リード
RSウイルス (RSV: Respiratory Syncytial Virus) は2歳までにほぼすべての子が感染する、ありふれたウイルスだ [1]。成人や学童では「少しひどい鼻風邪」程度で終わることが多い。しかし生後6ヶ月未満の乳児では、同じウイルスが細気管支炎や肺炎を引き起こし、入院に至るケースが珍しくない [2]。何が重症化を左右するのか、予防の選択肢はどう変わったのかを整理する。
RSVの疫学と重症化を左右するもの
RSVは秋〜冬を中心に流行し、北半球では概ね10月から翌3月にかけてピークを迎える [1]。感染経路は飛沫と接触であり、保護者や兄弟から乳児へ伝播するケースが多い。
重症化しやすい群として一貫して報告されているのは、早産児(在胎37週未満)、先天性心疾患のある子、慢性肺疾患(気管支肺異形成症: 早産や人工呼吸器管理後に生じる慢性肺疾患。気管支の発達が妨げられ呼吸障害が続くなど)、免疫不全状態、そして月齢3ヶ月未満の健康な乳児だ [2,3]。生後6ヶ月未満の罹患者全体でみると、約2〜3%が入院を要する重症経過をたどるとされる [2]。
乳児が重症化しやすい理由は解剖学的特徴にある。細気管支の内径が極めて細いため、炎症による粘膜浮腫と分泌物が管腔を容易に閉塞させる。また免疫応答が成熟しておらず、ウイルス排除に時間がかかることも重なる。
症状 — 鼻水から呼吸困難へ
典型的な経過は2段階だ。最初の2〜4日は鼻水・軽微な発熱・咳といった上気道症状が続く。その後、一部の乳児では下気道へ炎症が波及し、喘鳴: 空気が狭い気道を通ることで生じるゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音(ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)、多呼吸: 安静時の呼吸数が年齢の正常域を超えた状態。乳児では60回/分超が目安(60回/分を超える)、陥没呼吸: 吸気時に首の下・肋間・鎖骨上部がへこむ呼吸困難のサイン、哺乳困難が出現する [2]。
入院を要するサインとして広く参照されているのは、SpO₂ 95%未満の持続、平常時の50%未満しか哺乳できない状態、顕著な多呼吸と陥没呼吸だ [2]。チアノーゼ(口唇が青紫になる)はより緊急度が高い。これらのサインが見られた場合は時間を置かずに受診することが望ましい。
予防の選択肢 — nirsevimabの登場
長年、高リスク乳児に対する予防手段としてはパリビズマブ(商品名シナジス)が使われてきた。月1回の筋肉注射で、高リスク児のRSV関連入院を約55%減少させる効果が示されている [3]。ただし適応は限定的で、月1回の通院も負担になりえた。
2022〜2023年に実施された大規模臨床試験で、ニルセビマブ(nirsevimab)という新しいモノクローナル抗体製剤が注目された。1回の投与で1シーズン有効な受動免疫を付与するもので、健康な足月産・晩期早産児を対象にしたHARMONIE試験ではRSV関連入院を83%減少させたと報告されている [4]。適応の拡大に伴い、ハイリスクかどうかにかかわらず使用が検討されるようになっている。
妊娠中の母体へのRSVワクチン接種という選択肢も生まれている。バイバレント・プレフュージョンFワクチン(Abrysvo)を妊婦に投与することで胎盤を通じて抗体を移行させ、生後3〜6ヶ月の乳児をRSV重症疾患から守るアプローチだ。2023年に報告されたMATISSE試験では、生後90日未満のRSV重症下気道疾患を69%減少させた [5]。各国での承認状況は異なるため、かかりつけの医師・産科医に最新の選択肢を確認することが推奨される。
治療と家庭ケア
RSVに対する特異的な抗ウイルス薬は現時点で一般的に使用できない。治療の軸は支持療法だ [2]。
家庭でできることは、こまめな鼻吸引で鼻閉を軽減し、水分補給を十分に行うことだ。哺乳量が目に見えて減った場合は悪化のサインと捉えてよい。入院が必要と判断された場合は、酸素投与が中心となり、呼吸困難が強い場合は鼻カニュラによる高流量酸素療法(ハイフローセラピー)が用いられることもある。
行動レベルへの落とし込み
- 生後最初の秋冬を迎える前に、かかりつけ医にニルセビマブや母体ワクチンの選択肢を確認する
- 高リスク児の保護者は「喘鳴・多呼吸・哺乳困難」の3つを観察の目安として把握しておく
- 保育園開始直後の秋はRSVシーズンと重なりやすく、上の兄弟からの持ち込みに注意が必要
- 症状開始から悪化する場合の典型的な経過(2〜4日目が最悪化しやすい)を記録アプリ等に日付とともに残しておくと、受診時に経過の共有がしやすくなる
まとめ
RSVは2歳までに全員が感染するウイルスだが、乳児では重症化リスクが成人とは根本的に異なる。nirsevimabや母体ワクチンという新しい予防手段が実用段階に入っており、選択肢は以前より広がった。重症化サインを保護者が知っておくことが、適切なタイミングでの受診につながる。
References
- Glezen WP, Taber LH, Frank AL, Kasel JA. Risk of primary infection and reinfection with respiratory syncytial virus. Am J Dis Child. 1986;140(6):543–546. doi:10.1001/archpedi.1986.02140200053026. PMID: 3706232.
- Ralston SL, Lieberthal AS, Meissner HC, et al.; American Academy of Pediatrics. Clinical practice guideline: the diagnosis, management, and prevention of bronchiolitis. Pediatrics. 2014;134(5):e1474–e1502. doi:10.1542/peds.2014-2742. PMID: 25349312.
- Simões EAF, Carbonell-Estrany X, Fullarton JR, et al. A predictive model for respiratory syncytial virus severity in children. Pediatr Infect Dis J. 2008;27(9):791–797. doi:10.1097/INF.0b013e318172fa80. PMID: 18679152.
- Drysdale SB, Cathie K, Flamein F, et al.; HARMONIE Trial Group. Nirsevimab for prevention of hospitalizations due to RSV in infants. N Engl J Med. 2023;389(26):2425–2435. doi:10.1056/NEJMoa2309189. PMID: 38048191.
- Kampmann B, Madhi SA, Munjal I, et al.; MATISSE Study Group. Bivalent prefusion F vaccine in pregnancy to prevent RSV illness in infants. N Engl J Med. 2023;388(16):1451–1464. doi:10.1056/NEJMoa2216480. PMID: 37018468.