リード
FacebookやInstagramが普及した2010年代初頭に生まれた子どもたちが、今10代になりつつある。自分が0歳のときから親に写真を投稿されてきた「シェアレンティング: share(共有)+parenting(育児)の造語。親が子の写真や情報をSNS等に投稿する行為。子のプライバシー権との関係で議論されている第一世代」だ。
彼らが親の投稿をどう感じているかを示す調査研究が、近年ようやく蓄積されてきた。その結果は、投稿してきた親にとって、簡単には受け取れない内容を含んでいる。
シェアレンティングとは何だったか
Steinberg(2017)の先駆的論文は、シェアレンティングを「子のプライバシー権の侵害」として体系的に論じた最初期の学術的整理の一つだ [1]。親が自らの同意なく子の情報をSNSで公開することは、子が成長した後に自分のデジタルアイデンティティを自己管理する権利を損なうという主張だった。
Blum-Ross & Livingstone(2017)は、親のシェアレンティングの動機をより複合的に分析している [2]。記録の保存、育児仲間との繋がり、アイデンティティの形成(「親である自分」の確認)、孤独の緩和——これらの複合的な動機が投稿行動を支えており、子への影響への意識は二次的になりやすいことが示されている [2]。
親の動機は誠実だ。問題は動機ではなく、投稿が「誰に見られるか」「何年後に誰の手に渡るか」の不可視性にある。「友人のみ」設定でも、友人のスクリーンショットは止められない。「いいね」の数と親の感情的満足が結びつく構造は、子の画像を「コンテンツ」に変える側面を持つ。
第一世代の証言
近年蓄積されてきた当事者調査から、いくつかの一貫した傾向が見えてくる。
Verswijvel ら(2019)がベルギーの思春期前・思春期の子どもを対象に行った研究では、「自分の写真を親に無断でSNS投稿されることへの不満」を経験している割合は約40〜50%にのぼり、特に「失敗・泣いている・恥ずかしい状況」の写真への嫌悪感が強かった [3]。友人関係への影響——友達が見ている、からかわれる可能性——を懸念するケースも多く報告されている。
Lipu & Siibak(2019)のエストニアを対象とした研究では、子どもが「削除してほしい」と親に申し出た件数は12〜14歳で最多であることが示されており [4]、写真への意識は思春期前から急速に高まることがわかる。
Ouvrein & Verswijvel(2019)のフォーカスグループ研究は、シェアレンティングを経験した子どもの「親への信頼感低下」との関連を報告している [5]。無断投稿の経験がある子は、そうでない子より親が自分のプライバシーを尊重していると感じにくい傾向があるという。これは長期的な親子関係に関わる問いだ。
一方で、「かわいい写真」については概ね問題視されないことも複数の研究が示している [3,5]。問題は写真の内容だけでなく、「投稿するかどうかを子に確認したか」というプロセスへの不満と関係している。
親の動機と子の体験の齟齬
「投稿した」親と「投稿された」子の間には、文脈のズレがある。
親にとって、子の写真を投稿することは「成長を記録して共有する」という行為だ。「いいねが来て嬉しかった」体験は、親が育児において必要としている社会的承認と結びついている。
子にとって、自分の写真がSNSで「消費される」体験は全く別の意味を持ちうる。自分が知らない場所に自分の姿がある、誰かに見られている、友達が見ているかもしれない——この不安は、思春期前後に他者の視線への感受性が急激に高まるタイミングと重なって大きくなる。
Blum-Ross & Livingstone(2017)が指摘するように、親が「記録のため」という意図で始めた行為が、デジタル空間における子のアイデンティティ: 自分が「自分は何者か」を自覚し、他者からもそのように認識される自己像。思春期にかけて急速に発達する形成に予期せぬ影響を及ぼす可能性がある [2]。その影響は、子が8歳、10歳、12歳と成長するにつれて顕在化していく。
「投稿した後」に何ができるか
過去の投稿を遡って取り消すことは、現実的な行動として難しい。しかしいくつかの実践的な選択肢がある。
一つは、遡及的対話だ。子が10〜12歳になった時点で、「過去に投稿した写真を一緒に見返す機会」を一度設けることができる。削除・非公開の判断を子と一緒に行うことで、プライバシーについての対話が自然に生まれる。Chalklen & Anderson(2017)が論じるように、子の福祉と保護者のプライバシー権の間のバランスは、対話によってのみ動的に調整できる [6]。
もう一つは、今後の投稿基準の見直しだ。「この写真を18歳の本人が見たらどう感じるか」という問いを投稿前の一つの基準にすることは、完璧な答えではないが判断の軸として機能する。現在の子どもが感じることと、将来の子どもが感じることは異なる——その両方を想定することが、投稿判断に一定の複眼的な視点を加える。
まとめ
シェアレンティングの影響は、子が大きくなるまで見えにくい。「第一世代」の証言が蓄積しつつある今、それが示すのは「投稿しなければよかった」という結論ではなく、「子が意見を持てる立場になったとき、一緒に見直す機会を作る」という実践的な次のステップだ。
過去の投稿は変えられない。しかし「これからどうするか」と「過去をどう扱うか」は、今から変えることができる。子が「あの写真見せないで」と言う日を、怖れるより、対話の入口として迎える準備をしておくことができる。
References
- Steinberg SB. Sharenting: children's privacy in the age of social media. Emory Law J. 2017;66(4):839–884.
- Blum-Ross A, Livingstone S. Sharenting, parent blogging, and the boundaries of the digital self. Popul Commun. 2017;15(2):110–125. doi:10.1080/15405702.2016.1223300.
- Verswijvel K, Walrave M, Hardies K, Heirman W. Sharenting, is it a good or a bad thing? Understanding how adolescents think and feel about sharenting on social network sites. Child Youth Serv Rev. 2019;104:104401. doi:10.1016/j.childyouth.2019.104401.
- Lipu M, Siibak A. "Take it down!": Estonian parents' and pre-teens' opinions and experiences with sharenting. Media Cult Soc. 2019;41(5):710–726. doi:10.1177/0163443719847516.
- Ouvrein G, Verswijvel K. Sharenting: parental adoration or public humiliation? A focus group study on adolescents' experiences with sharenting against the background of their own impression management. Child Youth Serv Rev. 2019;99:319–327. doi:10.1016/j.childyouth.2019.02.011.
- Chalklen C, Anderson H. Sharenting: balancing the welfare of children and the privacy rights of parents online. Comput Law Secur Rev. 2017;33(6):831–838. doi:10.1016/j.clsr.2017.05.005.
- Brosch A. When the child is online: the sharenting phenomenon. Educ Sci. 2016;6(1):3. doi:10.3390/educsci6010003.