国際養子・トランスナショナルな育児 — 文化と記憶の橋渡し

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対象
国際養子縁組を検討・実践中の保護者、国際養子として育った人々、多文化家庭の支援者
文字数目安
2,200字
ステータス
ドラフト v1

リード

子どもが生まれた国と、育つ国が異なる。言語も、顔立ちも、食べてきたものも、祖先の記憶も。その距離をどう橋渡しするかは、国際養子縁組の家族が長年向き合ってきた問いであり、研究者たちが蓄積してきたテーマでもある。

答えは「文化教育をすれば解決する」ほど単純ではなく、「気にしなくてよい」ほど軽くもない。この記事では、国際養子の発達アウトカムに関するエビデンスと、文化的社会化(cultural socialization)をめぐる研究が示していることを整理する。

国際養子の発達アウトカム:エビデンスが示すこと

2005年にvan IJzendoornとJufferが発表した二本のメタ分析は、この分野の基礎文献として今も参照される。

ひとつ目は認知発達に関するもので、62研究・17,767人を対象に、養子に出された子どもと、出身家族に残った兄弟姉妹、あるいは養育先の同世代との比較を行った [1]。結果は大方において肯定的だった。出身家族に残った子どもと比べると、養子に出た子どもはIQ・学業成績ともに有意に高い水準を示した。一方で、養育先の非養子の同世代と比較すると、IQはほぼ同等だが、学業成績や言語能力はやや下回り、特別支援教育の利用率が約2倍であることも報告されている [1]。これを「国際養子縁組は問題がある」という証拠と読むか、「深刻な剥奪環境から回復できている」という証拠と読むかは、比較対象による。

もうひとつのメタ分析は行動・メンタルヘルス面を扱い、約4万例を対象とした [2]。国際養子は非養子の対照群と比べて行動問題が多い傾向があるが、は小さく(d=0.07〜0.11)、国内養子と比べると行動問題および精神科受診率は有意に低かった [2]。養育前の剥奪が重篤であるほどアウトカムが悪化する傾向があり、早期介入と良質な養育環境の重要性を示している。

21世紀初頭には年間約4万人が100か国以上を横断して養子縁組されていたが、その後は法整備の強化、送り出し国の変化、倫理的議論の深まりを受け、件数は大きく減少した [3]。Selmanの分析によれば、国際養子縁組のピークは2004年前後であり、2007年にはすでに下降局面に入っていた [3]。

文化的社会化という実践

発達アウトカム以上に、日常的な「文化と記憶の橋渡し」を担うのが文化的社会化(cultural socialization)の実践だ。これは出身文化の知識・言語・伝統・誇りを子どもに伝える養育行動を指す。

Leeは2003年の論文でトランスナショナルな養子縁組を「人種を越えた養子縁組のパラドクス」と呼んだ [4]。子どもは養育環境の文化に適応しながらも、外見上は出身国のエスニシティを体現し続ける。この非対称性が、思春期以降のアイデンティティ形成に影響しうる。文化的社会化の実践——出身国の料理を作る、言語の断片を学ぶ、歴史や文化に触れる機会を意図的につくる——は、子どもが二重のアイデンティティを肯定的に構築する足場になりうることが示されている [4]。

実践の形は家庭によって異なる。出身地を訪れるヘリテージ・ツーリズム、出身国のコミュニティや他の養子家族とのネットワーク、養子家族が集まる文化キャンプ等がその例として挙げられる。Tesslerらの調査(中国からの養子縁組家族を対象)は、文化的活動への積極的参加が親の態度と一貫しており、子どもがより肯定的な民族的アイデンティティを持ちやすい傾向を示した [5]。ただし、文化的活動を「与える」だけでは不十分で、それを家族の文脈のなかに自然に組み込む姿勢が重要だと指摘されている。

出自情報の権利と記録の役割

国際養子が成長したとき、多くの人が「自分はどこから来たのか」を問う。出生国、生物学的家族、養子に至った経緯——これらの情報へのアクセスは、アイデンティティ形成において無視できない意味を持つ。

出自情報(origin information)をどこまで開示するか、いつから話すかは、国際養子縁組における継続的な倫理的テーマだ。早期から率直に語りかけることを支持するエビデンスは蓄積されており、秘密にすることが後の心理的負担を高めるという見解は支持が広い [4]。

記録という行為はこの文脈でも意味を持つ。養子縁組前後の写真、出身地にまつわる物語、家族として積み上げてきた記憶——これらを丁寧に保存し、適切なタイミングで子どもと共有できる形にしておくことは、将来の「出自を問う旅」への準備にもなる。Memori のような記録アプリを、養子縁組家族が「共有の記憶の書庫」として活用する事例は増えている。

行動レベルへの落とし込み

文化的社会化の研究が示すのは、「文化に触れさせれば完了」ではなく、継続的で対話的な実践が重要だということだ。以下はひとつの参考として。

強制的な「文化づけ」は逆効果になりうる。子どもが自分のアイデンティティを能動的に引き受けるためには、「自分の話」として受け取れる文脈と、問いを立てても安全な関係性が前提になる。

まとめ

国際養子縁組の子どもたちは、さまざまな困難にもかかわらず、多くが良好な発達アウトカムを示す [1,2]。その文化的アイデンティティを支えるには、一方的な文化教育ではなく、双方向の対話と、出自情報への誠実な向き合いが鍵になる [4]。記録は過去を保存するだけでなく、子どもが自分の物語を語り始めたとき、その言葉を支える素材にもなる。


References

  1. van IJzendoorn MH, Juffer F, Klein Poelhuis CW. Adoption and cognitive development: a meta-analytic comparison of adopted and nonadopted children's IQ and school performance. Psychol Bull. 2005;131(2):301–316. PMID: 15740423. doi:10.1037/0033-2909.131.2.301
  2. Juffer F, van IJzendoorn MH. Behavior problems and mental health referrals of international adoptees: a meta-analysis. JAMA. 2005;293(20):2501–2515. PMID: 15914751. doi:10.1001/jama.293.20.2501
  3. Selman P. The rise and fall of intercountry adoption in the 21st century. Int Soc Work. 2009;52(5):575–594. doi:10.1177/0020872809337681
  4. Lee RM. The transracial adoption paradox: history, research, and counseling implications of cultural socialization. Couns Psychol. 2003;31(6):711–744. doi:10.1177/0011000003258087
  5. Tessler R, Gamache G, Liu L. West Meets East: Americans Adopt Chinese Children. Westport: Bergin & Garvey; 1999.