リード
「ピーナッツは何歳まで待てばいい?」という問いは、2015年以前と以後で、まったく違う答えを持つようになった。
かつての常識は「早めに与えるとアレルギーになりやすい」だった。ピーナッツは敏感な時期を過ぎてから、が通説だった。ところが、この前提を根底からくつがえすランダム化比較試験(LEAP試験)が発表され、以来、主要なアレルギー学会のガイドラインが相次いで書き直された。
「遅らせると安全」から「適切なタイミングで早めに与えることが予防になる」へ。パラダイムが反転した。ただし、この転換には「リスクの程度による層別化」が伴っており、一律に「○ヶ月から大丈夫」と言い切れない構造がある。この記事ではその構造を整理し、家庭で何を確認すれば判断の手がかりになるかを示す。
前提:ピーナッツアレルギーとは何か
ピーナッツアレルギーは食物アレルギーのなかでも重篤なアナフィラキシーを起こしやすく、自然に治りにくい(耐性獲得率が低い)ことで知られる。日本では食物アレルギー研究会の2020年調査で、落花生は原因食物の約6%を占め、鶏卵・牛乳・小麦に次ぐ位置にある [7]。
旧来の考え方では、乳児期の早期暴露がアレルギー感作を促進すると考えられ、「与えるのを遅らせる」方向が推奨されていた。この仮説が実証的に検証されたのが、後述のLEAP試験だ。
LEAP試験が示したこと
2015年、Du Toitらは英国で実施したLEAP(Learning Early About Peanut Allergy)試験の結果をNew England Journal of Medicineに発表した [1]。
対象は、重度アトピー性皮膚炎または卵アレルギーを持つ生後4〜11ヶ月の乳児640名。皮膚プリックテスト: アレルゲン液を皮膚に少量乗せて針で刺し、局所の膨疹反応でIgE介在性アレルギー感作を評価する検査でピーナッツ感作: アレルゲンに初めて暴露されてIgE抗体が産生された状態で、次回暴露時のアレルギー反応の準備段階がないか軽微と確認された上で、「早期摂取群(生後から週3回以上ピーナッツ含有食を摂取)」と「回避群」にランダムに割り付け、5歳時点のアレルギー発症率を比較した。
結果は、全試験参加者(SPT陰性・陽性を合算した全640名)での摂取群3.2% 対 回避群17.2%、相対リスク減少81%にのぼった [1]。SPT陰性(感作なし)の乳児に限定したサブグループ解析では摂取群1.9% 対 回避群13.7%、相対リスク減少は86.1%だった [1]。計画書に記載された「86%」はこのSPT陰性サブグループの数値に由来する。いずれも高リスク児においてさえ、早期導入が予防に働くことを示す強いエビデンスだ。
さらに2016年には、摂取群の乳児がその後12ヶ月間ピーナッツを中断した場合でも予防効果が持続するかを確認したLEAP-On試験の結果が報告された [2]。中断後もアレルギー発症率の有意な低値が維持されており、早期導入による免疫学的変化: アレルゲン早期暴露によって誘導される免疫寛容など、免疫系の応答パターンの持続的な変化が一過性でないことが示された。
日本からも関連するエビデンスがある。Natsumeらが2017年にLancetに発表したPETIT試験は、湿疹を持つ日本人乳児を対象に、加熱卵粉末の早期導入が卵アレルギー発症を79%抑制したことを示した [3]。対象はピーナッツではなく卵だが、「早期導入による予防」という方向性においてLEAPと同じ文脈に置かれ、日本の医療現場でも「アレルゲン早期導入」の根拠として参照されている。
2016年にJAMAに掲載されたIerodiakonouらの系統的レビュー・メタアナリシスも、ピーナッツを含む複数のアレルゲンにわたって、早期導入が発症リスクを下げる方向の結果を示している [6]。
NIAID 2017ガイドライン:3つのリスク層
LEAP試験の結果を受け、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)は2017年、ピーナッツアレルギー予防に関する追補ガイドラインを発表した [4]。中核は、乳児を「重度リスク」「中等度リスク」「低リスク」の3層に分け、それぞれ推奨時期と手順を変えるという枠組みだ。
重度リスク(重度アトピー性皮膚炎または卵アレルギー、あるいは両方) 生後4〜6ヶ月での早期導入が推奨されるが、導入前にアレルギー専門医による評価(皮膚プリックテストまたは特異的IgE検査)を受けることが求められる。検査結果によっては医療機関での経口負荷試験のもとで導入を進める [4]。この層は必ず専門医に相談する必要がある。
中等度リスク(軽度〜中等度アトピー性皮膚炎) 生後6ヶ月頃からの家庭での早期導入が適切とされる。事前の専門医受診は必須ではないが、不安があれば相談は勧められる [4]。
低リスク(アトピーなし、卵アレルギーなし) 月齢に合わせた通常の離乳食の流れのなかで導入できる。特別な検査や事前相談の義務はない [4]。
日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン2021」も、早期導入の有効性を認め、リスクに応じた対応を推奨している [7]。大枠はNIAIDの層別化と方向性を共有しているが、具体的な手順については国内のかかりつけ医や専門医に確認するのが実際的だ。
家庭での実践:形態と窒息リスク
ガイドラインが示す「導入」は、ピーナッツそのものを丸ごと与えることではない。この区別は重要だ。
粒のままのピーナッツは乳幼児に与えてはならない。 窒息リスクが高い。ピーナッツバターも、スプーンからそのまま口に入れる与え方は粘稠すぎて気道閉塞の危険がある [4]。
安全な与え方の例として、ガイドラインや臨床の場では以下が示されている。
- ピーナッツ粉末(ピーナッツをすりつぶしたもの)を水やピューレに溶かしてペースト状にする
- ピーナッツバターを離乳食(おかゆや野菜ピューレ)に少量ずつ混ぜて薄める
- 市販のピーナッツ粉末製品を離乳食に混ぜる
初回の導入は体調の良い日の午前中にするのが一般的な推奨であり、万が一反応が起きた場合に対応しやすい環境と時間帯を選ぶという意味がある。
行動レベルへの落とし込み
ここまでを踏まえて、目の前の子がどの層にあるかを確認することが最初のステップになる。
重度のアトピーがある、または卵アレルギーの診断がある場合は、ピーナッツ導入の前にかかりつけ医かアレルギー専門医に相談することが推奨されている。「導入を遅らせたほうが安全」ではなく、「専門医と確認した上で、適切なタイミングに早めに導入する」が現在の方向性だ。
アトピーも卵アレルギーもなく、一般的な離乳食を進めている乳児であれば、生後6ヶ月頃からピーナッツ粉末をごく少量、離乳食に混ぜて様子を見るのが現在の推奨に沿った行動になる。
迷いが残る場合は、4〜6ヶ月健診のタイミングでかかりつけ医に「うちの子はどの層ですか」と一言聞くのが、最もコストの低い行動だ。
まとめ
LEAP試験以降、「ピーナッツは遅らせると安全」という前提は覆った。高リスク児においても早期導入が予防に働くというエビデンスは積み重なっており、NIAID 2017ガイドラインはそれをリスク層別に整理した [1,4]。
ただし、高リスク児が専門医の関与なしに自己判断で進めることは推奨されない。「早めに与える」と「何でも家でやる」は別の話だ。
低リスクの乳児にとっては、生後6ヶ月頃からピーナッツ粉末を離乳食に混ぜて少量ずつ試すことが、現在の科学的合意と整合した行動になる。形態は必ずペーストまたは粉末で。粒のままは与えない。
エビデンスは変わる。2015年以前の古い記述が残っている本や育児サイトもある。情報に年号をつけて読む習慣が、ここでも役に立つ。
References
- Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803–813. doi:10.1056/NEJMoa1414850. PMID: 25705822.
- Du Toit G, Sayre PH, Roberts G, et al. Effect of avoidance on peanut allergy after early peanut consumption. N Engl J Med. 2016;374(15):1435–1443. doi:10.1056/NEJMoa1514209. PMID: 26942922.
- Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017;389(10066):276–286. doi:10.1016/S0140-6736(16)31418-0. PMID: 27939035.
- Togias A, Cooper SF, Acebal ML, et al. Addendum guidelines for the prevention of peanut allergy in the United States: report of the National Institute of Allergy and Infectious Diseases–sponsored expert panel. J Allergy Clin Immunol. 2017;139(1):29–44. doi:10.1016/j.jaci.2016.10.010. PMID: 28065278.
- Perkin MR, Logan K, Tseng A, et al. Randomized trial of introduction of allergenic foods in breast-fed infants. N Engl J Med. 2016;374(18):1733–1743. doi:10.1056/NEJMoa1514210. PMID: 27028911.
- Ierodiakonou D, Garcia-Larsen V, Logan A, et al. Timing of allergenic food introduction to the infant diet and risk of allergic or autoimmune disease: a systematic review and meta-analysis. JAMA. 2016;316(11):1181–1192. doi:10.1001/jama.2016.12623. PMID: 27654604.
- 日本小児アレルギー学会. 食物アレルギー診療ガイドライン 2021. 東京: 協和企画; 2021.