子の医療同意(assent)の発達

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対象
子どもを持つ保護者、小児医療に関わる人々
文字数目安
2,100字
ステータス
ドラフト v1

リード

「この検査をするけど、大丈夫?」と医師が小学生の子どもに問いかける場面がある。子どもは「うん」とうなずく。その「うん」は何を意味するのか。親が代わりに同意すれば法的には問題ない医療行為に、なぜ子どもに聞くのか。

これは形式ではなく、子どもを一人の人格として扱うための実践だ。小児医療倫理の分野では、この問いに30年以上かけて答えが積み上げられてきた。

assentとは何か

医療の同意(consent)は、成人が自律的に与えるものだ。しかし子どもは法的には親権者の判断に委ねられる。ここで登場するのがassent(賛意・同意意向)という概念だ。

米国小児科学会(AAP)は1995年の声明で、の文脈において、子どもにも年齢相応の理解と参加を求めるべきだという枠組みを示した [1]。その要素として挙げられたのは、①子どもの状態の発達に応じた説明、②現状に関する理解の確認、③子どもが参加できる場合の賛意の取得、④親権者と子どもの両者が関与する手続きの設計だ [1]。

2016年に公表された改訂版の技術報告書では、この枠組みがさらに具体化された [2]。子どもの意思決定能力は発達段階によって異なり、7歳前後から部分的な意思決定能力が育ち始め、思春期には成人に近い判断力を持つ場合があると整理されている [2]。PMIDは27456514。

Gillick能力という概念

医療同意における子どもの能力をめぐる議論は、英国でも並行して展開された。1985年の英国貴族院判決(Gillick v West Norfolk and Wisbech Area Health Authority)は、「子どもが治療の内容を十分に理解できるだけの成熟と知性を持つなら、親の同意なしに医師が治療を行いうる」という判断を示した [3]。これが「Gillick能力(Gillick competence)」として知られる基準で、年齢ではなく理解力に基づく能力評価を原則とする。

英国と米国の枠組みは設計が異なるが、共通するのは「子どもを受動的な存在として扱わない」という価値観だ。子どもの発達とともに医療参加の比重を段階的に移行する、という考え方は両者に通底している。

能力評価の実証研究

assentや同意能力の評価を実証的に検討した研究も蓄積されている。Heinらは2014年に、MacArthur能力評価ツール(MacCAT-CR)を用いて6〜18歳の161名を対象とした前向き研究を実施し、理解・判断・推論・選択の4要素を評価した [4]。その結果、能力の閾値年齢として12歳前後が示唆された [4]。PMID: 25317644。

Miller, Drotar, Kodishが2004年にレビューしたエビデンス群も、発達年齢によってassentの質が異なることを整理している [5]。年齢が上がるにつれて、子どもは「なぜこの手技が必要か」「リスクは何か」を理解する能力が高まる。6〜7歳では手続き的理解(何が行われるか)が先行し、10歳以降になると目的論的理解(なぜ必要か)が加わる、という発達の経路が描かれている。

Wendlerは2006年の論文で、assentの要件が「理解できる場合」に限られるべきであり、理解できない幼児に形式的なassentを求めることはかえって手続きを歪めると論じた [6]。PMID: 16574878。assentは義務的な手続きではなく、子どもの能力に応じて意味のある参加を促すための手段であり、その本質は「能力に合った説明と対話」にある。

日本の小児医療における位置づけ

日本の文脈では、assentという概念はまだ医療現場に広く浸透しているとは言いがたい。インフォームド・コンセントの主体が親権者に集中する構造は続いており、子ども自身への説明や反応の確認が「任意の配慮」にとどまっている場面も多い。

とはいえ、臨床研究の倫理審査では子どものassentを明示的に求める方向性が強まりつつある。小児がん診療など長期的な治療を要する領域では、子どもが治療に対して持続的な協力を維持するうえで、assentの質が治療に関わるという認識も広がっている。

保護者として知っておけること

医療の現場でassentが求められるとき、保護者が知っておくと助けになることがある。

子どもへの説明は、医師に一任するだけでなく、保護者自身が子どもと事前に話しておくことが有効なことがある。「注射をするよ。怖いかもしれないけど、どんな感じか教えてくれる?」というような事前の会話が、子どもが医療の場で自分の声を出すための準備になる。

また、子どもが「嫌だ」と言ったとき、その言葉をどう扱うかも重要だ。Wendlerが指摘するように、子どもの拒否は常に医療上の決定を左右するわけではないが、「聞かれた」「反応が受け取られた」という経験は、子どもが医療を自分の問題として受け取る土台になる [6]。

まとめ

assentは、子どもを「されるだけの存在」ではなく「参加者」として位置づける実践だ。年齢相応の理解を前提に、医療行為の説明を行い、子どもの反応を聴く——この手順は、発達心理学と医療倫理の両面から支持されている [1,2,4]。完璧な理解は求めない。ただ、問いかけること、聞こうとすることが、子どもの自律性の萌芽に応える行為になる。


References

  1. Committee on Bioethics, American Academy of Pediatrics. Informed consent, parental permission, and assent in pediatric practice. Pediatrics. 1995;95(2):314–317. PMID: 7478854.
  2. Katz AL, Macauley RC, Mercurio MR, et al. Informed Consent in Decision-Making in Pediatric Practice. Pediatrics. 2016;138(2):e20161484. PMID: 27456514. doi:10.1542/peds.2016-1484
  3. Gillick v West Norfolk and Wisbech Area Health Authority [1986] AC 112. House of Lords (UK).
  4. Hein IM, Troost PW, Lindeboom R, et al. Accuracy of the MacArthur Competence Assessment Tool for Clinical Research (MacCAT-CR) for measuring children's competence to consent to clinical research. JAMA Pediatr. 2014;168(12):1147–1153. PMID: 25317644. doi:10.1001/jamapediatrics.2014.1694
  5. Miller VA, Drotar D, Kodish E. Children's competence for assent and consent: a review of empirical findings. Ethics Behav. 2004;14(3):255–295. PMID: 15875339.
  6. Wendler D. Assent in paediatric research: theoretical and practical considerations. J Med Ethics. 2006;32(4):229–234. PMID: 16574878. doi:10.1136/jme.2004.011114