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「どの窓口に最初に行けばいいのか」。発達支援を始めた保護者が最初に直面するのは、多くの場合この問いだ。療育手帳、特別児童扶養手当、自立支援医療、障害児福祉手当——制度の数は多く、それぞれ別の法律に基づいて別の窓口で動いている。
全部をいっぺんに把握する必要はない。今いる段階で何が使えるかだけ整理できれば、次の選択肢が見えてくる。以下は日本の制度を前提とした整理だ。
前提:制度は「重なりあっている」
まず理解しておきたいのは、発達支援の制度は単一の体系ではなく、複数の法律に基づく制度が重なりあって機能しているという点だ。療育手帳は知的障害を対象とし、精神障害者保健福祉手帳は精神疾患(発達障害を含む)を対象とする。身体障害者手帳は身体的障害が対象で、発達障害単独では該当しない [1,2,3]。
「手帳は1種類だけ」ではなく、対象の状態によっては複数の手帳が同時に交付される場合がある。また療育手帳の名称・判定基準は都道府県・政令指定都市ごとに異なり(例:東京都は「愛の手帳」、横浜市は「愛護手帳」)、等級区分もA・B(重度・中軽度)の2分類が多いが地域差がある [4]。
日本では発達障害の診断・支援の認知度が高まり、特別支援教育に在籍する児童生徒数は2012年の18万人から2022年には34万人超と10年で約2倍になっている [5]。
出生直後から使える制度 — 未熟児養育医療
在胎週数が短い、または出生時体重2,000g以下などの要件を満たす場合、母子保健法第20条に基づく未熟児養育医療として、入院に要する医療費を公費負担する制度がある [6]。申請先は市区町村で、保護者の所得に応じて一部自己負担が残る場合がある。退院後の継続的な医療費については、自立支援医療(育成医療)の対象となるか確認する。
自立支援医療(育成医療)— 身体障害のある子どもの医療費
障害者総合支援法: 障害のある人の日常生活・社会参加を総合的に支援する法律(2013年施行)第58条に基づき、18歳未満で身体に障害のある子どもの手術・入院・外来医療費を、原則1割負担に軽減する(自立支援医療: 育成医療・精神通院医療等を含む、障害者の医療費を公費で軽減する制度)制度だ [7]。
注意点として、精神科的疾患(発達障害を含む)には原則適用外である。対象は肢体不自由・視覚・聴覚・言語・心臓・腎臓・免疫等の身体的障害が中心だ。申請は市区町村の障害福祉担当課または指定育成医療機関を通じて行う。
療育手帳 — 知的障害の判定
知的障害が認められる場合、都道府県・政令指定都市が療育手帳を交付する。法的根拠は厚生省通知(昭和48年通知、その後の改正あり)で、法律上の根拠法は現時点でない点が特徴的だ [4]。自治体ごとに申請窓口・名称・判定方法が異なるため、まず住んでいる市区町村の障害福祉担当課に問い合わせることが最初のステップになる。
手帳取得後のメリットには、所得税・住民税の障害者控除、交通機関の割引、特別支援学校への就学申請時の参考資料としての活用、一部自治体の独自給付などがある。
精神障害者保健福祉手帳 — 発達障害も対象
精神保健福祉法に基づき、精神疾患を有する者(18歳未満も対象)に精神障害者保健福祉手帳が交付される [8]。発達障害(ASD: 自閉スペクトラム症。社会的コミュニケーションの困難と限定的・反復的行動を特徴とする発達障害・ADHD: 注意欠如・多動症。不注意・多動・衝動性を主症状とする発達障害等)は精神疾患として扱われるため、診断確定後に申請できる。
等級は1〜3級で、等級に応じて所得税・住民税の軽減、交通割引、就労支援の利用などが可能になる。申請は市区町村の障害福祉担当課を通じて都道府県が判定する。療育手帳(知的障害対象)と精神障害者保健福祉手帳(精神疾患対象)は制度上別物であり、両方の要件を満たす場合は両方取得することがある。
特別児童扶養手当・障害児福祉手当
特別児童扶養手当は、20歳未満の精神・身体・発達障害のある子どもを養育する保護者に支給される手当だ(所得制限あり)。2024年度の支給額は1級57,130円/月、2級38,140円/月 [9]。申請先は市区町村の担当窓口。
障害児福祉手当は、在宅で生活する重度障害のある20歳未満の子ども本人に直接支給される制度だ [10]。施設入所や入院中は支給対象外になる。
「グレーゾーン」段階での相談
診断がついていない、または判定待ちの段階でも、相談することと申請することは別だ。「まず相談だけ」という使い方は積極的に推奨できる。
市区町村の「発達支援センター」「基幹相談支援センター」「子育て世代包括支援センター」などが窓口として機能し、何の手帳・手当が使えるかの案内をしてくれる。相談記録を残しておくと、後の申請時に経緯が整理しやすくなる。
Yamamoto ら(2020)の全国調査に基づく研究では、日本における発達障害の有病率推計値は調査時点・調査方法によって幅があるが、診断・支援認知度の向上が一次スクリーニング率の上昇につながっていることが示されている [11]。
行動レベルへの落とし込み
- 最初の窓口: 市区町村の「障害福祉担当課」または「発達支援センター(基幹相談支援センター)」を訪ねる。手帳や手当の申請案内はここから始まる
- 「手帳が取れるか不安」という段階でも: 相談自体は申請ではない。まず話を聞きに行くことが出発点になる。相談内容を育児記録等に日付とともに残しておくと、後の経緯整理に役立つ
- 複数の手帳の可能性: 療育手帳(知的障害)と精神障害者保健福祉手帳(発達障害)は別制度。両方使える場合があるので、主治医と窓口担当者に確認する
- 特別児童扶養手当の所得制限: 所得制限の上限は毎年改定される。前年に対象外だった場合でも、家族構成や所得の変化で対象になる年がある。毎年確認する価値がある
まとめ
発達支援の制度は、制度ごとに根拠法・窓口・対象者が異なる複雑な体系だ。しかし入口は「市区町村の障害福祉担当課または発達支援センターに相談する」という1点に集約できる。
申請主義の構造上、制度を知らなければ受け取れる支援が届かない。今どの段階にいるかにかかわらず、相談記録を残す習慣は後の申請手続きを助ける。
References
- 身体障害者福祉法第15条(身体障害者手帳). e-Gov 法令検索.
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第45条(精神障害者保健福祉手帳). e-Gov 法令検索.
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法). e-Gov 法令検索.
- 厚生労働省. 療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生省発児第156号通知). https://www.mhlw.go.jp/
- 文部科学省. 特別支援教育資料(令和5年度). https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1406456_00010.htm
- 母子保健法第20条(未熟児養育医療). e-Gov 法令検索.
- 障害者総合支援法第58条(自立支援医療). e-Gov 法令検索.
- 精神保健福祉法第45条(精神障害者保健福祉手帳). e-Gov 法令検索.
- こども家庭庁. 特別児童扶養手当について(令和6年度額改定). 2024. https://www.cfa.go.jp/policies/tokubetsu-jido/
- 厚生労働省. 障害児福祉手当について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jido/jido.html
- Yamamoto S, Kazama M, et al. Prevalence and characteristics of developmental disabilities in Japan: based on nationwide survey. Brain Dev. 2020;42(2):106–112. doi:10.1016/j.braindev.2019.10.006. PMID: 31735377