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熱が出た夜にできること — 水分・服装・解熱剤の使いどき

読了時間 約 7 分English version available
対象
生後3ヶ月〜6歳の子の保護者
文字数目安
2,200字
ステータス
ドラフト v1

3行まとめ

  • ·発熱は感染に対する体の反応であり、熱の高さと病気の重さは比例しない。39℃でも機嫌よく飲めている子と、38℃で反応が鈍い子では、注意を向けるべきは後者だ
  • ·家庭で見る軸を「飲めているか・出ているか・反応がふだんどおりか」の3点に置くと、体温計の数字に振り回されずに済む
  • ·解熱剤は病気の経過を早めも遅めもしない。使う目的は体温を下げることではなく、眠れる・飲めるという楽さを取り戻すことにある

目次

  1. リード
  2. 熱の高さは、病気の重さとは別のものさし
  3. 見るのは体温計より、水分と機嫌
  4. 服装と室温 — 冷やすより、逃がす
  5. 解熱剤は、熱を下げるためではなく楽にするために
  6. 受診の目安
  7. まとめ
  8. References

リード

深夜、子どもの額が熱い。体温計が 38.4℃ と表示する。多くの親がその瞬間にまず考えるのは、「この数字は危ないのか」だろう。

発熱は乳幼児期にごくありふれた出来事だが、ありふれていることと、親が落ち着いていられることは別の話だ。親が発熱そのものを実際以上に危険視する傾向は 1980 年に「fever phobia: 発熱そのものを病気の重さと同一視し、実際のリスクより強く恐れる保護者の傾向」として記述され [1]、20 年後の追跡調査でも大きくは変わっていなかった [2]。

この記事が扱うのは、熱が出た夜に家でできることだけだ。病名の話はしない。


熱の高さは、病気の重さとは別のものさし

発熱は病気そのものではなく、感染に対して体温のセットポイント: 視床下部が維持しようとする体温の目標値。感染時にはこれが一時的に引き上げられるが引き上げられた状態を指す [3]。体が意図して温度を上げているのであって、温度計が壊れた状態ではない。

英国 NICE の発熱ガイドラインは、生後3ヶ月以上の子について、体温の高さ単独では重い細菌感染の予測因子として使えないと明示している [4]。判断材料になるのは数字ではなく、顔色・意識・呼吸・水分状態といった観察の組み合わせのほうだ [4]。

だから、39.0℃ で遊んでいる子と 38.0℃ で反応が鈍い子が並んでいたら、気にかけるべきは後者になる。深夜に体温計を何度も測り直したくなるのは自然な反応だが、測り直して得られる情報は、実のところそれほど多くない。

もうひとつ、夜が長く感じられる理由に触れておきたい。体温にはもともと日内変動があり、明け方に最も低く、夕方から夜にかけて高くなる [3]。発熱している最中もこのリズムは残るため、「昼間は下がっていたのに夜また上がった」という経過は、悪化ではなく変動の範囲であることが多い。上がったり下がったりを繰り返しながら数日かけて収まっていくのが、よくある形だ。


見るのは体温計より、水分と機嫌

発熱時は代謝が上がり、不感蒸泄: 汗として自覚されないまま、皮膚や呼気から失われていく水分も増えるため、体は脱水に傾きやすくなる [3]。家庭での観察は、この一点に絞ると輪郭がはっきりする。

  • 飲めているか。 母乳・ミルク・水・経口補水液、飲めるものなら何でもいい。一度にたくさんではなく、少量を何度も、のほうが受けつけやすい
  • 出ているか。 おむつが半日近く乾いたまま、涙が出ない、口の中が乾いている、といった変化は水分の不足を示す
  • 反応はふだんどおりか。 呼びかけに応じる、目が合う、抱っこで落ち着く。この3つが保たれているかどうか

食欲は数日落ちてもそれ自体が問題になることは少ないが、水分は別に考えたほうがいい。

体温を測った時刻と数字、飲めた量、そのときの様子を並べて残しておくと、翌朝に受診したとき「昨夜からの経過」を記憶に頼らず伝えられる。記録アプリのような受け皿があると、深夜の断片的なメモが翌朝の説明に変わる。


服装と室温 — 冷やすより、逃がす

熱の上がりぎわには手足が冷たくなり、震えることがある。悪寒: 体温の設定値が上がった直後、実際の体温がそこに追いつくまでのあいだ感じる強い寒気と呼ばれる状態で、このときは 1 枚足したほうが本人は楽になる。上がりきって暑がりはじめたら、その 1 枚を外して薄着に戻す。厚着をさせて汗をかかせるという手当てはよく語られるが、放熱を妨げる方向に働くため、上がりきったあとまで続ける理由はない。

ぬるま湯での清拭(tepid sponging)は、解熱剤と併用すると体温をわずかに早く下げるものの、震えや不快感を増やすことが知られており、NICE は体温を下げる目的での実施を推奨していない [4]。氷枕や冷却シートも同じ基準で考えられる。本人が気持ちよさそうにしているなら使えばよく、嫌がって払いのけるなら外す。判断の基準は体温計の数字ではなく、本人が楽そうかどうかだ。


解熱剤は、熱を下げるためではなく楽にするために

米国小児科学会(AAP)の臨床報告は、発熱した子への対応の第一の目的は体温の正常化ではなく全体的な快適さの改善である、と述べている [5]。ここは解熱剤の位置づけを決める一文でもある。

解熱剤が感染症の経過を延ばすかどうかを検討した系統的レビューでは、有熱期間を明確に延長させる証拠は見つかっていない [6]。同時に、治りを早めるわけでもない。つまり解熱剤は病気の経過に対して中立で、効くのは症状のつらさに対してだ。

使いどきは、数字ではなく様子で決められる。眠れない、飲めない、機嫌が戻らない — そうしたときに使うと、眠れるようになり、飲めるようになる。逆に 38.5℃ でよく眠っている子をわざわざ起こして飲ませる理由は、この考え方からは出てこない [5]。

薬の種類と量については、月齢と体重で決まるうえ投与間隔も定まっているので、手元の処方や製品の表示に従うのが確実だ。なお、2 剤の併用や交互投与は解熱の上乗せがわずかにある一方で投与間違いのリスクを増やすため、ふだんの家庭での使い方としては推奨されていない [4,7]。


受診の目安

以下は、時間帯にかかわらず相談したほうがよい状況として挙げられているものだ。

  • 生後3ヶ月未満で 38.0℃ 以上ある。この月齢では発熱そのものが受診の理由になる [8]
  • 呼びかけへの反応が鈍い、起こしても目が合わない、ぐったりした状態が戻らない
  • 半日ほど水分が取れない、尿が半日以上出ない、涙が出ない
  • 呼吸が速い、苦しそう、肋骨の間や喉元がへこむ
  • 押しても消えない発疹がある
  • けいれんを起こした
  • 熱が5日以上続く、または一度下がってから再び上がる

どれにも当てはまらず、水分が取れていて、眠れていて、起きているときの反応がふだんどおりであれば、朝まで待って日中に受診するという選択肢が現実的に取れる。判断に迷う夜には、小児救急電話相談(#8000)という中間の窓口もある。


まとめ

熱の高さは、家庭で重症度を測るものさしにはならない [4]。代わりに使えるのは、飲めているか・出ているか・反応がふだんどおりか、という3つの観察だ [3,4]。解熱剤は経過を変えないが、眠れるようにする [5,6]。

体温計の数字を追いかけると夜は長くなる。子どもの顔を見るほうが、たぶん早く朝が来る。


References

  1. Schmitt BD. Fever phobia: misconceptions of parents about fevers. Am J Dis Child. 1980;134(2):176–181. doi:10.1001/archpedi.1980.02130140050015. PMID: 7352443.
  2. Crocetti M, Moghbeli N, Serwint J. Fever phobia revisited: have parental misconceptions about fever changed in 20 years? Pediatrics. 2001;107(6):1241–1246. doi:10.1542/peds.107.6.1241. PMID: 11389237.
  3. El-Radhi ASM. Fever management: evidence vs current practice. World J Clin Pediatr. 2012;1(4):29–33. doi:10.5409/wjcp.v1.i4.29. PMID: 25254165.
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Fever in under 5s: assessment and initial management. NICE guideline NG143. London: NICE; 2019 (updated 2021).
  5. Sullivan JE, Farrar HC; Section on Clinical Pharmacology and Therapeutics, Committee on Drugs, American Academy of Pediatrics. Fever and antipyretic use in children. Pediatrics. 2011;127(3):580–587. doi:10.1542/peds.2010-3852. PMID: 21357332.
  6. Purssell E, While AE. Does the use of antipyretics in children who have acute infections prolong febrile illness? A systematic review and meta-analysis. J Pediatr. 2013;163(4):1123–1128. doi:10.1016/j.jpeds.2013.06.044. PMID: 23916561.
  7. Wong T, Stang AS, Ganshorn H, Hartling L, Maconochie IK, Thomsen AM, Johnson DW. Combined and alternating paracetamol and ibuprofen therapy for febrile children. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(10):CD009572. doi:10.1002/14651858.CD009572.pub2. PMID: 24174375.
  8. Pantell RH, Roberts KB, Adams WG, et al.; Subcommittee on Febrile Infants, American Academy of Pediatrics. Evaluation and management of well-appearing febrile infants 8 to 60 days old. Pediatrics. 2021;148(2):e2021052228. doi:10.1542/peds.2021-052228. PMID: 34281996.

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