LD・ADHD・ASDが重なる時 — 単一診断モデルの限界と二次障害への道

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対象
発達特性が疑われる小学生〜中学生の子を持つ保護者
文字数目安
2,300字
ステータス
ドラフト v1

リード

「ADHDと診断されたが、読み書きも苦手かもしれない」という相談は珍しくない。あるいは「自閉スペクトラム症と言われていたが、実は注意の問題もある」と後から気づくケースもある。

発達特性は、多くの場合ひとつだけで存在しない。LD・ADHD・ASDは、臨床的に区別される概念でありながら、実際の子どもの中では重なって現れることのほうが頻繁だ。この重なり(co-occurrence)を知らないまま、単一の診断名に合わせた支援だけを続けると、隠れていた困難が蓄積し、二次障害と呼ばれる情緒的・社会的な問題へと発展することがある。

「診断名がひとつではない」という現実を、疫学データとともに整理したい。

前提・現状の整理

(2013年)は、ADHDと(自閉スペクトラム症)の並立診断を初めて認めた。DSM-IV以前は「ASDの診断があればADHDとは診断しない」という除外規則があったが、その規則が廃止されたことで、両方の特性を持つ子への診断と支援が正式に可能になった [5]。

一方でLDとADHD、LDとASDの重なりは、DSMの改訂以前から実証研究が蓄積されてきた。単一診断モデルで子どもを捉えることは、残りの困難を「性格の問題」「努力が足りない」に帰着させるリスクを持つ。

co-occurrenceの疫学

ADHD・ASD・LDの重なり

Rong ら(2021)のメタ分析は、ADHD診断を持つ子どものうち9.8%がASDを併存し、ASD診断を持つ子どものうち50〜70%がADHDを併存することを示した [1]。方向によって比率が大きく異なるのは、対象集団と診断基準の違いによるものだが、いずれにせよ「重なりは例外ではなく、むしろ頻繁に起きる」という事実は安定している。

ADHDと(ディスレクシア)の共存については、Willcutt ら(2010)が両者の神経生物学的な重なりを詳細に分析し、ADHDを持つ子どもの25〜40%に読字障害が共存すると整理している [3]。計算はできるが読み書きが極端に苦手、という子の背景にADHDが隠れている場合もあれば、逆もある。

Lichtenstein ら(2010)の大規模双生児研究は、ASD・ADHD・LD・チック・発達性協調運動症などの神経発達的な問題が、共通する遺伝的素因を持つことを示した [2]。「なぜ重なるのか」への答えは単純ではないが、独立した障害が偶然共存しているというよりも、共通する神経生物学的基盤が多症状として現れているという理解が研究者の間で広まっている。

なぜ発見が遅れるのか

発達特性の併存が見落とされやすい理由がある。ASDの診断を持つ子どもが注意の問題を持っていても、「ASDの特性のひとつ」と解釈されてADHDとして捉えられないことがある。LDを持つ子どもが授業に集中できない場合、「書くことが辛いからサボっているように見える」という誤解が生じ、ADHDが検討されないことがある。

単一の診断名で子どもを見てしまうと、残りの困難が「対応済みの問題の変形」として素通りされやすい。

二次障害への経路

一次的な発達特性が支援なしに放置された場合、反復的な失敗体験が蓄積する。授業で答えられない、宿題が出せない、友人関係がうまくいかない——これらが繰り返されると、自己評価の低下が起きやすい。自己評価の低下は回避行動につながり、登校拒否・引きこもりへと発展する経路がある。

Mugnaini ら(2009)は、ディスレクシアを持つ子どもを対象に(抑うつ・不安)との関連を分析し、適切な支援がない場合にうつや不安症のリスクが有意に高まることを示した [4]。特に中学校進学前後の時期は、学習の要求が高まり、自己と他者の比較が始まる段階でもあり、二次障害の発症リスクが集中しやすい。

Pennington ら(2019)は複数の発達障害を持つ子どもへの包括的なアセスメントと支援の重要性を強調し、「診断名の数より、子どもが実際に経験している困難の全体像を把握することが先だ」と述べている [6]。

行動レベルへの落とし込み

「なんとなく苦手」を気のせいにしない

発達特性の発見が遅れる原因のひとつは、「一度診断をもらった(または様子見と言われた)から大丈夫」という安心感だ。既存の診断と整合しない困難が続く場合は、再評価を依頼する余地がある。

複数の特性を疑ったら、早めに相談する

発達支援センターや小児神経科への相談を「最終手段」と捉えることが多いが、早期の総合的なアセスメント(認知プロファイルの把握)が、支援の精度を高める。WISC-Vのような知能検査で指標間の乖離を確認することも、複数の困難を同時に把握する手段になる。

「頑張り方」より「環境の調整」を先に置く

二次障害の予防において最も効果的とされるのは、本人の努力を促すことではなく、困難を生じさせている環境上の要因を取り除くことだ。板書のコピー提供、テスト時間の延長、プリントのフォントサイズの変更——一見些細に見える配慮が、反復的な失敗体験の連鎖を断つ入り口になる。

まとめ

LD・ADHD・ASDの重なりは例外ではなく、統計的に見て頻繁に起きることだ。単一の診断名の枠に子どもを当てはめることよりも、実際にどんな困難を経験しているかを幅広く把握することのほうが、支援の精度を上げる。

二次障害は予防できる。それには、一次特性への早期の気づきと、環境側の調整が必要だ。診断名の多さに驚く前に、「この子は今、何に困っているか」という問いを出発点に置くことが助けになる。


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References

  1. Rong Y, Yang CJ, Jin Y, Wang Y. Prevalence of attention-deficit/hyperactivity disorder in individuals with autism spectrum disorder: a meta-analysis. Res Autism Spectr Disord. 2021;83:101759. doi:10.1016/j.rasd.2021.101759
  2. Lichtenstein P, Carlström E, Råstam M, Gillberg C, Anckarsäter H. The genetics of autism spectrum disorders and related neuropsychiatric disorders in childhood. Am J Psychiatry. 2010;167(11):1357–1363. doi:10.1176/appi.ajp.2010.10020223. PMID: 20686187.
  3. Willcutt EG, Betjemann RS, McGrath LM, et al. Etiology and neuropsychology of comorbidity between RD and ADHD: the case for multiple-deficit models. Cortex. 2010;46(10):1345–1361. doi:10.1016/j.cortex.2010.06.009. PMID: 20663494.
  4. Mugnaini D, Lassi S, La Malfa G, Albertini G. Internalizing correlates of dyslexia. World J Pediatr. 2009;5(4):255–264. doi:10.1007/s12519-009-0049-7. PMID: 19911136.
  5. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed. (DSM-5). Washington DC: APA; 2013. doi:10.1176/appi.books.9780890425596
  6. Pennington BF, McGrath LM, Peterson RL. Diagnosing Learning Disorders: From Science to Practice. 3rd ed. New York: Guilford Press; 2019.
  7. Mayes SD, Calhoun SL, Bixler EO, Zimmerman DN. IQ and neuropsychological predictors of academic achievement. Learn Individ Differ. 2009;19(2):238–241. doi:10.1016/j.lindif.2008.09.001
  8. 齊藤万比古. 注意欠如多動症(ADHD)の二次障害予防. 精神科治療学. 2019;34(11):1219–1224.