友達関係の複雑化 — 5〜6歳で起きていること

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対象
4〜6歳の子の保護者
文字数目安
2,100字
ステータス
ドラフト v1

リード

「仲良しだったのに、急に一人で帰ってきた」「誰かを仲間に入れない・入れてもらえない、という話をするようになった」——5〜6歳ごろになると、友達関係の話が少しずつ複雑になってくる。

2〜3歳の頃の「一緒に遊ぶのが楽しい相手」という友達の概念から、5〜6歳になると何かが変わる。その変化は、発達心理学の文脈では数十年前から精緻に記述されてきた。何が変わるのか、なぜ複雑になるのかを整理すると、保護者が子どもの話を聞くときの語彙が少し増えるかもしれない。


友情概念の発達段階

Bigelow & La Gaipa(1975)は、6〜14 歳の子どもに「友達に期待することを書いてください」という課題を与え、480 本の作文を分析した [1]。そこから浮かび上がったのは、友情の概念が年齢とともに段階的に変化するというパターンだ。

6〜7 歳頃の子どもは、友情を主に「近くにいること」「一緒に遊ぶこと」「モノを共有すること」という行動的・物理的な観点で捉える。「一緒にブランコに乗る子」が「友達」だ。

8〜10 歳になると、「約束を守ること」「秘密を言わないこと」「助けてくれること」という相互性・忠誠心の要素が加わる。友達は「利益を提供してくれる相手」から「信頼できる相手」へと変化していく [1]。

Selman(1980)はより構造化されたモデルを提示し、子どもの友情概念の発達を(perspective-taking)能力の発達と連動させた [2]。5〜6 歳頃の「段階 1」では、友達は「自分がやりたいことに賛成してくれる相手」として定義され、相手の主体的な立場はまだ十分に考慮されない。7〜9 歳の「段階 2」になると、「相手も考えや感情を持っている」という気づきが友情概念に入り込み、関係は双方向に理解されるようになる [2]。

5〜6 歳の友達関係が「複雑に見える」のは、このちょうど過渡期にあるからかもしれない。自分の欲求と相手の欲求が衝突するという経験が増え始めているが、それをうまく処理する認知的・感情的なツールがまだ発達途中だ。


内向と外向 — 孤立していることは問題か

「一人でいることが多い」という子を見ると、保護者は心配するかもしれない。しかし Rubin, Coplan & Bowker(2009)の Annual Review 論文は、社会的引きこもり(social withdrawal)を一枚岩に捉えることの危険性を指摘している [3]。

社会的引きこもりには、少なくとも 2 つの異なるメカニズムがある。ひとつは「社会的不安・怖さ」から来る引きこもり(shyness/social anxiety)。もうひとつは「孤独な活動への好み(solitude preference)」から来る引きこもりで、これは社会的スキルの問題ではなく気質の差に近い [3]。

前者は持続的な場合に介入の検討が必要になり得るが、後者は社会的に問題とは見なされにくい。どちらかを見分けるヒントは、「一人でいることで本人が苦しそうか」だ。友達と一緒にいたいのに入れてもらえないという状況と、一人の活動を選好しているという状況とでは、意味が異なる。

Hartup(1996)は友達関係の研究を網羅したレビューで、問題になるのは「友達がいないこと」ではなく、「友達を選べないこと」と「友達との関係の質が低いこと」であると整理した [4]。数ではなく質の問題だ、という指摘は今も有効だ。


いじめの萌芽をどう見るか

5〜6 歳の保育施設・幼稚園の環境では、すでに「特定の子を仲間に入れない」「意図的に無視する」という行動が観察される。これはいじめの前駆的な形として扱われることがある。

発達研究の文脈では、このような「(relational aggression)」——直接的な暴力ではなく、仲間関係を操作することで他者を傷つける行動——は、4〜5 歳から出現し始めることが知られている [5]。関係性攻撃は男女ともに見られるが、特に女児において身体的攻撃より早期に優勢になる傾向がある。

Rubin ら(2009)のレビューが示すように、この時期の仲間排除は「発達的に出現しやすい行動」でもある [3]。それ自体を即「いじめ問題」と解釈するかどうかは状況次第だが、保護者・保育者が観察を続け、繰り返し・意図的・一方的な場合に対応を検討することが重要だ。


保護者ができること

Hartup(1996)の知見に基づけば、友達の数を増やすことより友達関係の質を支えることが実質的な意味を持つ [4]。「今日誰と遊んだ?」と聞くより、「今日どんなことがあった?」と聞くほうが、子どもが関係の中で感じたことを言語化する練習になる。

子どもが「○○ちゃんが入れてくれなかった」という話をしてきたとき、すぐに解決策を示すのではなく、「そのとき、どんな気持ちだった?」と感情に名前をつける助けをすることが、Selman のいう視点取得能力の発達を支える [2]。自分の感情に言葉をつけることが、相手の感情を想像することの基礎になる。

友情の発達は、きれいな段階を踏んで進むわけではない。衝突・和解・復活——この繰り返しの中で、子どもは「関係は壊れても戻せる」という経験を積む。


まとめ

5〜6 歳の友達関係の複雑化は、友情概念が「物理的な近さ」から「相互信頼」へと移行する過渡期に起きる現象だ [1,2]。孤立に見える行動が気質の表れであることもあれば、不安の表れであることもある [3]。いずれの場合も、「友達の数」より「関係の中で何を経験しているか」を見ることが、保護者として有効な観察の軸になる [4]。

子どもの友達関係の記録——「今日は○○くんと仲直りした」「初めて一人で遊んでいた」——は、月単位で振り返ったとき、その子の社会的発達の軌跡として読み取れる情報になる。


References

  1. Bigelow BJ, La Gaipa JJ. Children's written descriptions of friendship: A multidimensional analysis. Developmental Psychology. 1975;11(6):857–858. doi:10.1037/0012-1649.11.6.857
  2. Selman RL. The Growth of Interpersonal Understanding: Developmental and Clinical Analyses. New York: Academic Press; 1980.
  3. Rubin KH, Coplan RJ, Bowker JC. Social withdrawal in childhood. Annual Review of Psychology. 2009;60:141–171. doi:10.1146/annurev.psych.60.110707.163642. PMID: 18851686
  4. Hartup WW. The company they keep: Friendships and their developmental significance. Child Development. 1996;67(1):1–13. doi:10.1111/j.1467-8624.1996.tb01714.x. PMID: 8605821
  5. Rubin KH, Bukowski WM, Laursen B, eds. Handbook of Peer Interactions, Relationships, and Groups. New York: Guilford Press; 2009.