リード
夏に突然39〜40℃の高熱が出た。のどを見ると奥に小さな水ぶくれが並んでいる。手足や体には発疹がない——この状況はヘルパンギーナの典型的な姿だ。手足口病と同じエンテロウイルス属が原因で、しばしば混同されるが、発疹の分布が決定的に異なる。ヘルパンギーナで最大のリスクは高熱そのものではなく、のどの痛みで水が飲めなくなることによる脱水だ。この経過を知っておくだけで、在宅での1週間は全く違う過ごし方になる。
病原体と流行の特徴
ヘルパンギーナの原因は主にコクサッキーウイルスA群(A2、A4、A6、A10型など)で、EV-A71でも発症する [1, 4]。ヘルパンギーナだけを対象にした研究は手足口病との合算報告に比べて少ないが、北京で小児のヘルパンギーナ190例を調べた研究では69%からエンテロウイルスが検出され、CV-A6・A4・A10が多かった [4]。原因となる型が複数あるので、一度かかっても別の型で再びかかりうる [3]。
流行は夏に集中する。日本の感染症発生動向調査では、全国約3,000の小児科定点からの報告だけで、大きく流行した2023年は第28週までに約12万6千件に達した(定点以外の医療機関を受診した患者は含まない数字だ)。同年の報告では5歳以下が88%を占め、1〜4歳が中心だった [2]。手足口病とともに、代表的な夏の感染症に位置づけられる。
同じエンテロウイルス属が原因であっても、ヘルパンギーナと手足口病では発疹の場所が異なる。手足口病は手のひら・足の裏・口腔内に発疹が出るが、ヘルパンギーナは口腔内(特に口蓋扁桃弓: 口蓋垂の両脇にある弓状のひだ。ヘルパンギーナの水疱が好発する部位・軟口蓋: 口の天井の後ろ側の軟らかい部分。ヘルパンギーナでは水疱・潰瘍が出やすいという咽頭後部)にのみ水疱が出る。この「手足には出ない」という点が鑑別の要点だ。
症状と経過
症状の始まりは突然の高熱(39〜40℃)だ。発熱と前後して、のどの奥に小さな水疱が2〜10個程度出現する。水疱はすぐに破れて浅い潰瘍: 粘膜や皮膚の表面が欠損した状態。ヘルパンギーナではのどに生じ強い痛みを伴う(アフタ)になり、強い痛みを生じる。この痛みが最大の問題になる。
のどが痛くて飲めない状態が続くと、24〜48時間のうちに脱水が進行しうる。年齢が小さいほど体液貯蔵量が少なく、脱水の進行速度が速い。
熱は多くの場合2〜4日で自然に下がり [3]、のどの水疱・潰瘍も1週間程度で治癒する。通常は後遺症を残さない。
脱水リスクへの対応が鍵
ヘルパンギーナのケアで最優先されるのは水分補給の維持だ。普通の飲み物を嫌がる場合は、以下の工夫が有効なことが多い。
- 冷たい飲み物・アイスクリーム・ゼリーなど、冷たくて刺激の少ないものを少量ずつ
- 熱い・辛い・酸っぱい食品は痛みを増悪させるため避ける
- 経口補水液(OS-1等)を冷やして少量ずつ頻回に与える
受診の目安は、6時間以上尿が出ない状態の継続、ぐったりして反応が鈍い場合、飲水がほとんどできない状態が続く場合だ。これらは脱水の可能性を示唆するサインだ。
感染対策
主な感染経路は飛沫感染・接触感染・経口(糞口)感染で、回復後も飛沫や鼻汁からは1〜2週間、便からは数週〜数か月にわたってウイルスが排出される [3]。保育所向けの国のガイドラインが示す登園のめやすは「発熱や口腔内の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事がとれること」だ。同ガイドラインは、登園を控えても感染拡大を防ぐ効果は低く、排出期間の長さからも現実的ではないとしたうえで、再開後も排便後やおむつ交換後の手洗いを徹底するよう求めている [3]。幼稚園やプールの再開は施設の方針によるので、体調が戻ってから施設に確認するとよい。
行動レベルへの落とし込み
- 「高熱+のどの奥の水ぶくれ、手足に発疹なし」の組み合わせはヘルパンギーナを疑う
- 冷たい飲み物やアイスを活用し、とにかく水分を維持することを優先する
- 6時間尿が出ない・ぐったり → 脱水サインとして受診する
- 発熱開始日・最高体温・飲水量の変化を記録しておくと、受診時に経過が伝わりやすい
- 便を介した感染が長く続くため、症状回復後もしばらく手洗い習慣を維持する
まとめ
ヘルパンギーナは大多数が1週間以内に自然治癒する。しかしのどの痛みによる水分摂取の低下は、特に小さな乳幼児では脱水への直通路になる。高熱そのものよりも「飲めているかどうか」を観察し続けることが、在宅ケアの核心だ。
References
- Ho M, Chen ER, Hsu KH, et al. An epidemic of enterovirus 71 infection in Taiwan. N Engl J Med. 1999;341(13):929–935. doi:10.1056/NEJM199909233411301. PMID: 10498487.
- 国立感染症研究所. IDWR 2023年第28号<注目すべき感染症> ヘルパンギーナ・RSウイルス感染症. 2023. https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/rapid/2023/28/article/rs-virus/index.html
- こども家庭庁. 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版、2023年5月一部改訂). 別添1(19)ヘルパンギーナ. https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/c60bb9fc/20230720_policies_hoiku_25.pdf
- Zhao TS, Du J, Li HJ, et al. Molecular epidemiology and clinical characteristics of herpangina children in Beijing, China: a surveillance study. PeerJ. 2020;8:e9991. doi:10.7717/peerj.9991. PMID: 33088614.