リード
かつて水痘(水ぼうそう)は「子どもなら誰でも一度はかかる病気」という認識で語られることが多かった。しかし2014年10月に日本で定期接種に組み込まれて以降、その前提が大きく変わった。年間100万人規模だった患者数は急減し、子ども世代の多くはワクチンで免疫を得るようになった。
「かかるもの」から「防げるもの」へ——この転換の意味と、2回接種が必要な理由を整理する。
定期接種化前後の変化
日本での水痘: 水ぼうそうの正式名称。水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症で全身に発疹と発熱が出るワクチンの定期接種開始(2014年10月)以前、年間の患者届出数は約100万人と推計されていた。定期接種化後はサーベイランス: 感染症の発生状況を継続的に集計・解析する公衆衛生上のしくみ。流行や対策効果を把握するために行うデータで患者数の大幅な減少が確認されており、集団免疫: 多くの人がワクチン等で免疫を得ると、未接種者にも感染が広がりにくくなる集団レベルの防御効果の効果が社会レベルで現れている [3]。
米国での経験も参考になる。1995年にワクチンが導入されて以降、2000年までに3つの監視地域で患者数が71〜84%減少し、水痘による入院も人口10万人あたり2.7〜4.2(1995〜1998年)から0.6〜1.5(1999〜2000年)へ下がったことが報告されている [2]。水痘ワクチンの公衆衛生上のインパクトは、データによって明確に示されている。
2回接種が必要な理由
各国の研究を統合したメタ分析では、1回接種の有効率は水痘全体に対して約81%(中等症〜重症に対しては約98%)、2回接種では約92%だった [6]。米国のACIPガイドラインも1回接種の発症予防効果を70〜90%とし、2回接種を推奨している [1]。
1回接種後に水痘ウイルスに暴露した場合「ブレイクスルーバリセラ」と呼ばれる軽症型の感染が起きることがある。発疹の数が少なく発熱も軽いため、感染が見落とされることもあるが、他者への感染源にはなりうる [1]。2回接種は個人の発症リスクを下げるとともに、集団全体での感染連鎖を遮断する役割を持つ。
日本の定期接種スケジュールは、生後12〜15ヶ月に1回目、そこから3ヶ月以上(標準的には6〜12ヶ月)あけて2回目とされている [5]。母子手帳で2回とも記録があるかを確認しておくことが重要だ。
重症化しやすいのは誰か
免疫が正常な子どもでは多くの場合、水痘は自然軽快する。しかし以下の群では重症化のリスクが高い [1]:
- 新生児(とくに母親が出産5日前〜出産2日後に水痘を発症した場合)
- 免疫不全のある子ども(白血病治療中、ステロイド長期使用中など)
- 未接種の成人(成人の感染は小児より重症になりやすい)
- 妊娠中の女性(肺炎合併率が高く、胎児への影響もある)
免疫不全のある子どもの兄弟姉妹がワクチンを接種することも、間接的な保護につながる。
帯状疱疹との関係
水痘に一度感染すると(ワクチン接種後も含め)、ウイルスは神経節に潜伏し続け、後年に免疫が低下したときに帯状疱疹: 過去に水痘に感染した人の体内に潜伏するウイルスが再活性化し、神経の走行に沿って痛みと水疱が出る病気として再活性化することがある。
ワクチン株のウイルスも潜伏・再活性化しうるが、米国の小児を対象にした研究では、水痘ワクチンを接種した子どもの帯状疱疹の発生率は未接種の子どもより約79%低かった [4]。小児期のワクチン接種が帯状疱疹リスクを増やすというエビデンスはなく、少なくとも小児期については、むしろ減らす方向のデータが示されている。
保護者にできること
- 母子手帳で1回目・2回目の接種日を確認する。接種漏れがある場合はかかりつけ医に相談する。
- 入園前に接種が完了しているか確認すると、保育施設での集団感染リスクを下げる。
- 兄弟姉妹の誰かが水痘を発症した場合、未接種・1回接種の子どもは72時間以内のワクチン接種(緊急接種)という選択肢がある。かかりつけ医に速やかに連絡を。
まとめ
水痘は定期接種の導入によって「防げる疾患」になった。1回接種では発症を完全に防ぎきれないことがあり、2回接種が個人の防御率と集団免疫の観点からともに重要だ。スケジュール通りの2回完了と接種歴の確認が、この感染症への現実的な対処になる。
References
- Marin M, Güris D, Chaves SS, Schmid S, Seward JF; Advisory Committee on Immunization Practices. Prevention of varicella. MMWR Recomm Rep. 2007;56(RR-4):1–40. PMID: 17585291.
- Seward JF, Watson BM, Peterson CL, et al. Varicella disease after introduction of varicella vaccine in the United States, 1995–2000. JAMA. 2002;287(5):606–611. doi:10.1001/jama.287.5.606. PMID: 11829699.
- 国立感染症研究所. 【特集】水痘・帯状疱疹の動向とワクチン. 病原微生物検出情報(IASR). 2018;39(8):129–130.
- Weinmann S, Chun C, Schmid DS, et al. Incidence and clinical characteristics of herpes zoster among children in the varicella vaccine era, 2005–2009. J Infect Dis. 2013;208(11):1859–1868. doi:10.1093/infdis/jit405. PMID: 23922376.
- 厚生労働省. 水痘ワクチン(予防接種・ワクチン情報). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/chickenpox/index.html
- Marin M, Marti M, Kambhampati A, Jeram SM, Seward JF. Global varicella vaccine effectiveness: a meta-analysis. Pediatrics. 2016;137(3):e20153741. doi:10.1542/peds.2015-3741. PMID: 26908671.