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砂糖と人工甘味料 — 乳幼児の場合

読了時間 約 7 分English version available
対象
乳幼児の食事・飲料選択を行う保護者
文字数目安
2,300字
ステータス
ドラフト v1

3行まとめ

  • ·2歳未満への添加糖回避はAHAが科学的声明で根拠を示しており、問題の本質はエネルギー過剰とう蝕リスクであって「脳に直接ダメージ」という言説は証拠が薄い
  • ·IARCのアスパルテームGroup 2B分類は「証拠が限定的」の意味であり、JECFAが同時期に現行ADIを維持したこととは矛盾しない
  • ·人工甘味料のADIは通常摂取量で超えない水準に設定されているが、乳幼児の腸内細菌叢への影響はヒト対象データが不十分で不確実性が残る

目次

  1. リード
  2. WHO の遊離糖類推奨 — 根拠はどこにあるか
  3. 人工甘味料の ADI と安全性研究
  4. 2023年 IARC アスパルテーム分類 — 「危険」宣言ではない
  5. 「砂糖は脳に悪い」言説を解体する
  6. 行動レベルへの落とし込み
  7. まとめ
  8. References

リード

子どものジュースや菓子を選ぶとき、砂糖入りか人工甘味料入りかという選択に直面したことがあるだろう。「砂糖は虫歯になる」「人工甘味料には発がん性がある」——どちらも何らかの文献を引用している。

しかし実際の研究が示す状況は、この二択よりも複雑だ。本記事では WHO の推奨根拠、代表的な人工甘味料の安全性評価、2023年の IARC アスパルテーム分類が意味するもの、そして乳幼児特有のデータの限界を整理する。「砂糖が脳に悪い」という言説についても、根拠を確認したい。


WHO の遊離糖類推奨 — 根拠はどこにあるか

2015年、WHO は「砂糖類摂取に関するガイドライン」を公表し、遊離糖類: 食品に添加された砂糖・果糖・蜂蜜・シロップ・果汁中の糖類の総称で、食品本来の乳糖などは含まない(free sugars)の摂取量を総エネルギーの10%未満に抑えること、さらに可能であれば5%未満にすることを推奨した [1]。

「遊離糖類」とは、食品・飲料に添加されたモノ・ジサッカライド(ブドウ糖、果糖、砂糖など)に加え、はちみつ、シロップ、果汁・果汁濃縮物に天然に含まれる糖類を指す。乳児・幼児の母乳や普通牛乳に含まれる乳糖はこれに含まれない。

この推奨の主要な根拠となったのが、Te Morenga らの系統的レビュー: 特定の問いに対して既存研究を網羅的に収集・評価し統合する研究手法だ [2]。ランダム化比較試験: 参加者を無作為に介入群と対照群に割り付けて効果を比較する最も信頼性の高い実験的研究デザインとコホート研究: 特定の集団を前向きに追跡して疾患発症・健康アウトカムを観察する研究を統合したこの分析では、遊離糖類の摂取量を減らした場合に体重減少が、増やした場合に体重増加が観察された。等カロリー比較試験では差がなかったことから、糖類の問題は過剰なエネルギー摂取を招きやすいことにあると著者らは解釈している [2]。

乳幼児への具体的な推奨として、米国心臓協会(AHA)は2歳未満の子どもへの添加糖摂取を避けることを科学的声明として発表している [3]。2〜18歳では1日25 g(6テアスプーン)以下が推奨されている [3]。


人工甘味料の ADI と安全性研究

アスパルテーム、スクラロース、ステビア(レバウジオシドA)は乳幼児食品にも使用される主要な甘味料だ。いずれも JECFA(FAO/WHO 合同専門家委員会)による ADI が設定されている。

  • アスパルテーム: ADI 0〜40 mg/kg体重/日(JECFA)
  • スクラロース: ADI 0〜15 mg/kg体重/日(JECFA)
  • ステビア(レバウジオシドA): ADI 0〜4 mg/kg体重/日(JECFA)

日常的な飲食物からの実際の摂取量がこれらの ADI を上回ることは、成人でも乳幼児でも通常想定されない。ADI の意味と安全係数の構造については記事101を参照してほしい。

ただし、乳幼児の腸内細菌叢や代謝に対する人工甘味料の影響については、成人と同水準のデータが蓄積されていないことは正直に認める必要がある。一部のマウス研究では腸内細菌叢への影響が示唆されているが、乳幼児でのヒト対象研究は非常に限られている。不確実性が残る領域だ。


2023年 IARC アスパルテーム分類 — 「危険」宣言ではない

2023年7月、IARC はアスパルテームを「ヒトに対して発がん性があるかもしれない(Group 2B)」に分類した。同時に JECFA(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives)は第96回会合で、既存のADI(40 mg/kg体重/日)を維持し「現行の暴露水準では安全性の懸念は認められない」と結論した。

2つの機関が同じ物質について正反対のメッセージを出したように見えるが、これらは目的の異なる作業だ。IARC の仕事は「発がんのハザード(危害)の可能性があるという証拠の強さ」を評価することであり、JECFA の仕事は「実際の摂取量における健康リスクの大きさ」を評価することだ。

Group 2B とは「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」という分類であり、これは「証拠が限定的」であることを意味する。IARC が参照した研究の主な知見は肝細胞がんリスクとの関連だったが、「証拠は限定的」であり確立されたものではない。JECFA は同じ文献を検討した上で、日常的な摂取量の文脈でのリスクは確認されないと評価した。

この2つの評価の間に矛盾はない。Group 2B には日光の紫外線やアロエ・ベラの抽出物なども含まれるが、これらが日常生活において主要なリスクとは通常みなされないのと同じ構造だ。


「砂糖は脳に悪い」言説を解体する

「砂糖の過剰摂取が子どもの脳の発達を妨げる」という言説がSNSで流通している。この主張の実証的な基盤を確認してみると、構造上の問題に気づく。

砂糖(グルコース)は脳の主要なエネルギー源だ。問題とされるのは過剰摂取が血糖値の急激な変動を引き起こすことや、高糖質食が記憶・学習機能に影響するというラット実験データだが、これらを「砂糖が脳に直接ダメージを与える」という言説に直結させることは飛躍だ。

砂糖の過剰摂取が問題なのは、う蝕: 細菌が糖を分解して酸を産生し歯を溶かす虫歯のこと(虫歯)のリスク、過剰なエネルギー摂取による体重管理への影響、栄養密度の低い食品による微量栄養素摂取量の低下、といった経路によってだ。「脳に悪い」という直接的な経路を示す高品質のヒト対象研究は、乳幼児においては現時点で限定的だ。


行動レベルへの落とし込み

親が日常的な食品選択をする上で、以下の整理が役に立つ。

  • WHO と AHA の推奨は、砂糖の排除ではなく「遊離糖類の量を意識的に管理すること」だ
  • 人工甘味料の ADI は安全係数込みで設定されており、通常の摂取量では ADI を超えない
  • 2023年の IARC 分類は Group 2B であり、証拠が限定的という意味であって「危険が確定した」ではない。JECFA は同じ時期に現行 ADI を維持した
  • 乳幼児期(特に2歳未満)は添加糖を避けるという推奨には、AHA の科学的声明という根拠がある
  • 「砂糖か人工甘味料か」という二択よりも、甘味飲料・加工食品全体の割合を下げ、食事の多様性を高める方向に価値がある

まとめ

WHO の遊離糖類推奨は系統的なエビデンスに基づいており、2歳未満への添加糖回避は AHA が支持している。人工甘味料は設定された ADI の範囲内では安全性が評価されているが、乳幼児特有のデータは限られている。IARC の Group 2B 分類は「証拠の強さ」の評価であり、JECFA の「現行摂取量では安全」という評価と矛盾しない。「砂糖が脳に悪い」という言説は証拠が薄く、問題の本質はエネルギー過剰とう蝕リスクにある。複雑な状況を複雑なまま受け取ることが、情報の正直な消費だ。


References

  1. World Health Organization. Guideline: Sugars Intake for Adults and Children. Geneva: WHO; 2015. PMID: 25905159. https://www.who.int/publications/i/item/9789241549028
  2. Te Morenga L, Mallard S, Mann J. Dietary sugars and body weight: systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials and cohort studies. BMJ. 2013;346:e7492. doi:10.1136/bmj.e7492. PMID: 23321486.
  3. Vos MB, Kaar JL, Welsh JA, et al; American Heart Association Nutrition Committee of the Council on Lifestyle and Cardiometabolic Health. Added Sugars and Cardiovascular Disease Risk in Children: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2017;135(19):e1017–e1034. doi:10.1161/CIR.0000000000000439. PMID: 27550974.
  4. World Health Organization / Food and Agriculture Organization of the United Nations. Summary of Evaluations Performed by the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives: Aspartame — JECFA 96th Meeting. Geneva: WHO; 2023. https://www.fao.org/food/food-safety-quality/scientific-advice/jecfa/en/
  5. International Agency for Research on Cancer. Aspartame. IARC Monographs on the Identification of Carcinogenic Hazards to Humans, Vol. 134. Lyon: IARC; 2023. https://www.iarc.who.int/featured-news/aspartame-hazard-and-risk-assessment-results-released
  6. Suez J, Korem T, Zeevi D, et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature. 2014;514(7521):181–186. doi:10.1038/nature13793. PMID: 25231862.
  7. Sylvetsky AC, Rother KI. Nonnutritive Sweeteners in Weight Management and Chronic Disease: A Review. Obesity. 2018;26(4):635–640. doi:10.1002/oby.22139. PMID: 29570245.

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