リード
市販のベビーフードを棚の前で手に取ると、何十種類もの選択肢が並んでいる。「無添加」「国産素材」「月齢 5〜6 ヶ月から」——ラベルに並ぶ言葉は多いが、どれをどう読めばいいか、明示的に教えてくれる情報源は少ない。
本稿では、月齢表示の根拠、食塩と糖類の問題、そして近年注目が高まっている重金属汚染という四つの観点から、ラベルの「読み方」を整理する。「市販品を使うか、使わないか」ではなく、「使うにしても、何を根拠に何を確認するか」という判断軸を渡したい。
月齢表示の根拠
「5〜6 ヶ月から」「7〜8 ヶ月から」という表示は、厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019 年改定版)の離乳食段階区分に対応している [1]。同ガイドラインは離乳食の進行を以下のように整理している。
- 離乳初期(5〜6 ヶ月頃): なめらかにすりつぶした状態。1 日 1 回。味の慣れと飲み込む練習が目的。
- 離乳中期(7〜8 ヶ月頃): 舌でつぶせる固さ。1 日 2 回食。
- 離乳後期(9〜11 ヶ月頃): 歯ぐきでつぶせる固さ。1 日 3 回食。
- 離乳完了期(12〜18 ヶ月頃): 歯ぐきで噛める固さ。幼児食への移行期。
市販ベビーフードの月齢表示はこの区分に準拠して設定されているが、表示月齢はあくまで目安であり、開始は乳児個人の発達の準備(首すわり、支えられて座れる、食べ物への興味)を見て判断することが同ガイドラインの趣旨だ [1]。月齢表示より早い開始がリスクになり得る場面(消化機能・口腔機能が未熟)と、表示月齢に達していても準備が整っていない場合の両面がある。
食塩相当量をどう読むか
乳児の腎機能は生後 1 年間で急速に発達するが、成人と同等にはなっていない。特に生後 6〜12 ヶ月では、過剰なナトリウム摂取に対する腎の排泄能力に限界がある [2]。Jayasooriya ら(2024)のレビューは、生後 1 年間の高食塩摂取が将来の血圧上昇・塩味嗜好の形成に関与する可能性を示す動物実験・疫学データを整理しており、乳児期の塩分制限の合理的根拠として参照される [2]。
国際的な枠組みとして、Codex Alimentarius(FAO/WHO 合同食品規格委員会)の乳児用缶詰食品規格(CXS 73-1981)は、ベビーフードへの食塩の添加を原則として認めていない [3]。同規格は 2023 年に食品添加物規定を改訂しており、乳幼児食品への添加物使用基準が更新されている [3]。
日本国内では、離乳食用として明示された製品への食塩添加は多くの場合行われていないが、「ベビーフード」として明確に区分されない幼児食や、だし・ソース系製品では食塩相当量に差がある。ラベルの「食塩相当量」を確認し、調理済み状態で 0.3 g / 100 g を大きく超えるものを乳児期の主食・主菜に頻用しないという読み方が一つの実践的指針になる(この数値は専門家の推奨の範囲内に収まる目安であり、公式規制値ではない点に注意)。
糖類表示をどう読むか
WHO は遊離糖類: 食品に添加された砂糖・果糖・蜂蜜・シロップ・果汁に含まれる糖類の総称で、食品に本来含まれる乳糖などは含まない(free sugars: 製造者・調理者・消費者が添加する糖類、および蜂蜜・シロップ・果汁に含まれる糖類)の摂取量を総エネルギーの 10% 未満に抑えることを推奨している [4]。乳幼児への適用においても、WHO の 2023 年補完食ガイドラインは「添加糖を含む製品を 6〜23 ヶ月児に与えないこと」を明確に勧告している [5]。
日本の食品表示規制では、「糖類」(単糖類・二糖類)と「糖質」(食物繊維を除く炭水化物)は別項目だ。原材料名に「果糖ぶどう糖液糖」「砂糖」「果糖」等が並ぶ場合は添加糖の存在を示す。一方、「バナナ」「りんごピューレ」といった果物由来の糖は内在糖(intrinsic sugar)であり、WHO の遊離糖類には含まれない定義だが、総糖質量を押し上げる効果はある。「甘い味への慣れを避けたい」という場合は、原材料名の確認が栄養成分表示の数値だけを見るより情報量が多い。
重金属汚染という論点
ベビーフードと重金属の問題は、2019 年に非営利団体 Healthy Babies Bright Futures(HBBF)が発表した独立調査で大きく注目された。168 種の市販ベビーフードをテストした結果、95% の製品から少なくとも 1 種の重金属(砒素・鉛・カドミウム・水銀)が検出されたと報告された [6]。この調査が直接の契機となり、2021 年 2 月、米国議会監視・改革委員会経済・消費者政策小委員会(HRSCO)がスタッフレポートを発表。主要ブランドの製品から高濃度の砒素・鉛・カドミウムが検出されたこと、企業が完成品ではなく原材料のみをテストしており過小評価が生じやすい実態を指摘した [7]。
これを受けて米国 FDA は 2021 年、乳幼児食品の汚染物質削減行動計画「Closer to Zero」を発表。鉛の行動水準(action level)について、2023 年にドラフト値を公表し、2025 年 1 月に乳幼児加工食品向けの最終指針を発行した [8]。
重金属汚染の背景には土壌・水の汚染があり、使用される原材料(特にコメ・根菜・サツマイモ系)の産地と農地環境が影響する。完全な回避は現実的ではないが、以下の点が実践的な判断軸になる。
- コメ単一原料のおかゆ・シリアル系製品の摂取頻度を一つに偏らせず、他の穀物(オーツ、雑穀等)と組み合わせる
- 1 食品への依存度を下げる食品の多様化(食品多様性は栄養面でも重金属暴露の分散でも有効)
- HBBF と FDA の最新情報は定期的に更新されるため、公的機関のウェブサイトで継続的に確認する
HBBF 報告書と議会レポートは、日本市場で流通している製品の直接的な規制値ではない点に注意が必要だ。しかし、農産物由来の重金属汚染は地球規模の問題であり、産地にかかわらず考慮に値する論点として認識する意義はある。
BLW(Baby-Led Weaning)と市販品の関係
Baby-Led Weaning(BLW、赤ちゃん主導の離乳食)は、保護者がピューレを与えるのではなく、乳児が自分で固形食を手に持って食べることを中心に置くアプローチだ。BLW のシステマティックレビュー: 特定の問いに対して既存研究を網羅的に収集・統合し偏りを最小化して評価する研究手法は、BLW 実践群と従来型離乳食群の間で窒息リスクに統計的有意差がないこと [9]、BLW 群が排他的母乳哺育期間が長い傾向にあることなどを示している [9]。
BLW の実践において、市販ベビーフードは「排除すべきもの」ではなく「補完的に使うもの」として位置付けられる。例えば外出時のポーチ型食品や、手が足りない夕食時の副食として活用する実態は広く見られ、BLW の原則と組み合わせて使うことの妥当性は、現実的な判断として支持される。
行動レベルへの落としどころ
市販ベビーフードを選ぶ際に実践的に確認できる項目をまとめると:
- 月齢表示: 目安として参照しつつ、子の発達の準備(首すわり、関心)を実際の開始基準とする [1]
- 食塩相当量: 原材料名と食塩相当量欄を確認。乳児期は添加塩がない、または極めて少ないものが望ましい [2,3]
- 糖類: 原材料名で添加糖(果糖ぶどう糖液糖、砂糖等)の有無を確認 [4,5]
- 重金属対策: 食品の多様化で単一品目への偏りを避ける。FDA「Closer to Zero」の進捗を定期確認 [6,7,8]
- 過度な完璧主義を手放す: 市販品の利便性は現実の育児に不可欠な場面がある。「完璧な食事を毎回用意する」より「多様な食品を少しずつ試せているか」のほうが中期的な離乳食の質に寄与する
まとめ
市販ベビーフードの問題は「使う / 使わない」の二択ではない。月齢表示の根拠を理解し、食塩と糖類のラベルを読む習慣を持ち、重金属汚染という構造的問題を知った上で多様性を保つ——この三つが揃えば、市販品を怖がる必要も、過信する必要もない。
育児記録アプリで試した食品の一覧を記録しておくと、「先月試したもの」「食べた量が少なかった食材」が可視化され、意図せず同じ製品に偏っていないかの確認にも使える。
References
- 厚生労働省. 授乳・離乳の支援ガイド(2019 年改定版). 2019. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04250.html
- Jayasooriya S, Navaei N, Noonan G, Lila MA, Ferruzzi MG. The Future for the Children of Tomorrow: Avoiding Salt in the First 1000 Days. Nutrients. 2024;16(2):244. doi:10.3390/nu16020244. PMID: 38257137.
- Codex Alimentarius Commission. Standard for Canned Baby Foods CXS 73-1981 (amended 2017, 2023). Rome: FAO/WHO; 2023. https://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/sh-proxy/en/?lnk=1&url=https://workspace.fao.org/sites/codex/Standards/CXS+73-1981/CXS_073e.pdf
- World Health Organization. Guideline: Sugars Intake for Adults and Children. Geneva: WHO; 2015. ISBN: 978-92-4-154902-8. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK285521/
- World Health Organization. WHO Guideline for Complementary Feeding of Infants and Young Children 6–23 Months of Age. Geneva: WHO; 2023. ISBN: 9789240081864. https://www.who.int/publications/i/item/9789240081864
- Healthy Babies Bright Futures. What's in My Baby's Food? A National Investigation Finds 95 Percent of Baby Foods Tested Contain Toxic Chemicals That Lower Babies' IQ. Washington, DC: HBBF; 2019. https://hbbf.org/report/whats-in-my-babys-food
- US House of Representatives Subcommittee on Economic and Consumer Policy. Baby Foods Are Tainted with Dangerous Levels of Arsenic, Lead, Cadmium, and Mercury. Washington, DC: House Committee on Oversight and Reform; February 4, 2021. https://oversightdemocrats.house.gov/imo/media/doc/2021-02-04%20ECP%20Baby%20Food%20Staff%20Report.pdf
- US Food and Drug Administration. Closer to Zero: Reducing Childhood Exposure to Contaminants from Foods. Silver Spring, MD: FDA; 2021 (updated 2025). https://www.fda.gov/food/environmental-contaminants-food/closer-zero-reducing-childhood-exposure-contaminants-foods
- Fangupo LJ, Heath AM, Williams SM, et al. Baby-led weaning: what a systematic review of the literature adds on. Matern Child Nutr. 2018;14(3):e12556. doi:10.1111/mcn.12556. PMC5934812.