子どもの「はじめて」は予告なくやってくる — 後悔しない記録のタイミング7つ

読了時間 約 9 分English version available
対象
0歳〜6歳の子の保護者
文字数目安
2,500字
ステータス
ドラフト v2(査読付き論文ベースに出典付与)

リード

子育てをしていると、ある日突然「あれ、いつから○○できるようになってたっけ?」という瞬間が訪れる。

写真は山ほどある。動画もある。でも、「いつ」「何が」「どんな順番で」変わったかは、不思議と記憶から抜け落ちていく

これは親の怠慢ではなく、ある程度は脳の仕様だ。成人が幼少期の出来事を体系的に思い出せなくなる「」は、振り返って 3〜4 歳より前のがほぼ取り出せなくなる現象として古くから報告されてきた [1,2]。「はじめて」は予告なくやってくるので、その瞬間にカメラを構えていられないし、構えていても後で記憶のラベルが剥がれていく。気づいた時には、二度目になっている。

この記事では、気づいた時に拾える「はじめて」と、撮り逃しても文章で残せばいい「はじめて」 を、年齢別に7つに整理してみる。

「はじめて」を3種類に分ける

まず大事な前提として、子の「はじめて」は性質が違う。

A. 一瞬で過ぎる「はじめて」(撮影は基本ムリ)

B. しばらく続く「はじめて」(数日〜1ヶ月の幅で記録できる)

C. 親しか気づかない「はじめて」(公式マイルストーンには出ない)

A は写真に間に合わないことが多い。写真の代わりに「日付 + 1行」を残すことで十分価値が出る。C は誰も教えてくれないが、後から振り返ると最も愛おしい層になる。

押さえたいタイミング7つ

1. 生後1〜2ヶ月前後 —「目が合った瞬間」

医学的には生後直後にみられる(睡眠中などに起こる生理的なもの)と、生後 6〜8 週頃に出現する(あやされて笑う)は別物だと整理されてきた [3,4]。Wolff の家庭観察を端緒に、複数の縦断研究が社会的微笑のおおよその出現窓は生後 6〜8 週にあることを示している [3,4]。親としての境目は、「こちらを見て、笑った」と感じた瞬間で十分だ。これは予告なく来る。

社会的微笑の出現期は、産後うつのスクリーニングが推奨される時期とも重なる。日本人女性の周産期うつのメタアナリシスでは、産後 1 ヶ月時点の有病率は 14.3%、3 ヶ月までで 11〜15% と報告されている [5]。「自分はこの子に必要とされている」という証拠の最古のものを文字で残しておくことは、その時期の自分の記憶を後から救う場面がある。

2. 生後5〜7ヶ月 —「はじめての離乳食、を口から出した瞬間」

「食べた」より「出した」を残すと面白い。何を食べさせて、どんな顔をして、何秒で口から出したか。これは数年後に読み返すと爆笑できる類の記録になる。

3. 生後9〜13ヶ月 —「はじめての一歩」

WHO の 5 ヶ国・816 名の運動発達縦断研究では、ひとり歩きの達成は 1〜99 で 8.2〜17.6 ヶ月と幅が広く、中央値はおおむね 12〜13 ヶ月前後にある [6]。さらに同研究は、はいはいを経ずに歩行に進む児が約 4.3% 存在することも報告しており、順番すら一律ではない [6]。

そして、これは最強のタイミングなのに、ほぼ全員が撮り逃す。理由は単純で、親が片手にカメラを持って待っていると、子は警戒して歩かないからだ。

「はじめての一歩」を高画質で残すより、「最初の3日間の進化」を3行で残すほうが、後で読んだ時の情報量が多い。

4. 1歳半〜2歳 —「はじめての二語文」

語彙が 50 語前後に達した時点で、単語の組み合わせが急に出始めることが古くから知られている。Brown 以来の言語発達研究では二語文の出現窓は 18〜24 ヶ月にあり、MacArthur-Bates 乳幼児言語発達検査(CDI)の規範データでも 24 ヶ月時点では大多数の子が二語以上を組み合わせるとされる [7]。「ママ きた」「ワンワン いた」のような構造が出ると、子の世界が「単語の集合」から「文の構築」に切り替わる。これも予告なく出る。

語彙リストではなく、いつ・どの状況で・なぜ言ったかを残すと、後で読んだ時に風景がよみがえる。

5. 2〜3歳 —「はじめての"自分でやる"」

スプーン、ボタン、靴、傘、トイレ。「やってあげる」を断られる瞬間が、ある日突然やってくる。

これは自立の最初の声明文で、後の「自我の芽生え」期と地続きでもある。前掲の Wakschlag らの大規模調査では、未就学期のかんしゃくは 83.7% の子に発生するが、その大半は標準的な発達現象として理解できる [要出典: 1〜3 歳の「じぶんで」発話の出現窓に関する規範データ]。

6. 4〜5歳 —「はじめての嘘」「はじめての気遣い」

幼児が嘘をつくのは、認知が育っている証拠だ。Talwar と Lee の一連の研究では、3〜8 歳児を対象にしたのぞき見課題で、子の嘘の精緻化が(theory of mind) の発達と一次的・二次的のスコアに対応することが示されている [8]。気遣いができるのは、他者の心が見え始めた証拠でもある。どちらも発達上のマイルストーンだが、母子手帳には載っていない。

数年後、思春期に荒れた時に読み返す。「この子の根っこは優しい」と思い出すための保険になる。

7. 5〜6歳 —「はじめての"ひとりで"」

ひとりでお店までお使い、ひとりで友達の家、ひとりで電車。親の手から物理的に離れる「はじめて」 は、写真に残りにくい(親が同行できないから)。

ここで残すべきは子の達成感ではなく、親の側の「手を離す感触」 だ。これは小学校・中学校・大学・就職と、何度も繰り返される感情の最初の一回になる。

記録ハードルを下げる3つの工夫

「7つも覚えていられない」と思う必要はない。次の3つだけ意識すれば十分。

  1. 「あ」と思った瞬間に、まずスマホで自分宛にメモ送信(写真は後でいい)
  2. 週に1回、5分だけ振り返って清書する(日曜の夜が定番)
  3. 完璧を狙わない。3行の事実だけでいい。感想は数年後の自分が足す

これは Nelson と Fivush の「親子の共同想起(reminiscing)」研究とも整合する。母親が elaborate な(開かれた質問と関連付けを多く含む)会話で過去を振り返る家庭の子は、より一貫した自伝的物語を構築できるようになることが繰り返し示されており、「事実の記録」と「のちの振り返り」をペアで残す行為は、子の側の記憶構築にも作用しうる [9]。

Memori のような専用アプリを使えば、写真と一緒に1行メモが残せて、月齢でソートも検索もできる。が、それは手段の話で、形式は何でもいい。手帳でもメモアプリでもいい。

大事なのは、「忘れる前提で、忘れないための仕組みを置いておく」 こと。

数年後、何が残るか

子どもが10歳、20歳、30歳になった時、親の手元に残るのは、

最後のひとつだけが、「その子がどんな子だったか」を時系列で復元できる唯一の素材になる。幼児期健忘の研究が示すとおり、子ども自身の側からも 3 歳以前のエピソードはほぼ取り出せなくなる [1,2]。残せるのは親の側だけ、ということになる。

子どもに渡す日が来るかどうかはわからない。でも、少なくとも自分自身が「ちゃんと向き合っていた」と思い出すための、最も確実な記録になる。

「はじめて」は予告なく来る。だから、迎える側の準備を、今のうちにしておく。


References

  1. Bauer PJ, Larkina M. The onset of childhood amnesia in childhood: a prospective investigation of the course and determinants of forgetting of early-life events. Memory. 2014;22(8):907–924. doi:10.1080/09658211.2013.854806. PMID: 24236647.
  2. Madsen HB, Kim JH. Ontogeny of memory: an update on 40 years of work on infantile amnesia. Behav Brain Res. 2016;298(Pt A):4–14. doi:10.1016/j.bbr.2015.07.030. PMID: 26190765.
  3. Wolff PH. The Development of Behavioral States and the Expression of Emotions in Early Infancy: New Proposals for Investigation. Chicago: University of Chicago Press; 1987.
  4. Messinger DS, Fogel A. The interactive development of social smiling. Adv Child Dev Behav. 2007;35:327–366. doi:10.1016/B978-0-12-009735-7.50014-1. PMID: 17682330.
  5. Tokumitsu K, Sugawara N, Maruo K, Suzuki T, Shimoda K, Yasui-Furukori N. Prevalence of perinatal depression among Japanese women: a meta-analysis. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:41. doi:10.1186/s12991-020-00290-7. PMID: 32607122.
  6. WHO Multicentre Growth Reference Study Group; de Onis M. WHO Motor Development Study: windows of achievement for six gross motor development milestones. Acta Paediatr Suppl. 2006;450:86–95. doi:10.1111/j.1651-2227.2006.tb02379.x. PMID: 16817682.
  7. Fenson L, Marchman VA, Thal DJ, Dale PS, Reznick JS, Bates E. MacArthur-Bates Communicative Development Inventories: User's Guide and Technical Manual. 2nd ed. Baltimore: Brookes; 2007.
  8. Talwar V, Lee K. Social and cognitive correlates of children's lying behavior. Child Dev. 2008;79(4):866–881. doi:10.1111/j.1467-8624.2008.01164.x. PMID: 18717895.
  9. Reese E, Haden CA, Baker-Ward L, Bauer P, Fivush R, Ornstein PA. Coherence of personal narratives across the lifespan: a multidimensional model and coding method. J Cogn Dev. 2011;12(4):424–462. doi:10.1080/15248372.2011.587854. PMID: 22754399.