貧血でなくても鉄は足りていない — 月経後の女児に見えにくい鉄欠乏

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対象
小学校高学年の女児(9〜12歳)を持つ保護者
文字数目安
2,200字
ステータス
ドラフト v1

リード

「疲れやすい」「集中できない」「体育の授業の後は動けない」——月経が始まった小学校高学年の女の子にこうした変化が続いたとき、「成長期だから」「部活で疲れているだけ」と片付けてしまいやすい。

しかしこれらは、鉄欠乏の典型的なサインでもある。しかも、学校の貧血検診(ヘモグロビン測定)では引っかからないまま進行していることがある。「貧血ではない」と「鉄が足りている」は同じ話ではない。

鉄欠乏の3段階と「見えない欠乏」

鉄欠乏には段階がある。

最初の段階は「貯蔵鉄の枯渇」——血中の(Hb)値はまだ正常で、血清(体内の鉄貯蔵量の指標)だけが低下している状態だ。次の段階は「(IDNA: Iron Deficiency Non-Anemic)」——Hb正常・フェリチン低値・血清鉄が低下してくる状態。そして最後が「鉄欠乏性貧血」——Hbが基準値を下回る。

学校の貧血検診で測るのはHbのみであることが多い。したがって最初の2段階は「検診で正常」と判定されながら進行していく。「倒れてから気づく」ではなく、「倒れる前の段階でじわじわと影響している」のが鉄欠乏の性格だ。

フェリチン値が15μg/L以下で治療対象とする考え方は広がっており [1,2]、疲労・パフォーマンス低下はフェリチン20〜30μg/L以下でも出うるという研究もある [5]。

本論

月経開始と鉄喪失の構造

月経は月平均0.5〜1.0 mg/日の追加鉄損失をもたらす [2]。日本の食事摂取基準2020では、月経ありの10〜11歳女児の推奨摂取量(RDA)は14.0 mg/日だ(月経なしの8.5 mg/日から大幅に引き上げられる)[9]。

実際の食事からどれだけ取れているか。食品からの鉄摂取量は推奨値に届いていないケースが多い。日本人の女性大学生を対象にした研究(Morishita et al. 2009)では、鉄摂取量と血清鉄の相関は弱く、食事記録だけでは鉄欠乏を評価しにくいことが示されている [7]。「野菜を食べているから大丈夫」という判断が当てにならない理由の一つだ。

スポーツ少女の追加リスク

体育系の部活や習い事に取り組む女児には、食事以外の経路での鉄損失がある。

足底着地の繰り返しによる溶血(足底溶血)、発汗による微量損失、穀物に含まれるフィチン酸が鉄の吸収を阻害することなどが知られている [4,5]。

日本の女性大学アスリートを対象にした観察コホート研究(Sugimoto et al. 2024)では、IDNAの有病率はフェリチン30μg/L以下で47%に達していたと報告されている [3]。大学生の数字だが、小学校高学年からスポーツを続けている女児にとっても、同様のリスク構造は存在しうる。

「貧血でない=問題ない」という認識は、この文脈では誤りだ。

鉄補給の食事設計と受診判断

鉄の食事摂取には吸収効率の差がある。動物性食品に含まれる(赤身肉・レバー・あさり)は吸収率15〜35%で、植物性食品の非ヘム鉄(小松菜・ひじき・豆類)の2〜5%より大幅に高い。非ヘム鉄はビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が向上する。

逆に吸収を妨げる因子もある。タンニン(緑茶・コーヒー)は食事中に摂ると鉄の吸収を低下させるため、食後30分以上空けることが望ましい。カルシウムも過剰摂取では鉄吸収を阻害しうる。

「何を食べるか」だけでなく「何と一緒に食べるか・何を避けるか」が鉄摂取の実効率を左右する。

受診の判断として:月経開始後の女児で「疲れやすい・集中できない・スポーツのパフォーマンスが落ちた」が続く場合、血液検査でHb(貧血)だけでなくフェリチン値も確認することをかかりつけ医に相談してみることが選択肢になる。フェリチンは保険診療で測定できる検査項目だ。

行動レベルへの落とし込み

まとめ

鉄欠乏は「倒れてから気づく」栄養素の問題ではなく、倒れる前の段階でじわじわと疲労・集中力・運動パフォーマンスに影響する。月経が始まった女児の「なんとなく不調」はそのサインかもしれない。貧血検診でHbが正常でも、フェリチンという数字を一度確認することが、見えていない欠乏を発見する入り口になることがある。


References

  1. Kazal LA Jr. Iron deficiency anemia in infancy, childhood, and adolescence. StatPearls. 2023. PMC: PMC10440944.
  2. Sachdev HPS, et al. Time to pay attention to anemia in female adolescents. Lancet Reg Health Southeast Asia. 2021;1:100006. PMC: PMC7873386.
  3. Sugimoto M, et al. Prevalence of iron-deficient but non-anemic university athletes in Japan: an observational cohort study. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2024;16(1):11. doi:10.1186/s13102-024-00801-5. PMID: 38018828.
  4. Peeling P, et al. Athletic induced iron deficiency: new insights into the role of inflammation, cytokines and hormones. Eur J Appl Physiol. 2008;103(4):381-391. doi:10.1007/s00421-008-0726-6. PMID: 18365240.
  5. Morán M, et al. Iron and the female athlete: a review of dietary treatment methods for improving iron status and exercise performance. Open Access J Sports Med. 2015;6:177-195. doi:10.2147/OAJSM.S60288. PMC: PMC4596414.
  6. Sato T, et al. Iron deficiency prevention and dietary habits among elite female university athletes in Japan. Nutrients. 2025. PMC: PMC12299964.
  7. Morishita M, et al. Iron intake does not significantly correlate with iron deficiency among young Japanese women: a cross-sectional study. Eur J Clin Nutr. 2009;63(7):932-934. doi:10.1038/ejcn.2009.21. PMID: 19063766.
  8. Morán M, et al. Iron deficiency, supplementation, and sports performance in female athletes: a systematic review. Front Nutr. 2024. doi:10.3389/fnut.2024.1429137. PMID: 39536912.
  9. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html