リード
激しい嘔吐から始まり、水のような下痢が数日続く。体が小さい乳幼児にとって、この脱水が直接的な危険になる。ロタウイルス胃腸炎の典型的な経過だ。世界では5歳未満の子どもの胃腸炎入院の主要な原因であり続け、2013年時点で年間約12.8万人の5歳未満児が死亡していた [1]。しかし多くの国でワクチン定期接種が始まって以降、入院件数は大きく減少した。何が変わり、何が変わっていないかを整理する。
ロタウイルスの特徴と経過
ロタウイルスは二本鎖RNAウイルスで、G型とP型の組み合わせによって多様な遺伝型をもつ。感染経路は糞口感染: 感染者の便中のウイルスが口から取り込まれることで広がる感染経路であり、感染力が非常に強い。冬〜春、北半球では2〜4月がピークとなることが多い。
潜伏期は1〜3日。症状は嘔吐が先行し、その後に水様性下痢が始まるパターンが特徴的だ。発熱を伴うことも多い。下痢は5〜8日程度続くこともあり、この間に大量の水分と電解質が失われる。重症例では意識障害やけいれんを起こすこともあるが、最大のリスクはやはり脱水の進行だ。
乳幼児は体重あたりの体液量が多く、脱水の進行が速い。「吐いた・出た」量を目で確認しながら、水分をどこまで補充できているかを継続的に観察することが、在宅ケアの要点になる。
ワクチン定期化の意味
2006年に2つの経口生ワクチンが承認された。ロタリックス(1価、2回経口投与)とロタテック(5価、3回経口投与)で、どちらも入院を要する重症ロタウイルス胃腸炎に対して70〜85%の有効率が示されている [2,3]。WHO は2013年のポジションペーパーで、ロタウイルスワクチンをすべての国の定期接種プログラムに組み込むよう勧告した [4]。
日本では2020年10月から定期接種化され、無償接種の対象となった。ワクチン導入後のサーベイランスでは、ロタウイルスによる入院が定期接種前と比べて顕著に減少している。
ただしワクチン接種率が100%ではないこと、ワクチンが失敗することも一定の確率であること、ワクチン接種前の世代の保護者が乳児へ感染させうることは、理解しておく必要がある。
脱水の見極めと経口補水液
軽度の脱水では口や舌が乾き、泣いても涙が少なくなる。中等度以上になると眼球陥凹(目がくぼむ)、皮膚を軽くつまんで離した後に戻りが遅くなる(ツルゴール低下)が見られる。乳児では大泉門: 頭頂部の頭蓋骨がまだ閉じていない菱形の部分。脱水時にはくぼむのくぼみも参考になる。
重度の脱水では意識が低下し、6〜8時間以上尿が出なくなる。この状態は入院での点滴補液を要し、時間的な余裕はない。
軽度〜中等度の脱水には経口補水液(ORS)が有効だ。水分と電解質のバランスが調整されており、スポーツドリンクや普通のお茶・水よりも電解質の補充に適している。少量(5〜10mL程度)を5分おきに繰り返す「少量頻回投与」が、嘔吐中でも吸収されやすいとされる。市販のOS-1や同等のORS製品を1本常備しておくことが推奨される [2]。
嘔吐が多く飲めない状態が続く場合、または哺乳・飲水量が平常の半分以下に低下した状態が6時間以上続く場合は受診を検討する。
行動レベルへの落とし込み
- 嘔吐・下痢の開始時刻と回数を記録しておくと、受診時の重症度評価の参考になる
- 経口補水液を1本家庭に常備しておく
- 兄弟や保護者への二次感染予防として、糞便処理後の手洗いを石鹸と流水で十分に行う
- ワクチン接種済みであっても、発症した場合の経過は軽症化している可能性があるが観察は変わらず必要
まとめ
ロタウイルスワクチンは乳幼児の重症胃腸炎リスクを大きく変えたが、ゼロにしたわけではない。脱水の見極めと経口補水液の使い方は、ワクチン時代においても保護者が知っておく価値がある基本的な知識だ。適切な補水が在宅管理と入院の分かれ目になることも多い。
References
- Tate JE, Burton AH, Boschi-Pinto C, Parashar UD; World Health Organization–Coordinated Global Rotavirus Surveillance Network. Global, regional, and national estimates of rotavirus mortality in children <5 years of age, 2000–2013. Clin Infect Dis. 2016;62(Suppl 2):S96–S105. doi:10.1093/cid/civ1013. PMID: 26994083.
- Vesikari T, Matson DO, Dennehy P, et al.; Rotavirus Efficacy and Safety Trial (REST) Study Team. Safety and efficacy of a pentavalent human-bovine (WC3) reassortant rotavirus vaccine. N Engl J Med. 2006;354(1):23–33. doi:10.1056/NEJMoa052664. PMID: 16394299.
- Ruiz-Palacios GM, Pérez-Schael I, Velázquez FR, et al.; Human Rotavirus Vaccine Study Group. Safety and efficacy of an attenuated vaccine against severe rotavirus gastroenteritis. N Engl J Med. 2006;354(1):11–22. doi:10.1056/NEJMoa052434. PMID: 16394298.
- WHO. Rotavirus vaccines: WHO position paper — January 2013. Wkly Epidemiol Rec. 2013;88(5):49–64. PMID: 23424730.
- Ruuska T, Vesikari T. Rotavirus disease in Finnish children: use of numerical scores for clinical severity of diarrhoeal episodes. Scand J Infect Dis. 1990;22(3):259–267. doi:10.3109/00365549009027046. PMID: 2371542.