リード
スポーツを始めた小学4年生が「膝が痛い」と言う。あるいは運動会の後から「かかとが痛い」と訴える。体育の授業で「背骨が曲がっているかもしれない」と言われる。
これらに対して「成長痛だから様子を見よう」と答えることは、ある面では正しいが、ある面では名前のつく疾患を見落とすリスクを持つ。「成長痛」は診断名ではなく、一般的に用いられる日常語だ。それを診断として受け入れた時、対処が止まる。
この記事では、学童期に起きやすい3つの整形外科的疾患——オスグッド・シュラッター病(膝)、シーバー病(かかと)、特発性側弯症(背骨)——と、厳密な意味での「成長痛」を整理し、それぞれの受診基準と家庭でできる確認を伝える。
前提・現状の整理
成長期の骨格には、骨の端に存在する「骨端線: 骨の成長を担う軟骨組織。成長期に脆弱で牽引力がかかると炎症や剥離が生じやすい(成長板)」と呼ばれる軟骨組織がある。この部分は成人の骨より脆弱で、筋肉・腱からの牽引力が繰り返しかかることで炎症・剥離・変形が生じやすい。これが学童期の整形外科疾患の多くに共通する病態の基盤だ [1][4]。
成長スパート(急成長期)は、女児では平均10〜11歳、男児では12〜13歳前後に訪れる。骨の伸長が筋肉・腱の伸長より速く進む時期があり、腱の相対的な緊張が高まって骨端部に力が集中しやすくなる。この時期とスポーツ活動の増加が重なる6〜14歳が、骨端症のリスクが高い時期に相当する。
本論
オスグッド・シュラッター病 — 膝蓋腱付着部の牽引
もっとも知られた骨端症のひとつが、オスグッド・シュラッター病だ。膝蓋腱(大腿四頭筋の延長として膝蓋骨から脛骨粗面につながる腱)の付着部に繰り返し牽引力がかかることで、脛骨粗面(膝の前面のでっぱり)に腫脹・圧痛・疼痛が生じる [1]。
発症年齢は男児10〜14歳が多い。スポーツ活動をしている学童での有病率は9〜21%と報告されており [1]、サッカー・バスケットボール・陸上競技で特に頻度が高い。痛みは「練習中〜直後に増して翌朝は落ち着く」パターンが典型的だ。
安静・アイシング・ストレッチングが基本的な対処で、多くは成長板の閉鎖(成長終了)とともに自然に解決する。完全な運動禁止が必要なケースは限られるが、「痛くても続ける」方針は症状を長期化させる可能性がある。
シーバー病(踵骨骨端炎)— かかとの骨端への牽引
シーバー病(踵骨骨端炎)は、かかとの骨(踵骨)の後方にある骨端核に、アキレス腱からの牽引力と足底からの荷重がかかることで生じる [2]。発症年齢は8〜10歳(オスグッドより若い)で、走行や跳躍動作の多いスポーツで増悪する。
かかとの両側を指で挟んで圧迫する「squeezeテスト」が陽性(圧痛がある)ならシーバー病の可能性を考える。レントゲンで骨端の断片化・不整像が見えることもあるが、正常でも断片化を認めることがあり、あくまで臨床診断が主体だ [2]。
ヒールカップ(踵への衝撃吸収素材の挿入)やアキレス腱のストレッチングが有効とされる。成長板閉鎖(通常12〜14歳)とともに治癒する。
特発性側弯症(AIS)— 背骨の三次元的変形
思春期特発性側弯症(AIS: Adolescent Idiopathic Scoliosis) は、明らかな原因のない脊柱の側方弯曲と回旋を特徴とする疾患で、Cobb角10度以上が診断基準とされる [3][4]。女児に約7〜10倍多く、有病率はCobb角10度以上で学童期全体の2〜3%とされる [4]。
学校健診でのスクリーニングには Adamの前屈テスト: 前屈した際に背中の左右非対称(肋骨隆起)を目視で確認する側弯症スクリーニング法が使われる。子が前屈した時に、背骨の一方が突出して肋骨隆起(肋骨が持ち上がった外観)が見えるものが陽性とされる。このテストを家庭で年に一度行うことで、健診の間隔を補完できる。
治療方針はCobb角によって異なる。Scoliosis Research Society(SRS)の基準では、Cobb角25〜40度で成長が残っている場合に装具療法が推奨される [7]。装具療法の有効性は2013年のBRAIST試験(Weinstein et al.)で検証され、装具着用群は非着用群に比べて手術を回避できる割合が統計的に有意に高かった(72% vs 48%)[3]。Cobb角45〜50度を超える場合は手術(脊椎固定術)が選択肢となる [4]。
「成長痛」— 診断名としての整理
厳密な意味での成長痛(growing pains) は、3〜12歳の夜間に両下肢の筋肉(特に大腿前面・ふくらはぎ)に生じる疼痛で、翌朝には消失し、関節は腫脹しない、という特徴を持つ [6]。Evans & Scutterの調査では、4〜6歳児の約36%に経験があるとされる [6]。病態は不明だが、骨や関節の問題ではなく、筋肉の疲労や痛覚閾値の個体差が関与すると推測される。
前述の骨端症や側弯症との鑑別ポイントは以下の通りだ。
| 特徴 | 成長痛 | 骨端症(オスグッド等) |
|---|---|---|
| 時間帯 | 夜間のみ | 活動後・日中も |
| 左右 | 両側 | 片側が多い |
| 部位 | 筋肉(関節でない) | 特定の骨端部 |
| 圧痛 | なし | 特定部位に圧痛あり |
| 翌朝 | 消失 | 残存することがある |
行動レベルへの落とし込み
膝・かかとの痛みへの初期対応として、まず「活動との関係」を確認する。「練習後に増して翌朝良くなる」ならスポーツ整形外科またはかかりつけ小児科に相談する目安になる。痛みで練習に参加できない、または関節が腫脹している場合は早急に受診する。
側弯のスクリーニングとして、Adamの前屈テストを年に一度家庭で確認する選択肢がある。子を正面または後方から見ながら「腰から前に曲げてみて」と促し、左右の背中の高さの差(肋骨隆起)を目で確認する。差が明らかなら、学校健診の結果を待たず小児科または整形外科に相談する。
学校健診で「側弯症要精査」と通知された場合は、X線でCobb角を計測してもらうことが次のステップになる。Cobb角の数値と成長段階(骨成熟度)が揃うと、「経過観察のみ」か「装具の適応」かの判断が具体的になる。
まとめ
「成長痛でしょう」は、場合によっては正確な観察だ。しかし、名前のつく疾患(オスグッド・シーバー・側弯症)を同じ言葉でまとめてしまうと、適切な介入のタイミングを逃す。特に側弯症は、成長が残っているうちに装具療法を開始できるかどうかで予後が変わる疾患だ。「背骨が気になる」と感じた時に、Adamの前屈テストを知っているかどうかが最初の分岐になる。
References
- Gholve PA, Scher DM, Khakharia S, Widmann RF, Green DW. Osgood Schlatter syndrome. Curr Opin Pediatr. 2007;19(1):44-50. doi:10.1097/MOP.0b013e328013dbea. PMID: 17224664.
- Scharfbillig RW, Jones S, Scutter SD. Sever's disease: what does the literature really tell us? J Am Podiatr Med Assoc. 2008;98(3):212-223. doi:10.7547/0980212. PMID: 18487531.
- Weinstein SL, Dolan LA, Wright JG, Dobbs MB. Effects of bracing in adolescents with idiopathic scoliosis. N Engl J Med. 2013;369(16):1512-1521. doi:10.1056/NEJMoa1307337. PMID: 24047455.
- Weinstein SL, Dolan LA, Cheng JC, Danielsson A, Morcuende JA. Adolescent idiopathic scoliosis. Lancet. 2008;371(9623):1527-1537. doi:10.1016/S0140-6736(08)60658-3. PMID: 18456103.
- Richards BS, Sucato DJ. Spinal fusion for adolescent idiopathic scoliosis. J Bone Joint Surg Am. 2010;92 Suppl 2:38-47. doi:10.2106/JBJS.J.00786. PMID: 21123583.
- Evans AM, Scutter SD. Prevalence of "growing pains" in young children. J Pediatr. 2004;145(2):255-258. doi:10.1016/j.jpeds.2004.04.045. PMID: 15289779.
- Scoliosis Research Society. SRS criteria for bracing and observation of patients with idiopathic scoliosis. https://www.srs.org. Accessed 2023.