リード
子どもが突然39℃を超える熱を出し、3日ほど続いた後ようやく下がった。ほっとした翌日、今度は体に赤い発疹が広がっていた。「薬が合わなかったのか」「また病院に行くべきか」と不安になるのは当然だ。
この発疹は、突発性発疹の典型的な経過の一部だ。発疹が出た時点で感染はほぼ終わりに近づいている。経過の地図を持っておくと、慌てずに対応できる。
何が起きているのか — 病原体と経過の仕組み
突発性発疹の原因は、ヒトヘルペスウイルス6型B: Human Herpesvirus 6B、HHV-6B。突発性発疹の主たる原因ウイルス。一度感染すると終生体内に潜伏する(HHV-6B)が約90%超を占め、残りの一部はHHV-7が関与する [1,2]。原因ウイルスの同定は1988年、Yamanishi らによる原著が最初だ [1]。
感染は唾液を介した水平感染が主で、同居する保護者が感染源となることが多い [3]。Zerr らの米国コホート研究では、生後1年以内に約77%の乳児がHHV-6Bへの初感染を経験し、2歳までにほぼ全員が抗体を獲得する [3]。生後6ヶ月未満の罹患が少ないのは、胎盤移行した母体抗体が残っているためだ。
典型的な経過は大きく2段階に分かれる。
発熱期(3〜5日): 39〜40℃台の高熱が続く。機嫌が比較的保たれているケースも多い。発疹はなく、この段階での診断は難しい。
発疹期(解熱後1〜2日): 熱が下がると同時か直後に、体幹を中心に淡紅色の小発疹が出現し、顔・四肢に広がる。かゆみはほとんどない。2〜3日で自然に消退する。
発疹が出た段階では、すでにウイルス血症の峠は越えている。「治ってきたサイン」として受け取ることができる。
知っておくべき合併症 — 熱性けいれん
突発性発疹で注意が必要な合併症の筆頭が熱性けいれん: 乳幼児が発熱に伴って起こすけいれん発作。多くは数分以内におさまり予後は良好だが、初回や長引く場合は受診が必要だ。Hall らの前向きコホート研究では、HHV-6初感染は乳幼児期全体のけいれん入院の約3分の1に関与すると推計されており [2]、突発性発疹を発症した子の3〜5%にけいれんが合併するとされる。Kondo らはHHV-6の中枢神経への関与とけいれん再発との関連も示しており [5]、初回発作は必ず受診・記録が必要だ。
脳炎・肝炎といった重篤な合併症は稀だが、発熱中の意識変容: 呼びかけへの反応が鈍る・うつろになる・落ち着きなく動く・話の内容がいつもと違うなど、意識のレベルや内容の変化を指す医学用語、哺乳拒否、皮膚の網状変色を認める場合は緊急受診の対象となる。
HHV-7 が原因の場合も臨床経過はほぼ同様だが、罹患時期がやや遅く(1〜3歳)、HHV-6 感染後にHHV-7で再び同様の経過をたどることがある [4]。「同じ病気に2回なった」ように見える場合の一因はここにある。
受診の目安と家庭での対応
発疹が出てから受診しても診断確認や親の安心のために有用だが、緊急性は低い。次のサインがある場合は急いで受診する。
- けいれん発作(初回は必ず受診・記録を)
- 意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が乏しい
- 哺乳を明らかに嫌がり、尿量が減っている
- 皮膚が網状・大理石様に変色している
鑑別として麻疹・風疹・薬疹が挙がる。麻疹は発疹前からの発熱とコプリック斑、風疹は発熱と発疹がほぼ同時に出る点で区別できる。薬疹疑いでは投薬歴を医師に伝える。
治療は支持療法が主体だ。解熱剤はアセトアミノフェンを体重別用量で。水分補給を心がければよく、機嫌が保たれているなら無理に安静にさせる必要はない。発疹期の入浴制限は原則不要。記録アプリに発熱開始日・最高体温・発疹出現日を残しておくと受診時に経過を正確に伝えやすい。
まとめ
「熱が3日続いて下がったら発疹が出た」という経過は突発性発疹の典型で、発疹はむしろ回復のサインだ。経過の見通しを持っていると対応に余裕が生まれる。熱性けいれんへの注意だけは欠かせず、初回発作は必ず受診・記録を。
References
- Yamanishi K, Okuno T, Shiraki K, et al. Identification of human herpesvirus-6 as a causal agent for exanthem subitum. Lancet. 1988;1(8594):1065–1067. doi:10.1016/s0140-6736(88)91893-4. PMID: 2896909.
- Hall CB, Long CE, Schnabel KC, et al. Human herpesvirus-6 infection in children: a prospective study of complications and reactivation. N Engl J Med. 1994;331(7):432–438. doi:10.1056/NEJM199408183310703. PMID: 8035839.
- Zerr DM, Meier AS, Selke SS, et al. A population-based study of primary human herpesvirus 6 infection. N Engl J Med. 2005;352(8):768–776. doi:10.1056/NEJMoa042207. PMID: 15728809.
- Caserta MT, Hall CB, Schnabel K, et al. Primary human herpesvirus 7 infection: a comparison of human herpesvirus 7 and human herpesvirus 6 infections in children. J Pediatr. 1998;133(3):386–389. doi:10.1016/s0022-3476(98)70275-3. PMID: 9738722.
- Kondo K, Nagafuji H, Hata A, Tomomori C, Yamanishi K. Association of human herpesvirus 6 infection of the central nervous system with recurrence of febrile convulsions. J Infect Dis. 1993;167(5):1197–1200. doi:10.1093/infdis/167.5.1197. PMID: 8387513.