リード
深夜、子どもが突然「ケーンケーン」「オットセイのような」咳で目を覚ます。昼間はそれほどひどくなかった風邪症状が、夜になって急変したように見える。初めて経験した保護者は、たいてい強い恐怖を感じる。この音がクループ(喉頭気管気管支炎)だ。怖い音だが、適切な対処を知っていれば大多数はパニックにならずに済む。デキサメタゾン1回の内服で劇的に改善することもある疾患だ [1,2]。
クループとは何か
クループは声門下: 声帯のすぐ下の気道部分。乳幼児では特に狭く、浮腫で容易に閉塞する(声帯のすぐ下)の浮腫による上気道狭窄症候群だ。原因ウイルスはパラインフルエンザウイルス1型が最多で、次いでRSV・ライノウイルス等が続く [3]。好発年齢は6ヶ月〜3歳で、秋〜冬に多い。
特徴的な3つの症状がある。
- 犬吠様咳嗽(いぬぼえようがいそう): 「ケーンケーン」「オットセイ」「ふいご」のような乾いた咳
- 嗄声(させい・しわがれ声): 声帯周囲が浮腫を起こすため声が低くしゃがれる
- 吸気性喘鳴(きゅうきせいぜんめい): 息を吸う時に「ゼー」という音がする
夜間に悪化しやすいのはこの疾患の特徴で、同じ夜に複数回起こることもある。夜間に悪化し昼間には軽快するというパターンが繰り返されることも多い。
重症度と治療
クループの重症度評価にはWestley Croupスコアが広く用いられる [4]。吸気性喘鳴・陥没呼吸・空気入り・チアノーゼ・意識状態の5項目を0〜17点でスコア化する。
- 軽症(≦2点): 安静時には喘鳴がなく、わずかな陥没呼吸のみ。家庭での対応が可能
- 中等症(3〜7点): 安静時にも喘鳴が聞こえ、陥没呼吸が明らか。医療機関での評価と治療が必要
- 重症(≧8点): チアノーゼ・意識障害・強い陥没呼吸。入院が必要
治療の第一選択はデキサメタゾン: 強力なステロイド薬。クループでは気道粘膜の浮腫を抑え、1回投与で数時間以内に症状が改善することが多い経口投与(0.15〜0.6 mg/kg)だ。コクランのシステマティックレビューでは、ステロイド投与によりクループのWestleyスコアが有意に改善し、再受診率・入院率が低下することが示されている [2]。効果は投与後30分〜数時間以内に現れることが多く、1回の投与で改善が持続する。ブデソニドの吸入もほぼ同等の効果がある [5]。
重症例ではエピネフリン: アドレナリンとも呼ぶ。気道粘膜の血管を収縮させ浮腫を一時的に軽減するが、効果は短時間(アドレナリン)の吸入が用いられる。効果は20〜30分程度と短く、その後のリバウンドに注意が必要なため、エピネフリン投与後は医療機関での経過観察が必要だ。
夜間の家庭対応
子どもが犬吠様咳で目を覚ました場合、まず落ち着かせることが最優先だ。泣いたり興奮したりすると呼吸仕事量が増え、症状が悪化する。抱っこして静かな環境に移すことが有効なことが多い。
冷たい空気や加湿された空気が気道浮腫を和らげるという考え方から、夜間に外の冷気を吸わせる・浴室で蒸気を吸わせるという対応が伝統的に行われてきた。エビデンスは限定的だが実害は少ない [3]。ただしこれらで改善がない場合、または悪化する場合は医療機関の受診が必要だ。
即座に受診が必要なサイン
以下のサインが一つでもあれば、時間帯にかかわらず受診または救急車を呼ぶことを検討する。
- 安静にしていても喘鳴が消えない
- 陥没呼吸(首の下・肋間が呼吸のたびにへこむ)が明らか
- チアノーゼ(口唇・爪が青紫)
- よだれが大量に出て前傾姿勢をとる(これは喉頭蓋炎との鑑別が必要なサイン)
- ぐったりして意識が薄い
喉頭蓋炎は外観がクループに似た別疾患で、急速に進行し気道閉塞を起こしうるため、これらのサインは見逃せない。
行動レベルへの落とし込み
- 「夜中の犬吠様咳+嗄声」の組み合わせを見たら、まず落ち着かせる
- 安静時にも喘鳴が続く・陥没呼吸があれば夜間でも受診する
- デキサメタゾンを処方された場合は、1回での改善が期待できることを知っておく
- 症状が出た時刻・程度・継続時間を記録しておくと、複数回の夜間エピソードの把握に役立つ
- 再発率が15〜20%と比較的高いため、翌年の秋冬に再び発症することがある [3]
まとめ
クループの犬吠様咳は保護者の不安をかき立てるが、大多数は適切なステロイド治療で改善する。「怖い音=危険」ではなく、「怖い音+これらのサインがあれば受診」という整理が、夜間の判断を助ける。
References
- Johnson DW. Croup. BMJ Clin Evid. 2014;2014:0321. PMID: 25164439.
- Russell KF, Liang Y, O'Gorman K, Johnson DW, Klassen TP. Glucocorticoids for croup. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(1):CD001955. doi:10.1002/14651858.CD001955.pub3. PMID: 21249651.
- Bjornson CL, Johnson DW. Croup in children. CMAJ. 2013;185(15):1317–1323. doi:10.1503/cmaj.121645. PMID: 23939212.
- Westley CR, Cotton EK, Brooks JG. Nebulized racemic epinephrine by IPPB for the treatment of croup: a double-blind study. Am J Dis Child. 1978;132(5):484–487. doi:10.1001/archpedi.1978.02120300044009. PMID: 347921.
- Cetinkaya F, Tüfekçi BS, Kutluk G. A comparison of nebulized budesonide, and intramuscular, and oral dexamethasone for treatment of croup. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2004;68(4):453–456. doi:10.1016/j.ijporl.2003.11.015. PMID: 15013633.