リード
「そろそろ一人で寝かせたい」と思い始めた時、最初に頭をよぎるのは「かわいそうではないか」という問いだ。と同時に、「何歳まで添い寝していいか」という問いもある。この二つは実は別の問いだが、混在することで判断が難しくなる。添い寝に悪いことはない。だが自立睡眠の移行には方法論があり、どれを選ぶかは家族の価値観と子の気質次第だ。
前提:「正しい月齢」は存在しない
子どもが一人で眠れる「適切な年齢」を規定した研究はない。自立睡眠の達成は2〜4歳に移行が起きやすいとされるが、文化差が非常に大きく、欧米では早期独立を推奨する傾向がある一方、アジア・日本を含む多くの文化では就学前後まで添い寝が続く [1]。
日本では乳幼児期の約70%以上が親と同室・同床で眠るとされており、欧米(15〜30%)との開きは大きい [2]。どちらが「正しい」かは発達研究が決める問いではない。
重要なのは、添い寝を続けることが子どもの愛着形成や精神発達に悪影響を与えるという証拠がない点だ。18年間の縦断研究では、就学前の添い寝が認知・行動的アウトカムに否定的な影響を与えないことが示されている [3]。
方法論:3つのアプローチ
自立睡眠への移行を望む家族に対しては、効果が確認されている方法がある。
段階的消去法(ファーバー法)
いわゆる「ファーバー法」は、子が泣いても一定時間待ってから寝室に入るという段階的消去法: 泣いても応答しない時間を段階的に延ばすことで、入眠時の親への依存を減らす行動療法的介入の手法だ。Mindell らのシステマティックレビューによれば、介入開始から1週間以内に夜間覚醒が50〜70%減少するという報告が複数ある [4]。「泣かせたまま」という点で心理的な抵抗を感じる保護者も多いが、5年後の追跡調査では、介入群と非介入群の間で愛着・精神発達・親子関係に有意な差はなかった [5]。子の長期的なウェルビーイングを損なうという証拠はない。
ノーチアーズ法(漸進的な移行)
泣かせない形で徐々に親の介在を減らしていく方法もある。効果量はファーバー法より小さいが、親側の心理的な負担が少ないという利点がある [6]。短期間で結果を求めるより、数週間かけて移行させるスタイルを好む家族に合う。
文化人類学的な視点:コスリープを「問題」にしない立場
McKenna らは、添い寝は人類の進化的な規範であり、欧米的な「早期睡眠独立」こそが文化的産物だという立場を取る [1]。SIDSとの関連が懸念されることもあるが、McKennaの分析ではSIDSリスクはアルコール・喫煙・柔らかい寝具などの特定因子に依存しており、添い寝そのものの問題ではないとされる [1]。子の年齢が上がるにつれ、この問題はほぼ消失する。
行動レベルへの落とし込み
移行の「適切なタイミング」は、子の月齢より親の準備度と子の気質が鍵になる。「今の添い寝を変えたい」と感じた時点が、事実上そのタイミングだ。
ファーバー法を試す場合は、「最初に何分待つか」を事前に決めることが成功の要素の一つだとされる。初日から完遂しようとするより、スモールゴールを積み重ねる形が無理なく続きやすい。
移行を急がない理由が家族にある場合は、それを尊重してよい。7〜9歳頃には子どものプライバシー需要が高まり、自然に「一人の部屋がほしい」という動機が生まれることも多い。
一人で眠れた最初の夜を記録に残しておくと、数年後に子と振り返った時に意外なほど喜ばれる場面がある。
まとめ
添い寝に有害な証拠はない。自立睡眠への移行は2〜4歳が移行しやすい時期だが、それは傾向であって規範ではない。移行を望む場合は、ファーバー法もノーチアーズ法も効果が確認されており、子の長期的な発達に悪影響を与えないことが複数の追跡研究で示されている。どの方法を選ぶかより、家族が無理なく続けられるかどうかが問いの中心だ。
References
- McKenna JJ, McDade T. Why babies should never sleep alone: a review of the co-sleeping controversy in relation to SIDS, bedsharing and breast feeding. Paediatr Respir Rev. 2005;6(2):134–152. doi:10.1016/j.prrv.2005.03.006. PMID: 15911265.
- Mindell JA, Sadeh A, Wiegand B, How TH, Goh DY. Cross-cultural differences in infant and toddler sleep. Sleep Med. 2010;11(3):274–280. doi:10.1016/j.sleep.2009.04.012. PMID: 20138578.
- Okami P, Weisner T, Olmstead R. Outcome correlates of parent-child bedsharing: an eighteen-year longitudinal study. J Dev Behav Pediatr. 2002;23(4):244–253. doi:10.1097/00004703-200208000-00006. PMID: 12177562.
- Mindell JA, Kuhn B, Lewin DS, Meltzer LJ, Sadeh A. Behavioral treatment of bedtime problems and night wakings in infants and young children. Sleep. 2006;29(10):1263–1276. doi:10.1093/sleep/29.10.1263. PMID: 17068979.
- Price AM, Wake M, Ukoumunne OC, Hiscock H. Five-year follow-up of harms and benefits of behavioral infant sleep intervention: randomized trial. Pediatrics. 2012;130(4):643–651. doi:10.1542/peds.2011-3467. PMID: 22966034.
- Gradisar M, Jackson K, Spurrier NJ, et al. Behavioral interventions for infant sleep problems: a randomized controlled trial. Pediatrics. 2016;137(6):e20151486. doi:10.1542/peds.2015-1486. PMID: 27221288.