「うちの子は人見知りしない」問題 — 強度と愛着の質は別

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対象
6 ヶ月〜2 歳の子の保護者
文字数目安
2,300字
ステータス
ドラフト v1

リード

「うちの子、全然人見知りしなくて、誰にでも笑いかけるんです。愛着が薄いんじゃないかって、ちょっと心配で」。

こういう声を聞くことがある。逆に「うちの子は人見知りがひどくて、義実家に行くたびに大変で」という声もある。どちらも子どもへの観察から生まれた正直な疑問だ。

ただし、どちらの場合も、「人見知りの強度」と「愛着の質」を混同している可能性がある。この2つは関連するようで、実は独立した話だ。


人見知りとは何か:発達的な定義

人見知り(stranger anxiety, stranger fear)は、見知らぬ人への警戒・回避・泣きとして表れる行動的・感情的反応であり、おおむね生後 6〜8 ヶ月頃に出現し、12〜18 ヶ月にかけてピークを迎え、2〜3 歳にかけて緩和されるのが一般的な発達軌跡だとされてきた。

Brooker ら(2013)は、1,285 名という大規模縦断データを用いて、6〜36 ヶ月にわたる見知らぬ人への恐怖の発達軌跡を詳細に記述した [1]。潜在クラス成長分析による検討の結果、4 種類の発達軌跡が同定された。すなわち、安定して低い群、安定して高い群、上昇していく群、下降していく群、という類型だ。つまり「標準的な軌跡」というものが一通りに存在するわけではなく、子どもによって大きく異なる [1]。

「うちの子は人見知りしない」という状況が、この安定して低い群に該当する場合、それは発達的に珍しいことではなく、約 4 分の 1 の子どもに見られる軌跡のひとつだ [1]。


気質としての「inhibition」:Kagan の知見

人見知りの強度に個人差が生じる最大の要因として、気質研究が注目してきたのが「行動抑制(behavioral inhibition)」だ。

Kagan(1994)は、ハーバード大学での長期縦断研究をまとめた著書『Galen's Prophecy』の中で、新奇な人や状況への反応に関して、生後 4 ヶ月時点でのスクリーニングから子どもを「高反応(highly reactive)」と「低反応(low reactive)」に分類し、このちがいが生後数年にわたって安定して行動に影響することを示した [2]。高反応の乳児(約 20%)は見知らぬ人や場面に対して泣きや回避を示しやすく、これが後の・対人的慎重さにつながる傾向がある [2]。

つまり、人見知りの強度は部分的に気質的な基盤を持ち、親の育て方や愛着の質だけで決まるものではない。「人見知りが弱い」子どもは、気質的に新奇な状況への反応閾値が高い可能性があり、これは「愛着が薄い」ことを意味しない。


愛着と人見知りは独立している:Strange Situation の示すもの

愛着理論の観点から人見知りを考えると、さらに重要な区別が浮かびあがる。

Ainsworth ら(1978)が開発したは、乳児(12〜18 ヶ月)を見知らぬ部屋・見知らぬ大人・一時的な分離という状況にさらし、愛着対象(主に親)への反応パターンから愛着タイプを分類する手続きだ [3]。ここで分類される「安定型(B型)」「回避型(A型)」「アンビバレント型(C型)」は、見知らぬ人への反応の強さで区別されるわけではない。

ストレンジ・シチュエーション法が測定しているのは、分離・再会時の親への反応のパターン、つまり愛着対象を「安全基地」として使えているかどうかだ [3]。見知らぬ人への恐怖が強くても弱くても、愛着対象に安全に戻れる子どもは安定型に分類される。

van IJzendoorn & Kroonenberg(1988)が実施した 8 カ国 32 サンプル・1,990 名のでは、文化差による愛着分類の分布の違いが示されつつも、安定型(B型)が最多分類であるという傾向はほぼ普遍的だった [4]。この研究は同時に、国・文化・子育て環境によって人見知りの表出強度に差があっても、愛着の質の分類とは独立している可能性を示唆している [4]。

つまり、「人見知りしない」ことは、愛着が安定しているかどうかについては何も語らない。


では何が気になるサインか

ここまでをまとめると、人見知りが弱いこと自体は、愛着の質の指標にはならない。では、何を気にすればいいのか。

ひとつの基準は、「愛着対象(主に親)との関係のなかに安全基地の感覚があるか」だ。親から離れて遊び、何か不安なことがあると親のもとに戻ってくる。親が戻ってきたときに安心して再開できる。このパターンが見られれば、見知らぬ人に対して笑顔で近づいていっても、愛着として問題があることにはならない。

Brooker ら(2013)は、人見知りが安定して高い軌跡を示す子どもは、後の行動抑制・社会的恐怖と関連することを示している [1]。しかし、人見知りが安定して低い軌跡でも、愛着の質との直接的な関連は示していない [1]。

見知らぬ大人に対して無差別に近づく行動(disinhibited social engagement)が著しく顕著で、危険な場面でも愛着対象に戻らない、愛着対象が変わっても反応が変わらないといったパターンは、反応性愛着障害(RAD)や脱抑制型社会的関与障害(DSED)と関連する可能性がある。これは日常的な「人見知りしない」とは別次元の話だが、心配な場合は小児科医か発達の専門家に相談する選択肢がある。


まとめ

人見知りの強度は気質的基盤を持ち、子どもによって大きく異なる発達軌跡をたどる [1,2]。Ainsworth らが開発した愛着分類は人見知りの強度では決まらず、愛着対象との再会時の反応パターンで評価される [3]。「うちの子は人見知りしない」ことは、愛着の質について何かを示す直接的な証拠にはならない。

安全基地として親を使えているかどうかを観察することが、人見知りの強度を心配することよりも、愛着を理解する上で実質的な情報を与えてくれる。


References

  1. Brooker RJ, Buss KA, Lemery-Chalfant K, Aksan N, Davidson RJ, Goldsmith HH. The development of stranger fear in infancy and toddlerhood: normative development, individual differences, antecedents, and outcomes. Dev Sci. 2013;16(6):864–878. doi:10.1111/desc.12058. PMID: 24118713.
  2. Kagan J. Galen's Prophecy: Temperament in Human Nature. New York: Basic Books; 1994.
  3. Ainsworth MDS, Blehar MC, Waters E, Wall S. Patterns of Attachment: A Psychological Study of the Strange Situation. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates; 1978.
  4. van IJzendoorn MH, Kroonenberg PM. Cross-cultural patterns of attachment: a meta-analysis of the strange situation. Child Dev. 1988;59(1):147–156. doi:10.2307/1130396.
  5. Zeanah CH, Smyke AT, Koga SF, Carlson E; Bucharest Early Intervention Project Core Group. Attachment in institutionalized and community children in Romania. Child Dev. 2005;76(5):1015–1028. doi:10.1111/j.1467-8624.2005.00894.x. PMID: 16149997.