リード
「わかった!」と言った直後に、全く違うことをやっている。「できる」と言い張って挑戦し、すぐ諦める。「知ってる」と言ったのに、説明を求めると黙ってしまう。
4〜6歳の子どもと過ごしていると、こういう場面に何度も出会う。これを「嘘をついている」や「自信過剰」と片づけるのは、少し早い。子どもが「自分の知識や理解について正確に把握する能力」——メタ認知——を発達途上にあるという事実を見落とすことになる。
メタ認知とは何か
「メタ認知: 自分の思考や理解の状態を把握・監視・制御する能力(metacognition)」は、1970年代に心理学者 John Flavell が概念化した [1]。自分の思考について考える能力、つまり「自分が何を知っていて、何を知らないか」を把握し、モニタリングし、制御する能力の総称だ。
Flavell は、メタ認知を「メタ認知的知識(自分の認知能力についての信念)」と「メタ認知的経験(認知的活動の中で生じる気づき)」に分けて論じた [1]。たとえば「この問題は難しいと感じる」という気づきは後者、「私は数字が得意だ」という自己理解は前者に相当する。
この概念を発達論的に整理したのが Schraw と Moshman だ [2]。彼らは、メタ認知を「知識の知識(knowledge of cognition)」と「認知の調整(regulation of cognition)」に分け、前者には宣言的知識・手続き的知識・条件的知識が含まれると整理した。子どもがいつ、どの順序でこれらを獲得するかは、今も研究が続いている。
5〜6歳の子どもは何ができるか
幼児期のメタ認知発達については、誤信念課題(false belief task)の研究が重要な参照点となる。Wimmer と Perner が 1983 年に考案したこの課題は、他者が自分と異なる信念(誤った信念)を持つことを理解できるかを検査するものだ [3]。この理解は「心の理論: 他者が自分と異なる信念・欲求・意図を持つことを推測する認知能力(Theory of Mind)」と呼ばれ、4〜5歳前後に多くの子どもで出現する。
ただし、他者の誤信念を理解することと、自分自身の認知をモニタリングすることは別の能力だ。後者——いわゆる自己のメタ認知モニタリング——は、5〜6歳ではまだ不安定で、過信(自分が知っていると思い込む)が起きやすい。
この点は Kuhn が 2000 年のレビューで整理している [4]。Kuhn は、幼い子どもが「自分は知っている」という確信を持ちやすく、自分の理解の限界を認識することが難しい段階から、徐々に「わかっていないことがわかる」能力が育つプロセスを論じた。5〜6歳は、この移行期のちょうど入り口に当たる。
観察研究が示す「できていること」
Whitebread らは、3〜5歳の子どもを自然な保育環境の中で観察し、どのようなメタ認知的・自己制御的行動が見られるかを体系的に記録した [5]。彼らが開発した観察ツール CHILD 3-5 を用いた分析では、582 件のメタ認知的または自己制御的エピソードが同定された。
観察された行動には、「うまくいかないとき自分でやり方を変える」「課題を始める前に計画する様子を見せる」「できた・できないを自分で評価するコメントをする」などが含まれた [5]。これらは、日常生活では見落とされやすいが、注意を向けると確かに存在する。
重要なのは、この段階のメタ認知は「宣言的(言葉で説明できる)」よりも「手続き的(行動の中に現れる)」な形を取ることが多いという点だ。「自分はわかっていない」と言葉で言えない子どもが、問題に詰まったとき静かに別のやり方を試す——そういう形でメタ認知は動いている。
大人にできること
メタ認知の発達は、日常の関わりの中で促される部分がある。ただしここでは慎重さが必要で、「教えれば育つ」と単純化するのは難しい。発達のタイミングには個人差があり、強制的なトレーニングが有効だという確固たるエビデンス: 科学的根拠は現時点では限られている。
それでも、いくつかの関わり方が発達を支える可能性がある。
「わからない」を言語化できる環境。「わかった?」と聞くより「どこがむずかしかった?」と聞く方が、理解の限界を言葉にする練習になる。
失敗を問題解決の素材として扱う。うまくいかなかったとき「どうしてうまくいかなかったと思う?」と一緒に考える。答えを教えることよりも、「気づく」プロセスを共有することが、モニタリング能力の発達を支える可能性がある。
「知っている」と「できる」を分けて問う。「わかる?」「できる?」という問いは、子どもに一つの答えしか求めない。「知ってるんだけど、説明が難しいこともあるよね」のような言葉を加えると、完全な理解と部分的な理解の間に空間が生まれる。
育児記録の視点で言えば、子どもが「できた」と言った場面と、実際にできた場面を両方記録しておくと、その子のメタ認知的正確さの傾向が時系列で見えてくることがある。記録は評価のためでなく、観察の精度を上げるためのツールとして機能する。
まとめ
「わかった!」と言う子どもは、嘘をついているわけではない。自分の理解を正確に把握するメタ認知能力が、まだ発達の途中にある。
Flavell が概念化し [1]、Whitebread らが観察で示した [5] この能力の萌芽は、5〜6歳では確かに存在するが、不安定で、文脈に依存している。それは弱さではなく、発達の自然なプロセスだ。
「わからないことをわかる」能力が育つ過程を横で見ているのは、育児のなかでも地味だが豊かな体験のひとつだと思う。
References
- Flavell JH. Metacognition and cognitive monitoring: a new area of cognitive-developmental inquiry. Am Psychol. 1979;34(10):906–911. doi:10.1037/0003-066X.34.10.906.
- Schraw G, Moshman D. Metacognitive theories. Educ Psychol Rev. 1995;7(4):351–371. doi:10.1007/BF02212307.
- Wimmer H, Perner J. Beliefs about beliefs: representation and constraining function of wrong beliefs in young children's understanding of deception. Cognition. 1983;13(1):103–128. doi:10.1016/0010-0277(83)90004-5.
- Kuhn D. Metacognitive development. Curr Dir Psychol Sci. 2000;9(5):178–181. doi:10.1111/1467-8721.00088.
- Whitebread D, Coltman P, Pasternak DP, Sangster C, Grau V, Bingham S, Almeqdad Q, Demetriou D. The development of two observational tools for assessing metacognition and self-regulated learning in young children. Metacogn Learn. 2009;4(1):63–85. doi:10.1007/s11409-008-9033-1.