リード
生後1〜3週頃、何もなかった皮膚に赤みが出始め、数ヶ月かけて盛り上がった赤い腫瘤: 皮膚や組織に盛り上がってできる「こぶ」「しこり」の総称。良性・悪性のどちらの可能性も含む医学的な表現になる——これが乳児血管腫: 生後すぐから乳児期に現れる、血管内皮細胞が増殖してできる赤い盛り上がりの良性腫瘤。多くは数年かけて自然に消える(いちご状血管腫)の典型的な経過だ。突然の変化に多くの保護者は驚き、「どんどん大きくなっているが大丈夫か」「治療が必要か」という問いに直面する。
2008年以降、この問いへの答えは大きく変わった。プロプラノロールという内服薬が劇的な効果を示すことが発見されたのだ。
乳児血管腫とはどんな病変か
乳児血管腫は、乳幼児の3〜5%に見られる血管内皮細胞の増殖による良性腫瘤だ [1,4]。早産児、低出生体重児、女児に多いとされる [4]。
経過には3つの相がある。
増大期(生後1〜5ヶ月): 急速に大きくなる。表面は光沢のある赤みで、触るとやわらかい。
安定期(生後6〜12ヶ月): 増大が止まる。
消退期(1歳以降〜): ゆっくりと色が薄くなり、縮小していく。50%は5歳までに、70%は7歳までに、90%は9歳までに消退する [3]。
つまり、多くの乳児血管腫は自然に消えていく。問題になるのは「どこにあるか」「どのくらいの大きさか」という点だ。
治療が必要なケースと観察でよいケース
体幹や四肢にある小型の病変で機能障害がなければ、自然消退を待つ観察が選択肢になる [3,5]。
一方、以下の部位や状況では早期の専門科受診と治療の検討が推奨される。
- 眼瞼付近: 視軸を塞いだり、視力発達の妨げになる弱視リスクがある
- 鼻先・口唇: 構造的変形が残る可能性がある
- 喉頭・気道: 声のかすれ・呼吸障害を引き起こすことがある
- 潰瘍化した病変: 痛みと感染のリスクがある
- 大型・多発性病変: 肝臓などの内臓に合併病変があることがある [3,5]
プロプラノロールの発見とその後
2008年、フランスのLéauté-Labrèzeらは、先天性心疾患治療のために投与していたプロプラノロール: もとは高血圧や不整脈に使われる薬。乳児血管腫に対しては血管の収縮と血管内皮細胞の増殖抑制によって急速な縮小をもたらす(βブロッカー: 心臓や血管にあるβ受容体を遮断して、心拍や血管の働きを抑える薬の総称。高血圧などに広く使われる)が、乳児血管腫を急速に縮小させることを偶然発見した [1]。それまで主な治療はステロイド局注・外科的切除・レーザーなどに限られており、効果も副作用も限界があった。
その後の多施設ランダム化対照試験(Léauté-Labrèze et al. 2015)では、プロプラノロール内服群における完全消退率が60%に達し、プラセボ群の4%と比較して圧倒的な効果を示した [2]。現在、機能障害・美容上の問題がある乳児血管腫の第一選択薬として世界的なコンセンサスが確立されている [3]。
治療の開始最適時期は増大期——おおむね生後5〜6週から5ヶ月頃とされる [4]。増大が収まった後では効果が出にくいため、気になる部位がある場合は早めに受診して専門医の評価を受けることが重要だ。
プロプラノロール治療の注意点
一般的な投与量は1日2〜3 mg/kgで、内服は授乳や食事と合わせて行う。低血糖・徐脈・血圧低下などの副作用があるため、開始時は入院または外来での心電図モニタリングが行われることが多い [3]。気管支喘息が疑われる場合は禁忌に該当するため、既往や家族歴の確認が必要だ。
治療期間は6ヶ月以上が一般的で、投与終了後にリバウンド(再増大)が見られることがあるため、医師と相談しながら段階的に減量する。
行動レベルへの落とし込み
- 眼・鼻・口・喉頭付近: できるだけ早く皮膚科・小児科・形成外科のいずれかに受診
- 体幹・四肢の小型病変: まず小児科で観察方針を確認。「自然消退を待つ」という選択が多い
- 増大が速い場合: 経過を写真で記録して受診時に持参すると有用
- プロプラノロール治療中: 授乳・食事と合わせた内服と、低血糖の症状(ぐったり・発汗・哺乳不良)への注意が必要
まとめ
乳児血管腫の多くは自然消退する良性の血管腫瘤だが、場所によっては機能障害・構造変形を残すリスクがある。プロプラノロールという治療薬の登場で、治療が必要なケースへの対応は格段に進歩した。増大の途中で受診して専門医と方針を確認することが、最善の判断を引き出す。
References
- Léauté-Labrèze C, Dumas de la Roque E, Hubiche T, Boralevi F, Thambo JB, Taïeb A. Propranolol for severe hemangiomas of infancy. N Engl J Med. 2008;358(24):2649–2651. doi:10.1056/NEJMc0708819. PMID: 18550886.
- Léauté-Labrèze C, Hoeger P, Mazereeuw-Hautier J, et al. A randomized, controlled trial of oral propranolol in infantile hemangioma. N Engl J Med. 2015;372(8):735–746. doi:10.1056/NEJMoa1404710. PMID: 25693013.
- Drolet BA, Frommelt PC, Chamlin SL, et al. Initiation and use of propranolol for infantile hemangioma: report of a consensus conference. Pediatrics. 2013;131(1):128–140. doi:10.1542/peds.2012-1691. PMID: 23266923.
- Tollefson MM, Frieden IJ. Early growth of infantile hemangiomas: what parents' photographs tell us. Pediatrics. 2012;130(2):e314–e320. doi:10.1542/peds.2011-3683. PMID: 22826573.
- Janmohamed SR, Madern GC, de Laat PC, et al. Educational paper: approaches to the child with a haemangioma. Eur J Pediatr. 2015;174(5):557–566. doi:10.1007/s00431-014-2441-0. PMID: 25316529.