リード
育休を取りたいと思っている。でも、どう申し出ればいいかわからない。職場の空気がある。同僚への影響も気になる。そもそも、育休を取ることで子どもや家族に本当にメリットがあるのかも、よく確認できていない。
日本の育休制度は法律上、世界でも有数の長さを誇る。しかし実際の取得率は、制度の規模と比べると低い水準に長くとどまってきた——特に男性の場合は。
この記事では、育休の国際比較と、育休が家族に何をもたらすかについての研究知見を整理する。
世界の育休はどうなっているか
OECD 家族データベースが示す現状は、国ごとの格差の大きさを際立たせる [1]。有給の出産・育児休業期間は、母親向けで平均 25 週程度、父親向けは 12 週程度だが、その配分と実態は国によって大きく異なる。有給育休がほとんど存在しないアメリカと、1 年以上の充実した制度を持つ北欧諸国が、同じ比較表に並んでいる。
ノルウェーは 1993 年に「父親クォータ(daddy quota)」を導入した。育休の一部を父親専用に割り当て、父親が取得しなければその期間は消失するという設計だ。導入後、父親の育休取得率は急激に上昇した [2]。この制度は父親の育休取得における「規範の変化」を引き起こす手段として、後に複数の国が参考にしている。
スウェーデン、フィンランド、アイスランドも同様に、父親専用期間を設けた育休制度を持ち、OECD 平均を大きく上回る父親取得率を実現している。
育休は子どもに何をもたらすか
育休の子どもへの影響を縦断的に検証した研究のなかで、最も引用されるもののひとつが Carneiro らの研究だ [3]。ノルウェーで 1977 年に行われた出産休業制度の改革——無給の 12 週から、有給 4 ヶ月への転換——を自然実験: 政策や偶発的な出来事が生む条件の違いを疑似的な対照群として利用する観察研究手法として活用し、その後の子どもの学業達成を追跡した。
結果として、有給育休の導入は子どもの高校中退率を約 2 ポイント低下させ、30 歳時点の賃金を約 5% 上昇させる関連を示した [3]。この効果は、特に低学歴の母親の子どもで大きく現れた。研究者たちは、母親が産後早期に職場に戻ることを余儀なくされないことで、乳幼児期の親子のやり取りの質が向上したと考察している。
ただし、この研究は「有給育休の有無」という制度上の変化を比較したものであり、育休の長さが長ければ長いほど良いとは言っていない。別の研究では、育休が 1 年を超えると母親の職場復帰後の賃金・キャリアへの負の影響が出始めることが示されており [4]、最適な長さはトレードオフの問題として残る。
父親育休の意味
Cools らはノルウェーの父親クォート導入を自然実験として用い、父親の育休取得が子どもの学業成績に与える影響を分析した [2]。父親の教育水準が母親より高い場合に、子どもの 16 歳時点の成績向上という正の効果が観察された。
父親が育休を取る意義は、子どもへの影響だけではない。父親自身がケアの実践に関わることで、その後の育児参加の量と質が変化するという経路が想定されている。父親クォータの背景には、育休という「制度」が規範の変化を促すという政策的な仮説がある。
一方、育休の効果には、「取ったかどうか」だけでなく「その間に何をしたか」も重要であることは強調すべきだ。育休中に主たるケアを担った父親と、在宅で仕事を続けた父親では、その後の育児参加に違いが見られることが複数の研究で指摘されている。
日本の状況
日本の育児休業制度は、法律上は世界でも長い部類に入る。しかし実態としての取得率は、制度の充実度に比べて低い水準が続いてきた。
厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、女性の育休取得率は長らく 80% 台を維持してきた一方、男性は長く一桁台にとどまっていた [5]。近年は急速に上昇し、2023 年度には男性の取得率が初めて 30% を超え、2024 年度には約 40% に達した [5]。2022 年の育児・介護休業法改正により、育休取得の意向確認が事業主に義務づけられたことが大きな要因とされる。
それでも、OECD 北欧諸国と比べれば取得期間や育休中の給付率に課題が残る。また、取得率の数字が上がっても、育休中にケアを実際に担った割合が同様に上昇しているかは、別途検証が必要な問いだ。
行動レベルへの落とし込み
育休の研究知見が示す実践的な示唆を整理する。
取得の長さより「中身」を考える。研究が示すのは、育休の存在が親子のやり取りの質に関わるという経路だ [3]。日数を稼ぐより、その期間に子どもとどう関わるかのほうが意味を持つ可能性がある。
父親育休は「手伝い」ではない。父親クォータの思想的背景は、育児の責任を均等に担う主体として父親を位置づけることにある [2]。「妻のサポート」という枠組みで育休を取ると、その後の育児参加パターンが変わりにくい傾向がある。
職場への働きかけは早めに。取得を申し出るタイミングが遅いと、引き継ぎや職場調整の時間が不足し、復帰後の負担も増える。制度の利用は権利であるが、その行使には文脈の整理が必要だ。
育休中の記録は、後になってから非常に価値が出ることが多い。日々の小さな変化——初めて自分で食べた、言葉らしい音を出した——を書き留めておく習慣は、育休という時間に意味を重ねていく。
まとめ
育休の国際比較が示すのは、制度の設計が取得行動を変え、取得行動が家族のアウトカムに影響するという連鎖だ [1,3]。「育休が良いか悪いか」という問いより、「どのような育休が、誰に、どのような条件で有効か」を問うほうが、現実に即している。
日本の取得率は急速に変化している段階にある [5]。制度と実態の間にある溝は、数字だけでは見えない。育休を「取った/取れなかった」だけでなく、「その時間に何をしたか」として語れるようになることが、次の問いになるかもしれない。
References
- OECD. OECD Family Database: PF2.1 Parental leave systems. Paris: OECD; 2023. https://www.oecd.org/en/data/datasets/oecd-family-database.html
- Cools S, Fiva JH, Kirkebøen LJ. Causal effects of paternity leave on children and parents. Scand J Econ. 2015;117(3):801–828. doi:10.1111/sjoe.12113.
- Carneiro P, Løken KV, Salvanes KG. A flying start? Maternity leave benefits and long-run outcomes of children. J Polit Econ. 2015;123(2):365–412. doi:10.1086/679627.
- Rossin-Slater M. Maternity and family leave policy. NBER Working Paper 23069. National Bureau of Economic Research; 2017. doi:10.3386/w23069.
- 厚生労働省. 令和6年度雇用均等基本調査. 2025. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r06/06.pdf
- Ruhm CJ. Parental leave and child health. J Health Econ. 2000;19(6):931–960. doi:10.1016/S0167-6296(00)00047-3. PMID: 11186847.
- Patnaik A. Reserving time for daddy: the consequences of fathers' quotas. J Labor Econ. 2019;37(4):1009–1059. doi:10.1086/703115.