リード
子どもの写真を SNS に投稿する。誰もが一度は考える行為だ。成長の記録を家族と共有したい、子どもの可愛らしさを残したい。その動機は誠実で、責める理由もない。
しかし同時に、ある問いが頭の片隅に残る。この写真を 15 年後に本人が見たら、どう思うか。今はまだ「同意」という概念が本人に届かない年齢なのに、デジタルの足跡は今、刻まれている。
「シェアレンティング(sharenting)」——親が子の情報・写真・日常を SNS で共有する行為——は、ここ 10 年で広く普及した。その行為に内在する法的・倫理的な問いを正面から検討した研究が、少しずつ蓄積されつつある。
Steinberg(2017)が整理した法的空白
法学者 Stacey B. Steinberg は、2017 年の論文「Sharenting: Children's Privacy in the Age of Social Media」において、親の共有権と子のプライバシー権の衝突を初めて体系的に論じた [1]。
Steinberg の指摘の核心は、親は子の代理として同意を行使できるが、子のデジタル足跡の形成については、子自身が将来的に取り消しを求める可能性があるという点にある。多くの国の法体系では、保護者に広範な監護権が認められており、子の情報をどこまで公開するかは親の判断に委ねられている。しかしこれは、子のプライバシー権が存在しないことを意味しない。
EU の一般データ保護規則(GDPR)には「忘れられる権利(right to erasure)」が含まれており、個人は自身のデータの削除を要求できる。子どもが成人した後、自分の幼少期の写真や情報の削除をプラットフォームに求めることは、制度上の可能性として存在する [1]。ただし実際の手続きは容易ではなく、削除が完全に達成されるとは限らない。
子の同意能力と発達的な観点
子がある行動に「同意できる」年齢になるのはいつか。この問いは医療倫理や法学の分野で長く議論されてきたが、デジタル情報の文脈では十分には論じられていない。
一般に、認知的・社会的な発達の文脈で「同意」が意味を持ち始めるのは、自己認識: 自分がどのような存在かを把握する能力で青年期以降に本格的に発達する・将来への視点・社会的評価への理解が統合される青年期以降とされる。幼児期の子どもは、写真が公開されることの長期的な社会的意味を理解できない。これは子どもの能力不足ではなく、発達段階の特性だ。
Brosch(2016)は Facebook を利用する保護者へのサーベイを通じて、81.4% の保護者が誕生日・卒業などの重要なイベントの写真を共有し、12.8% は子どもの病気や手術に関する情報も共有していることを示した [2]。病歴のような高感度の情報が保護者の判断で公開されるとき、将来の本人が知ったときにどう感じるか、という問いは残る。
Marasli et al.(2016)はトルコのサンプルで類似のパターンを確認しており、保護者の共有行動は文化横断的に見られる [3]。
デジタル足跡が未来に与える影響
SNS に投稿された子どもの情報は、削除されない限り長期間残る。プラットフォームのポリシー変更、アカウントハッキング、スクリーンショットによる拡散は、親が意図しない流通を生む可能性がある。
Lazard et al.(2019)は sharenting を「ネオリベラルな文脈における育児のアフェクティブな達成」として分析し、母親が sharenting を通じて自己の育児実践を正当化・可視化するプロセスを論じた [4]。投稿の動機が自己表現や社会的承認と結びついているとき、子のプライバシーへの配慮は副次的になりやすい、という構造を示唆している。
就職・進学・対人関係において、デジタル上の情報が検索の対象になる時代において、幼少期の情報の蓄積は、本人が意識していない形で将来の機会に影響する可能性がある。Fox & Hoy(2019)は、新たに母親となった女性が脆弱性の感情から sharenting に動かされやすく、その結果として子どもの個人識別情報(氏名・生年月日・写真)が不用意に公開されるリスクを論じた [5]。
UNCRC と子の権利
国連子どもの権利条約(UNCRC)第 16 条はプライバシーの権利を規定し、第 12 条は子が自分に関する事柄について意見を表明する権利を保障する。2021 年に採択された一般的意見第 25 号は、デジタル環境における子どもの権利を包括的に論じており、オンラインでの個人情報の処理においても子の最善の利益が考慮されるべきとしている [6]。
この規範的枠組みは、法的拘束力の程度が国により異なるが、「子の情報を保護者がどう扱うべきか」という議論の基準点として機能する。「UNCRC が言っているから禁止」ではなく、「子の将来の自己決定権を今どう配慮するか」という問いへの招待として読める。
保護者が持てる選択肢
研究が示すのは、禁止でも放任でもなく、情報の永続性と感度を意識した選択だ。
顔が特定できる写真を公開するか限定公開にするか。病歴・学校・居住地を含む情報をどこまで書くか。将来の本人が読んでも不快に思わないか。これらは、「今のつながりへの共有欲求」と「将来の本人への配慮」を両秤にかける作業だ。
育児記録を残したいという動機は正当だ。問題は残すことではなく、どこに・誰に公開するか、という設計にある。Memori のような育児記録アプリは、外部への公開と手元への記録を切り分ける選択肢を提供できる。記録の価値と公開のリスクは、必ずしも同じ器に入れなくていい。
まとめ
sharenting は悪い行為だと言いたいのではない。動機は誠実だし、家族間の共有と社会的な公開を混同しなければ、多くの問題は生じない。
ただ、投稿の前に一秒だけ問いを置くことは、研究が支持するほどの行為だ。「これを 15 年後の本人が見てどう思うか」という問いは、親としての過剰な自制ではなく、子の将来の自己決定権への配慮として機能する [1,6]。
情報は残る。だからこそ、何を残し、何を手元だけに置くかを、選ぶことができる。
References
- Steinberg SB. Sharenting: children's privacy in the age of social media. Emory Law J. 2017;66(4):839–884. https://scholarlycommons.law.emory.edu/elj/vol66/iss4/2/
- Brosch A. When the child is born into the internet: sharenting as a growing trend among parents on Facebook. New Educ Rev. 2016;43(1):225–236. doi:10.15804/tner.2016.43.1.19
- Marasli M, Suhendan E, Yilmazturk NH, Cok F. Parents' shares on social networking sites about their children: sharenting. Anthropologist. 2016;24(2):399–406. doi:10.1080/09720073.2016.11892031
- Lazard L, Capdevila R, Dann C, Locke A, Roper S. Sharenting: pride, affect and the day-to-day politics of digital mothering. Soc Pers Psychol Compass. 2019;13(4):e12443. doi:10.1111/spc3.12443
- Fox AK, Hoy MG. Smart devices, smart decisions? Implications of parents' sharenting for children's online privacy: an investigation of mothers. J Public Policy Mark. 2019;38(4):414–432. doi:10.1177/0743915619858290
- United Nations Committee on the Rights of the Child. General Comment No. 25 on children's rights in relation to the digital environment. CRC/C/GC/25. 2021. https://www.ohchr.org/en/documents/general-comments-and-recommendations/general-comment-no-25-2021-childrens-rights-relation