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イヤイヤ期と発達障害の見分けに迷ったら

読了時間 約 7 分English version available
対象
1〜4歳の子の保護者
文字数目安
2,200字
ステータス
ドラフト v1

3行まとめ

  • ·かんしゃくは83.7%の就学前児に起きる現象でありあること自体は発達上の問題を示唆しないが、自己傷害の繰り返し・激しい他者攻撃・家庭外での出現・長い回復時間という質的特徴が臨床リスクと関連する
  • ·ASDの早期識別に識別力があるのはかんしゃくの形態よりも視線共有・名前への反応・指差しといった社会的コミュニケーションのパターンであり、かんしゃくが激しいから発達障害を疑う論理は識別力が低い
  • ·M-CHAT-R/Fは16〜30ヶ月対象の診断ではなく専門評価への入口であり、気になることがあればかかりつけ医への相談を平均との比較より先においてほしい

目次

  1. リード
  2. かんしゃくはほとんどの子に起きる
  3. 「病理的かんしゃく」のクライテリア
  4. ASD・ADHD のかんしゃくの特徴
  5. M-CHAT-R/F という標準スクリーニング
  6. 相談のタイミング
  7. まとめ
  8. References

リード

2歳になってからかんしゃくが増えた。床に倒れ込んで泣き叫ぶこともある。「イヤイヤ期だな」と思いながら、ふと「これって普通の範囲なのか」という問いが浮かぶことがある。

インターネットで検索すると、「ASD(自閉スペクトラム症)のかんしゃくは長い」「ADHDの子は衝動的に癇癪を起こす」といった記述がヒットする。読んでいるうちに、目の前の子のかんしゃくが病気のサインに見えてきて、また別の記事では「1〜3歳のかんしゃくはごく普通」と書いてある。どちらが正しいのか、区別するために何を見ればいいのか、という疑問を持つ保護者は少なくない。

この記事では、かんしゃくの「規範性」に関する研究と、臨床的な懸念を示唆する特徴について、現在得られているエビデンスを整理する。区別が難しい理由を明確にしたうえで、相談のタイミングの目安を示す。


かんしゃくはほとんどの子に起きる

まず出発点として、かんしゃくは就学前児のほぼ全員に起きる、という事実がある。

Wakschlag ら(2012)が1,490名の就学前児を対象に行った地域サンプル調査では、過去1か月にかんしゃくを「起こした」と報告された子は83.7%にのぼった。一方、毎日かんしゃくを起こしていた子は8.6%にとどまる [1]。

この数字は重要な文脈を提供する。かんしゃくが「ある」こと自体は、圧倒的多数の幼児に共通する現象であり、それだけで発達上の問題を示唆するわけではない。同研究は、「どんなかんしゃくか」という質的な側面のほうが、「あるかないか」よりも診断的意味を持つと論じている [1]。

Potegal & Davidson(2003)は、335名の18〜60か月児の保護者から収集したかんしゃくの詳細な記録を分析し、「怒り」と「悲嘆・苦痛」という2つの独立した感情成分があることを示した [2]。典型的なかんしゃくでは、怒りが急激に立ち上がり、ピーク後に徐々に収束し、最後に苦痛(泣き)が残る、という時間的パターンを描く。このパターン自体は正常な情動調節: 怒り・悲しみなどの感情の強さや表出を、状況に合わせて自分で調整する力。乳幼児期からゆっくり発達するの発達途上にある子に広く見られる現象だ [2]。


「病理的かんしゃく」のクライテリア

では、懸念を高める特徴とは何か。

Belden ら(2008)は、健常、うつ傾向、行動障害の診断を持つ3〜6歳の就学前児279名のかんしゃくを比較した [3]。その結果、以下の特徴が臨床的問題と有意に関連していた。

  • 自己傷害的行動(頭を打ちつける、自分を叩くなど)を伴うかんしゃくが繰り返される
  • 他者への激しい攻撃(親や保育者を強く叩くなど)がかんしゃく中に頻繁に生じる
  • 保育・幼稚園などの場でもかんしゃくが起きる(家庭のみでなく)
  • かんしゃくから立ち直るのに著しく長い時間がかかる

これらの特徴を複数持つ場合、健常群と比べて有意に高い臨床リスクと関連していた [3]。特に自己傷害行為の繰り返しは、単独でも相談の明確な理由になる。

なお、かんしゃくの「長さ」については、10〜15分を超えて続く場合が懸念の目安として言及されることがあるが [2]、時間だけを孤立した指標として使うのは慎重であるべきで、他の特徴と組み合わせて判断する必要がある。


ASD・ADHD のかんしゃくの特徴

発達障害を背景に持つ子のかんしゃくは、定型発達のイヤイヤ期とどう違うのか。これは研究上も難しい問いで、症状の重複が大きいため、かんしゃくの外見だけで鑑別することはできない。

ただし傾向として研究が指摘するいくつかの点がある。ASDの子では、環境の変化(ルーティンの乱れ、感覚的な刺激の過負荷)が引き金になりやすく、コミュニケーション困難に起因するフラストレーションが激しいかんしゃくに至ることが多い。ADHD: 注意欠如・多動症。注意の持続困難・衝動性・多動を主徴とする神経発達特性。学齢期に診断されることが多いが、幼児期から兆候が見られることがあるでは衝動制御の困難から、感情の立ち上がりが速く鋭いことが多い。ただしこれらの特徴はイヤイヤ期の定型発達の幼児にも程度差こそあれ見られる。

ASDの早期サインとして研究が示すのは、かんしゃくの形態よりも、社会的コミュニケーションのパターン(視線共有の少なさ、名前を呼ばれても反応しにくい、指差しの乏しさなど)の方が識別力が高い [4]。Zwaigenbaum ら(2015)のレビューは、ASDの早期識別に有効な行動サインとして、適切な視線の欠如、喜びある表情共有の不足、名前への反応の乏しさ、注視・表情・身振り・音声の協調の乏しさを挙げている [4]。これらは生後12〜24か月の間に現れてくることが多い。

かんしゃくが激しいから発達障害を疑う、という論理よりも、かんしゃく以外の社会的・コミュニケーション的側面を観察する方が、保護者として有意義な観察になる。


M-CHAT-R/F という標準スクリーニング

生後16〜30か月の時期に自閉スペクトラム症のリスクを評価するためのスクリーニングツールとして、M-CHAT-R/F(Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised with Follow-up)が広く使われている。

Robins ら(2014)は、16,071名の乳幼児を対象にM-CHAT-R/Fを検証し、18か月・24か月健診での活用において感度・特異度ともに実用的な水準を持つことを示した [5]。このツールは、かかりつけ医が健診の場で実施することを想定したもので、保護者が23項目の質問に答える形式だ。

日本の乳幼児健診の場でも参照されており、保護者が自分で探す場合は「M-CHAT」という名称で公開されている。ただし、スクリーニング陽性であっても診断ではなく「専門評価の推奨」を意味する点に注意が必要だ [5]。


相談のタイミング

では、保護者はどの時点で専門家に相談すればよいのか。

「様子を見ましょう」という言葉が医療現場でも使われることがあるが、相談するコストは相対的に低い。以下のどれかに当てはまれば、かかりつけ小児科医への相談を検討する価値がある。

  • かんしゃく中に自分を傷つける行動が繰り返される
  • 攻撃が強く、対応者がけがをするレベルに至ることがある
  • かんしゃくが15分以上頻繁に続く
  • 家庭外(保育所、幼稚園)でも同様のかんしゃくが報告されている
  • かんしゃくの数・強度が月齢とともに増加している(減少しない)
  • 言葉の遅れや名前への反応の乏しさが気になっている

「イヤイヤ期だから仕方ない」という枠組みで何もかもを収めようとすると、相談の機会が遅れることがある。イヤイヤ期であっても、「気になる」という感覚は正当な理由になる。

また、Memoriのような育児記録アプリでかんしゃくの頻度・持続時間・引き金の状況をメモしておくと、医師や保健師に状況を伝える際の情報として役立つ。感情的な記憶より、記録された客観的な記述の方が、専門家にとっても保護者にとっても有益だ。


まとめ

かんしゃく自体は就学前児の大多数に起きる現象であり、「ある」ことが即ち発達上の問題を示すわけではない [1]。懸念を高めるのは、自己傷害の繰り返し、激しい他者への攻撃、家庭外での出現、回復の著しい困難さ、といった質的な特徴だ [3]。

ASDやADHDを疑う根拠としては、かんしゃくの形態よりも、社会的コミュニケーションの発達パターンの方が識別力が高い [4]。気になることがあれば、かかりつけ医への相談を、平均との比較より先においてほしい。


References

  1. Wakschlag LS, Choi SW, Carter AS, et al. Defining the developmental parameters of temper loss in early childhood: implications for developmental psychopathology. J Child Psychol Psychiatry. 2012;53(11):1099–1108. doi:10.1111/j.1469-7610.2012.02595.x. PMID: 22928674.
  2. Potegal M, Davidson RJ. Temper tantrums in young children: 1. Behavioral composition. J Dev Behav Pediatr. 2003;24(3):140–147. PMID: 12806225.
  3. Belden AC, Thomson NR, Luby JL. Temper tantrums in healthy versus depressed and disruptive preschoolers: defining tantrum behaviors associated with clinical problems. J Pediatr. 2008;152(1):117–122. doi:10.1016/j.jpeds.2007.06.030. PMID: 18154912.
  4. Zwaigenbaum L, Bauman ML, Fein D, et al. Early identification of autism spectrum disorder: recommendations for practice and research. Pediatrics. 2015;136(Suppl 1):S10–S40. doi:10.1542/peds.2014-3667C. PMID: 26430168.
  5. Robins DL, Casagrande K, Barton M, Chen CA, Dumont-Mathieu T, Fein D. Validation of the modified checklist for autism in toddlers, revised with follow-up (M-CHAT-R/F). Pediatrics. 2014;133(1):37–45. doi:10.1542/peds.2013-1813. PMID: 24366990.

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