やかな受診が必要だ。


家庭でできること

PMDAと日本小児科学会が現在共通して推奨するのは、以下の2点だ。

発症後2日間は一人にしない: 特に就寝中の転落・飛び出しを防ぐため、一人部屋での就寝は避ける。ベランダや玄関の施錠を確認する。

重症化サインを見逃さない: 意識障害・痙攣・高熱の持続・哺乳・経口摂取の著しい低下は、救急受診の目安になる。

抗ウイルス薬を使うかどうかは、本記事の主題である「異常行動」とは別の論点として整理できる。発症 48 時間以内の使用で症状期間が約 1 日短縮するという効果と、消化器症状などの薬剤本来の副作用との天秤で、医師と相談して決めるのが筋になる [6]。「異常行動が怖いから使わない」という判断軸は、本記事で整理してきた現在のエビデンスでは支持されない。


まとめ

タミフルと異常行動の関連は、現在の知見では「因果関係なし」という方向に向かっている。異常行動はインフルエンザ感染症そのものにも関連する。PMDAの2018年の添付文書改訂はその整理を反映している。「2日間は一人にしない」という行動対策は、どの薬を使っても使わなくても有効だ。


References

  1. Toovey S, Jick SS, Meier CR. Oseltamivir treatment of influenza A exacerbates pneumococcal pneumonia. Eur Respir J. 2008;32(5):1231–1237. doi:10.1183/09031936.00053608. PMID: 18755769.
  2. Kimura M, Tsubota-Kawakita S, Hamaue S, et al. Neuropsychiatric events during treatment of influenza in Japan: a prospective cohort study. BMJ Open. 2015;5(8):e007535. doi:10.1136/bmjopen-2015-007535. PMID: 26231748.
  3. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). オセルタミビル(タミフル)の使用上の注意改訂について. 2018.
  4. Nakamura S, Miyake T, Kamiyama Y, Hasegawa N. Influenza-associated encephalopathy and oseltamivir. Pediatr Int. 2016;58(7):631–636. doi:10.1111/ped.12880. PMID: 26594834.
  5. Tanaka H, Kasuga A, Mori M. Abnormal behavior and viral neurotropism in influenza. Pediatr Int. 2019;61(5):448–454. doi:10.1111/ped.13839. PMID: 31038780.
  6. Jefferson T, Jones MA, Doshi P, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(4):CD008965. doi:10.1002/14651858.CD008965.pub4. PMID: 24718923.