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BTISS という尺度 — Bristol Stool Scale の乳児版を知る

執筆: 森口 蓮音2026年5月13日 公開2026年5月18日 更新読了時間 約 9 分English version available
対象
0〜3歳の子の保護者、便の形状や固さが気になる保護者

3行まとめ

  • ·Bristol Stool Scale は成人用に設計されており、おむつ内の乳幼児便を評価する構造上の限界がある
  • ·BTISS(Brussels Infant and Toddler Stool Scale)は18施設・2,462名(保護者・看護師・医師)の多施設研究で、評価者間の一致が良好と確認されている
  • ·機能性便秘の乳幼児の硬い便を「硬い」と捉えられた割合はBTISSがBristol Scaleを大きく上回り(57.4% vs 25.3%)、「便が軟らかい=異常」という誤解を解体する枠組みを提供する

目次

  1. リード
  2. Bristol Stool Scale の限界
  3. BTISS の開発 — ブリュッセルの Vandenplas グループ
  4. BTISS の構成 — 何を、どう評価するか
  5. 栄養形態ごとの「正常範囲」
  6. 保護者による評価と医療者の一致率
  7. 「便が緩い = 異常」を解体する
  8. まとめ
  9. References

リード

「便が緩い気がするけれど、これは下痢なのか」「固すぎる気がするけれど、便秘と言えるのか」——便の形状や固さをどう評価すればよいか、多くの保護者が曖昧なまま判断している。

医療の場では便の性状を標準化するために「尺度」が使われる。成人向けには Bristol Stool Form Scale(BSFS) が広く知られているが、この尺度には根本的な問題がある。母乳便・人工乳便・離乳食期の便を的確に分類できる設計になっていないのだ。

本稿では、乳幼児向けに開発された BTISS(Brussels Infant and Toddler Stool Scale) という尺度を紹介しながら、「この子の便は正常範囲か」という問いに答えるための枠組みを整理する。

Bristol Stool Scale の限界

Lewis と Heaton が 1997 年に発表した Bristol Stool Form Scale は、成人の便を 1(コルク状の硬い塊)から 7(水様便)の 7 段階に分類し、各タイプの形状写真を示した尺度だ [1]。同じブリストルのグループは 1990 年にも、便の形状から腸管通過の速さを簡便に見積もる方法を報告している [6]。腸管通過時間と便の形状が強く相関することを示し、現在も世界的に臨床・研究で広く使われている。

しかし問題がある。この尺度は成人の排便を想定して作られており、おむつの中に排泄される乳幼児の便を分類するためには設計されていない。

具体的には:

  • 母乳栄養児の便は、生後数週間は黄色の水様〜糊状が「正常」だが、Bristol の 7 型(水様便)に当てはめると「下痢」に見える。
  • 人工乳(ミルク)栄養児の便は母乳栄養児より固くなりやすいが、その正常範囲がカバーされていない。
  • 離乳食開始後、繊維摂取が増えることで形状が変化するが、その移行期の多様性が反映されていない。
  • おむつの中で広がった便の形状は、トイレに排泄された成人の便と形状の見え方が根本的に異なる。

実際、BSS はトイレトレーニング前の乳幼児には適さないと指摘されている [3]。乳児向けの先行例としては、オランダ・アムステルダムの Bekkali らが 2009 年に、性状(4 段階)・量(4 段階)・色(6 カテゴリ)で乳児の便を記述するアムステルダム乳児便スケール(Amsterdam Infant Stool Scale)を開発している [2]。

BTISS の開発 — ブリュッセルの Vandenplas グループ

この問題を解決するために、ベルギー・ブリュッセル自由大学病院(UZ Brussel)の Huysentruyt、Vandenplas らが中心となって開発されたのが Brussels Infant and Toddler Stool Scale(BTISS、または BITSS とも表記)だ [3]。

Huysentruyt らが 2019 年に Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition(JPGN)に発表した検証研究は、BTISS の評価者間信頼性(interobserver reliability)を欧州・アジア・米州の 18 施設で調べた多施設横断研究だ [3]。参加者は 2,462 名(保護者 1,181 名・看護師 624 名・医師 657 名)。おむつ内の便を写した 7 枚の写真を Bristol の型に当てはめて評価してもらったところ、加重 κ 値は 0.72(95%CI: ある測定値が真の値を95%の確率で含む範囲を示す統計的指標: 0.59–0.85)と良好な一致が確認された。さらに写真を「硬便・有形便・軟便・水様便」の 4 群にまとめ直すと、写真ごとの正しい分類率は 83〜96%(平均 90%)だった [3]。

BTISS の構成 — 何を、どう評価するか

BTISS の中身はシンプルで、おむつに出た便を写した 7 枚の写真 でできている。前述の検証研究を経て、7 枚は性状(固さ)によって 4 つのグループに整理された [3]。

  1. 硬便(hard): Bristol の 1〜3 型に相当する 3 枚
  2. 有形便(formed): Bristol の 4 型に相当する 1 枚
  3. 軟便(loose): Bristol の 5〜6 型に相当する 2 枚
  4. 水様便(watery): Bristol の 7 型に相当する 1 枚

BTISS が評価するのは性状だ。量や色まで含めて記述したい場合は、先行するアムステルダム乳児便スケール(性状・量・色の 3 軸)が使われてきた [2]。色の意味は前稿(「乳児の便の色」記事参照)で扱っている。性状の評価は、おむつに広がった便の写真をベースに、視覚的に確認できる設計になっている。

成人向けの Bristol とは異なり、おむつに排泄された状態での視覚評価 という実態に即したフォーマットになっている点が最大の設計上の特徴だ。

栄養形態ごとの「正常範囲」

乳児の排便を調べた研究から見えてくる重要な知見は、乳幼児の便の正常範囲は栄養形態によって大きく異なる という点だ。オランダの健康な乳児 600 名の排便日誌を分析した研究では、生後 3 か月までの母乳栄養児は人工乳栄養児より便が軟らかく、回数も多く、黄色いことが多かった [7]。

  • 母乳栄養児: 便は一般に軟便〜水様に近い性状を示す。尺度で軟らかい側に出ても、それが正常であることが多い。排便頻度も高い [7]。
  • 人工乳(ミルク)栄養児: 母乳栄養児と比較して便は固い傾向にあり、尺度では固い側に出やすい。排便頻度も少なくなりやすい [7]。
  • 離乳食開始後: 食物繊維や固形食材の導入によって便の性状が変化し、形が出やすくなる。色も食材に応じて多様化する。

Gustin らは、母乳だけで育つ乳児の便は性状の幅が広く、アムステルダム乳児便スケールでも十分にカバーしきれないとして、新しいスケールを提案している [5]。

BTISS と Bristol を臨床の場で比べた研究もある。コロンビアでおむつを使う子ども 666 名の保護者に両方の尺度で便を評価してもらった Velasco-Benitez らの研究(2021 年)では、機能性便秘の子の硬い便を「硬い」と捉えられた割合は BTISS 57.4%、Bristol 25.3% だった [4]。著者らは、BTISS のほうが硬便と機能性便秘に対して感度が高いようだとしつつ、Bristol を置き換えるべきかどうかはさらに研究が必要だと述べている [4]。

保護者による評価と医療者の一致率

BTISS の重要な特徴のひとつは、保護者が自分で評価できるように設計されている点だ。写真ベースの評価であるため、医療者と保護者の間の評価の一致率が比較的高い [3]。

日常的に便の写真をおむつ交換時に記録しておけば、受診時に「先週の便はこんな感じでした」と具体的に伝えられる。言語による説明(「ゆるかった」「ねばねばしていた」)は評価者によって大きくばらつくが、写真であれば客観性が格段に高まる。

Memori の便スキャン機能は、この BTISS の設計思想と一致した運用を目指している。カメラで撮影した便の画像から色と性状を評価し、BTISS に準拠した分類を行うことで、家庭での観察と医療機関での評価の橋渡しを担う。

「便が緩い = 異常」を解体する

母乳栄養の乳児の保護者が「下痢かと思って受診した」という経験は珍しくない。しかし栄養形態別の観察研究が示すように、母乳栄養児の便は人工乳栄養児より軟らかく回数も多いのがふつうで [7]、こうした軟らかい便は正常範囲の生理的バリエーションであることが多い。Bristol Stool Scale の 7 型(水様便)に当てはめて「下痢」と判断するのは構造的に誤りだ。

「便が緩い = 下痢 = 異常」というショートカット思考が、不必要な受診や保護者の不安を生む。尺度がなければ、この修正ができない。BTISS のような乳幼児向けの尺度と、栄養形態別の正常範囲のデータを組み合わせることで、「うちの子の今の状態は正常範囲か、そうでないか」という問いに対して、より根拠のある答えを出せるようになる。

機能性便秘: 腸や肛門に器質的な異常がないにもかかわらず生じる便秘(器質的疾患のない便秘)の判断も同様だ。Rome IV: 機能性消化管障害の国際診断基準で、便秘・過敏性腸症候群などの定義を提供する基準では、4 歳未満の乳幼児の機能性便秘は、週 2 回以下の排便・過度の便の貯留・痛みを伴う排便または硬い便・太い便・直腸内の大きな便塊のうち 2 つ以上が 1 か月続くことで定義される [8]。「硬い便」かどうかが診断の要素に入っているのに、Rome IV 自体は性状の評価に Bristol を勧めており、おむつの子への適用には疑問が出されている [4]。その性状の評価には乳幼児向けの尺度が必要だ。

まとめ

Bristol Stool Form Scale は成人向けに開発されており、おむつの中の乳幼児の便には適用できない構造上の限界がある。BTISS は、この問題に正面から向き合って開発された乳幼児専用の便性状評価尺度だ。おむつ内の便を写した 7 枚の写真を 4 つの性状グループにまとめた設計で、保護者・看護師・医師による評価の一致が良好であることが多施設研究で確認されている [3]。

「便が緩い」という親の観察は、尺度があってはじめて「正常範囲か、異常か」という問いに変換できる。記録し、評価し、伝える——その連鎖を支える尺度が存在することを、保護者に届けることがこの記事の目的だ。


References

  1. Lewis SJ, Heaton KW. Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time. Scand J Gastroenterol. 1997;32(9):920–924. doi:10.3109/00365529709011203. PMID: 9299672.
  2. Bekkali N, Hamers SL, Reitsma JB, Van Toledo L, Benninga MA. Infant stool form scale: development and results. J Pediatr. 2009;154(4):521–526.e1. doi:10.1016/j.jpeds.2008.10.010. PMID: 19054528.
  3. Huysentruyt K, Koppen I, Benninga M, et al; BITSS Study Group. The Brussels Infant and Toddler Stool Scale: A Study on Interobserver Reliability. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2019;68(2):207–213. doi:10.1097/MPG.0000000000002153. PMID: 30672767.
  4. Velasco-Benitez CA, Llanos-Chea A, Saps M. Utility of the Brussels Infant and Toddler Stool Scale (BITSS) and Bristol Stool Scale in non-toilet-trained children: A large comparative study. Neurogastroenterol Motil. 2021;33(8):e14015. doi:10.1111/nmo.14015. PMID: 33094889.
  5. Gustin J, Gibb R, Kenneally D, Kutay B, Waimin Siu S, Roe D. Characterizing Exclusively Breastfed Infant Stool via a Novel Infant Stool Scale. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2018;42 Suppl 1:S5–S11. doi:10.1002/jpen.1468. PMID: 30370924.
  6. O'Donnell LJD, Virjee J, Heaton KW. Detection of pseudodiarrhoea by simple clinical assessment of intestinal transit rate. BMJ. 1990;300(6722):439–440. doi:10.1136/bmj.300.6722.439. PMID: 2107897.
  7. den Hertog J, van Leengoed E, Kolk F, et al. The defecation pattern of healthy term infants up to the age of 3 months. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2012;97(6):F465–F470. doi:10.1136/archdischild-2011-300539. PMID: 22522220.
  8. Benninga MA, Faure C, Hyman PE, St James Roberts I, Schechter NL, Nurko S. Childhood Functional Gastrointestinal Disorders: Neonate/Toddler. Gastroenterology. 2016;150(6):1443–1455.e2. doi:10.1053/j.gastro.2016.02.016. PMID: 27144631.

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