リード
0歳から写真を投稿されてきた子が、10年後に自分のインターネット上の姿を発見する。そこには、自分が選んでいない姿がある。
子どもの写真をSNSに投稿する行為——「シェアレンティング: sharenting。share(共有)とparenting(育児)を合わせた造語。保護者が子の写真や日常をSNSに広く投稿する行為とその文化」——は今や広く普及している。Nominet の調査(2019)では、保護者の75%が子の写真をSNSに投稿していると報告されている [1]。その多くは愛情の表現であり、記録の共有であり、何ら悪意のない行為だ。しかし子どもが成長し、自分のデジタルアイデンティティを意識し始める年齢になった時、その記録がどう感じられるかは別の問題だ。
子どもの視点から見たシェアレンティング
Brosch(2016)の研究は、子どもが自分の写真のSNS公開に対してどう感じるかを質的に調べ、「親に決められた自分の姿がある」という違和感を報告した [2]。Blum-Ross & Livingstone(2017)は、シェアレンティングの動機が親側の自己表現や育児記録にある一方、子の福祉への考慮が十分でないケースがあることを論じている [3]。
「デジタルアイデンティティの先行割り当て」という問題がある。子が自己物語を選ぶ前に、親が選んだ物語がインターネット上に存在してしまう。これは愛情の裏返しでもあるが、子の視点から見ると「同意なしに公開されてきた自分の歴史」だ。
EUのGDPR: General Data Protection Regulation、一般データ保護規則。EUで2018年に施行された個人データ保護の包括規制。日本企業にもEU居住者を扱う場合は適用される(一般データ保護規則)は、個人が自分のデータの削除を要求できる権利(忘れられる権利: right to be forgotten。自分に関する古い・不適切な情報の削除を求められる権利。EU司法裁判所判決とGDPRで明文化された、Article 17)を定めており、16歳未満の個人データ処理には保護者の同意を必要としている [4]。日本でも個人情報保護法の文脈で子どもの写真公開に関する議論が続いているが、法的規制は国際的にも整備途上だ。
オンライングルーミングのリスク
子どもがオンライン活動を本格的に始める時期と重なる別の問題がある。オンライングルーミング: online grooming。SNSやゲームのチャットを通じて信頼関係を築いた上で、子どもを性的被害や搾取に誘導する加害行為——信頼形成を通じて性的被害や搾取に誘導する行為——の被害ピーク年齢は11〜13歳とされており、米国の全国行方不明児童搾取センター(NCMEC)の統計と一致している [5]。
Quayle & Taylor(2001)はグルーミングの段階的な手口を記述している: 信頼の形成 → 共通の関心や秘密の共有 → 段階的な孤立化 → 実害 [6]。現代的な変化として、「見知らぬ人」からの接触より「オンラインゲームや趣味のコミュニティで知り合った相手」からの接触の割合が増えている点は注意が必要だ。
日本では警察庁の統計によれば、SNSに起因する子どもの性被害件数は2023年に2,234件と報告され、過去最多を更新した [7]。「SNS」に限らず、ゲームアプリ内のチャット機能を通じた被害も増えている。
Livingstone & Stoilova(2021)が提唱する「4Cs」フレーム(Contact, Conduct, Content, Contract)は、子どものオンラインリスクを体系的に整理するのに有用だ [8]。単一の対策ではなく、複数の軸からリスクを考える視点を提供している。
「残す」と「守る」を両立する
シェアレンティングの完全な停止を推奨するわけではない。問題は「投稿するかしないか」より「何をどこに残すか」の設計にある。
投稿前のチェック
位置情報がオフになっているか、制服や学校名が映り込んでいないか、子ども本人が嫌がる場面や表情ではないか——これらを習慣的に確認することは、投稿をやめることなく実行できる。
子が5〜7歳を過ぎたら、「これ載せていい?」と聞く習慣を始めることができる。最初は形式的かもしれないが、子どもに「自分の姿の公開について意見を言う権利がある」という感覚を育てることが、デジタルアイデンティティの自律性に繋がる。
グルーミング予防の会話
「知らない人に秘密を持つよう言われたら教えて」という一言は、5歳前後から自然に繰り返すことができる。この会話は、オンラインに限らず日常の人間関係にも有効な枠組みを子どもに渡す。「だから怖い」ではなく「だから話してほしい」という方向で伝えることが、子どもが実際に相談してくれる確率を高める。
過去の投稿の棚卸
年に一度、過去のSNS投稿の公開範囲を見直すことを勧める。プラットフォームの公開設定は変わることがあり、以前は「友達限定」だったものが設定変更後に広く公開されているケースもある。
Googleや Meta では、子どもの写真について「忘れられる権利」の申請ができる。保護者がその手順を知っておくことは、子が将来削除を求めた場合に対応できる準備になる。
行動レベルへの落とし込み
すぐに始められることを3点挙げる。
- 投稿前の3つの確認: ①位置情報がオフか ②制服・学校名が映っていないか ③子の表情・状況が本人が嫌がるものでないか
- グルーミング予防の一言: 「誰かが秘密にしてと言ったら、お父さん/お母さんに話してね」を5歳頃から自然に伝える
- 年1回の公開範囲見直し: SNSの過去投稿の公開設定を確認し直す
まとめ
デジタル足跡は、親が子のために作り始め、子が自分の手に取り戻していくものだ。「残す」ことと「守る」ことは矛盾しない。設計の問題だ。
子どもが成長し、自分のオンライン上の姿を発見する日は必ず来る。その時に子どもが「自分の意思が尊重されていた」と感じられる記録の残し方が、今の選択から積み上がっていく。
References
- Nominet. Digital Childhood: Examining the Experiences of Children Growing Up Online. Oxford: Nominet; 2019. Available from: https://www.nominet.uk/digital-childhood-report/
- Brosch A. When the child is born into the internet: sharenting as a growing trend among parents on Facebook. New Educ Rev. 2016;43(1):225–235. doi:10.15804/tner.2016.43.1.19
- Blum-Ross A, Livingstone S. "Sharenting," parent blogging, and the boundaries of the digital self. Popular Commun. 2017;15(2):110–125. doi:10.1080/15405702.2016.1223300
- Lievens E, Verdoodt I. Looking for needles in a haystack: does the GDPR's children clause create new regulatory opportunities for online platforms to protect children's rights? Comput Law Secur Rev. 2018;34(2):269–278. doi:10.1016/j.clsr.2017.11.009
- NCMEC. CyberTipline Report. Alexandria VA: National Center for Missing and Exploited Children; 2023. Available from: https://www.missingkids.org/gethelpnow/cybertipline
- Quayle E, Taylor M. Child seduction and self-representation on the internet. CyberPsychol Behav. 2001;4(5):597–608. doi:10.1089/109493101753235197. PMID: 11725657
- 警察庁. 令和5年における少年非行及び子供の性被害の状況. 東京: 警察庁; 2024.
- Livingstone S, Stoilova M. The 4Cs: Classifying Online Risk to Children. Hamburg: Hans-Bredow-Institut; 2021. doi:10.21241/ssoar.71817