リード
風邪をひいた数日後、子どもの足首から膝にかけて紫色の点々が広がっていた。痛みを訴えながら歩くのを嫌がる。この状況に遭遇した保護者の多くが、最初は何が起きているのかわからない。
これは「IgA血管炎」(旧称:ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、HSP)という小児特有の血管炎の典型的な発症の仕方だ。大半は自然軽快するが、腎臓への合併症(紫斑病性腎炎)が長期的に重要なポイントになる。
IgA血管炎とはどういう疾患か
IgA血管炎は、小血管に免疫複合体: 抗原と抗体が結合した複合体。血管壁に沈着して炎症を引き起こす(IgAを中心とした沈着)が生じることで引き起こされる全身性血管炎だ。小児の血管炎では最も多い [6]。英国の調査では、年間発症率は小児10万人あたり約20人で、4〜6歳が最も多かった [7]。
4つの主な症状(主徴):
- 紫斑: 下肢・臀部に好発する触知可能な非血小板減少性紫斑: 血小板の数が正常であるにもかかわらず生じる紫色の皮膚出血斑。血小板数は正常。
- 関節痛・関節炎: 膝・足首に多い。歩行が痛くてできないことも。
- 腹痛: 腸管の血管炎によるもの。腸重積の合併も報告されている。
- 腎炎(紫斑病性腎炎): 血尿・タンパク尿として現れる。
2010年に発表されたEULAR/PRINTO/PRESの分類基準では、「下肢優位の紫斑(必須)」に加え、腹痛・関節炎または関節痛・腎症・組織検査でのIgA沈着のうち1つ以上があればIgA血管炎に分類される [2]。
自然経過と再発
IgA血管炎の大半は、4〜6週以内に主症状が軽快する良性疾患だ。入院が必要になるケースもあるが(重症腹痛、腎症進行など)、治療の主体は安静と症状に対する対症療法だ [1]。
再発は約3分の1に起こるとされる [1]。再発は多くが初回エピソードより軽症で、自然軽快することが多い。とはいえ、再発時も症状の記録と受診が重要になる。
コルチコステロイド: 副腎皮質から分泌されるホルモンを化学合成した抗炎症・免疫抑制薬の総称は、重症の腹痛や腎炎の進行がある場合に使用されるが、軽症例では推奨されていない。NSAIDs: 非ステロイド性抗炎症薬の総称。イブプロフェン等が代表例(イブプロフェン等)は関節痛の緩和に使われるが、腎機能への影響に注意が必要な場合もあり、医師の指示に従う。
紫斑病性腎炎 — 長期経過で最も重要な合併症
IgA血管炎において、長期的に最も重要なのは腎症(紫斑病性腎炎)への進展だ。合併率は約3割と報告されており(入院例を集めた研究ではより高い)[3,4,5]、多くは血尿・タンパク尿という形で現れる。
腎症の大半は自然軽快するが、一部の例では慢性腎臓病へ進展することがある。選別していない患者全体で見ると、診断から20年までに慢性腎臓病に至るのは5%未満とされる [4]。尿検査が正常のまま経過した子どもでは長期の腎障害は報告されておらず、尿異常だけの子どもで約1.6%、ネフローゼ症候群や腎炎症候群を起こした子どもで約2割だった [5]。早期に検知して専門家と連携すれば、治療を検討できるケースもある。
腎症の85%は診断から4週以内、97%は6ヶ月以内に現れる。このため、最初の尿検査が正常でも、IgA血管炎と診断された後6ヶ月間は定期的な尿検査を続けることが勧められている [5]。尿に血やタンパクが出ていないかを確認することが、長期的な腎予後を守るための核心的な行動だ。
家庭でのモニタリング
保護者が自宅で注意すべき「再受診の目安」を以下に示す。
- 尿が赤い・ピンク色になった: 肉眼的血尿の可能性。早めに受診。
- 尿が泡立つ: 大量タンパク尿のサインのことがある。
- 顔や手がむくんでいる: 腎臓からのタンパク喪失(ネフローゼ: 腎臓の障害により大量のタンパク質が尿中に漏れ出し、浮腫や低アルブミン血症を来す状態)の可能性。
- 腹痛が激しい・嘔吐を繰り返す: 腸重積などの合併を疑う。
- 紫斑が体幹・顔面に広がる: 稀だが重症化の可能性。
症状の推移(紫斑の広がり・腹痛の程度・関節の動き)を日付とともに記録しておくと、再診時の情報提供に役立つ。「先週より多い・少ない」という変化の傾向は、保護者の継続的な観察によってしか把握できない。
まとめ
IgA血管炎の急性期は多くが自然軽快する。長期管理で重要なのは腎臓への合併症の監視だ。診断後数ヶ月の定期尿検査と、家庭でのモニタリングが、予後を守る実践的な行動になる。「下肢の紫斑」という視覚的なサインは早期受診につながりやすいが、その後の経過観察こそがこの疾患への適切な向き合い方といえる。
References
- Tizard EJ, Hamilton-Ayres MJ. Henoch Schonlein purpura. Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2008;93(1):1–8. doi:10.1136/adc.2004.066035. PMID: 18208978.
- Ozen S, Pistorio A, Iusan SM, et al. EULAR/PRINTO/PRES criteria for Henoch-Schönlein purpura, childhood polyarteritis nodosa, childhood Wegener granulomatosis and childhood Takayasu arteritis: Ankara 2008. Part II: Final classification criteria. Ann Rheum Dis. 2010;69(5):798–806. doi:10.1136/ard.2009.116657. PMID: 20413568.
- Mir S, Yavascan O, Mutlubas F, Yeniay B, Sonmez F. Clinical outcome in children with Henoch–Schönlein nephritis. Pediatr Nephrol. 2007;22(1):64–70. doi:10.1007/s00467-006-0278-0. PMID: 17024391.
- Davin JC, Coppo R. Henoch-Schönlein purpura nephritis in children. Nat Rev Nephrol. 2014;10(10):563–573. doi:10.1038/nrneph.2014.126. PMID: 25072122.
- Narchi H. Risk of long term renal impairment and duration of follow up recommended for Henoch-Schonlein purpura with normal or minimal urinary findings: a systematic review. Arch Dis Child. 2005;90(9):916–920. doi:10.1136/adc.2005.074641. PMID: 15871983.
- Saulsbury FT. Henoch-Schönlein purpura. Curr Opin Rheumatol. 2001;13(1):35–40. doi:10.1097/00002281-200101000-00006. PMID: 11148713.
- Gardner-Medwin JM, Dolezalova P, Cummins C, Southwood TR. Incidence of Henoch-Schönlein purpura, Kawasaki disease, and rare vasculitides in children of different ethnic origins. Lancet. 2002;360(9341):1197–1202. doi:10.1016/S0140-6736(02)11279-7. PMID: 12401245.