リード
夏になると保育園から「手足口病が流行しています」という通知が届く。多くの場合、子どもは数日で回復し、親もひと安心する。実際、手足口病の大多数は自然に軽快する良性疾患だ。しかしすべての流行が同じではない。コクサッキーウイルスA16による感染は大多数が軽症だが、エンテロウイルスA71(EV-A71)が流行した年には無菌性髄膜炎: 細菌ではなくウイルスが原因の髄膜炎。頭痛・嘔吐・項部硬直が主症状で多くは自然軽快するが重症化もあるや脳幹脳炎が一定の割合で報告される [1,2]。軽症の多さと合併症の深刻さの両方を正確に知っておくことが、適切な受診判断につながる。
病原体と流行の多様性
手足口病の原因は主にエンテロウイルス属のウイルスで、コクサッキーウイルスA16が全体の50〜60%を占める。EV-A71は10〜20%程度だが、地域・年によってその比率は変動する [3]。日本では毎年夏(6〜8月)に流行のピークを迎え、0〜5歳の乳幼児に集中する。大人も感染するが、症状は軽いか無症状のことが多い。
感染経路は飛沫感染・接触感染・糞口感染で、便からのウイルス排泄は症状が改善した後も2〜4週間続く。このため、見かけ上回復した子でも手洗いの徹底が続く間は感染源になりうる。
典型的な症状と経過
発熱は比較的軽度(37〜38℃程度)で、同時に口腔内(舌・頬粘膜・歯茎)に水疱性の口内炎が出る。手のひら・足の裏・お尻周囲にも特徴的な発疹が現れる。この「手・足・口の3カ所」への発疹が名称の由来だ。
口内炎の痛みが強く、哺乳や飲食を嫌がることがある。これが続くと脱水につながるため、水分摂取が維持できているかどうかが在宅ケアの最大の観察ポイントだ。通常7〜10日で自然軽快する。
EV-A71と重症合併症
問題になるのはEV-A71が原因の場合だ。EV-A71感染では無菌性髄膜炎(頭痛・嘔吐・項部硬直: 髄膜炎で首の後ろが硬直し前屈が困難になる所見)が合併することがあり、さらに稀ではあるが脳幹脳炎を引き起こすことがある。台湾・マレーシアでのEV-A71大流行での臨床研究では、EV-A71感染児の一部に筋クローヌス: 筋肉が反射的に素早くぴくつく不随意運動。脳炎合併時に見られることがある(ぴくつき)、睡眠障害、歩行困難、急速な意識障害を伴う重症例が記録された [1,2]。
重症化サインとして覚えておくべきは以下の4つだ。
- 40℃以上の高熱が続く
- 2日以上続く嘔吐
- ぐったりして反応が悪い、ぼーっとしている
- けいれん、または手足のぴくつきが繰り返し起こる
これらのうち1つでも当てはまる場合は、早急に医療機関を受診することが推奨される。
家庭ケアと感染対策
手足口病に対する特効薬はなく、治療は症状への対応(対症療法)が中心だ。口内炎の痛みには、冷たい飲み物・ゼリー・アイスクリームなど刺激の少ない冷たい食品が一定の緩和効果を持つ。熱い・辛い・酸っぱい食品は痛みを増悪させるため避けるとよい。
感染対策として最も効果があるのは手洗いだ。特におむつ交換後・食事前・排便後の手洗いが重要で、保護者自身も感染しうることを念頭に置く。プールや水遊びは感染期間中は控えることが一般的に推奨されている。
保育園・幼稚園の出席停止については、法令上の出席停止疾患には指定されていないが、発症初期(特に発熱がある間・水疱がつぶれていない間)は自宅待機が多くの施設で求められる。
行動レベルへの落とし込み
- 口内炎の痛みで飲めない状態が続く場合は脱水サインを確認する
- 「高熱+嘔吐+ぐったり」が重なったら脳炎合併を疑い受診する
- 症状が消えた後も手洗いを続ける(ウイルス排泄が続くため)
- 大人(保護者)への感染もある。おむつ交換後の手洗いを習慣化する
- 発症日・発疹が出た場所・口内炎の程度を記録しておくと、かかりつけ医との情報共有がしやすくなる
まとめ
手足口病の圧倒的多数は軽症で経過するが、EV-A71が関与する年には重症合併症の可能性がある。「いつもの夏風邪」と一律に見ないために、重症化サインだけを押さえておく。その1点で、家庭での観察の質は変わる。
References
- Chang LY, Huang LM, Gau SS, et al. Neurodevelopment and cognition in children after enterovirus 71 infection. N Engl J Med. 2007;356(12):1226–1234. doi:10.1056/NEJMoa065954. PMID: 17377161.
- Huang CC, Liu CC, Chang YC, Chen CY, Wang ST, Yeh TF. Neurologic complications in children with enterovirus 71 infection. N Engl J Med. 1999;341(13):936–942. doi:10.1056/NEJM199909233411302. PMID: 10498488.
- Solomon T, Lewthwaite P, Perera D, Cardosa MJ, McMinn P, Ooi MH. Virology, epidemiology, pathogenesis, and control of enterovirus 71. Lancet Infect Dis. 2010;10(11):778–790. doi:10.1016/S1473-3099(10)70194-8. PMID: 20961813.
- Ooi MH, Wong SC, Lewthwaite P, Cardosa MJ, Solomon T. Clinical features, diagnosis, and management of enterovirus 71. Lancet Neurol. 2010;9(11):1097–1105. doi:10.1016/S1474-4422(10)70209-X. PMID: 20965438.