リード
「卵を食べさせたら口の周りが赤くなった」「ピーナッツを含む食品を試したら蕁麻疹が出た」——初めて食物アレルギーの症状を見た保護者は、「次は大丈夫か」「もう食べさせてはいけないのか」という問いの前に立たされる。
恐怖は自然な反応だが、恐怖が食物回避を長期化させると、別のリスクを生み出す可能性がある。食物アレルギーに関する研究は、この10年で大きく前進した。何が起きたときに何をすべきかを知っていることが、不必要な除去食と適切な対処の両方につながる。
日本の乳幼児における食物アレルギーの実態
食物アレルギーの有病率は乳幼児で約5〜10%とされ [5]、原因食材は鶏卵が最多で、次いで牛乳・小麦が続く。ピーナッツは欧米に比べ日本では少ない傾向があるが、近年増加傾向にある [2,5]。鶏卵アレルギーの90%以上は学童期までに自然軽快するが、ピーナッツは20〜25%程度しか軽快しないという違いがある [3]。
アレルギー反応は一般に摂取後15分〜2時間以内に出現することが多い。
症状の重さで判断する——3段階の目安
食物アレルギーの初発症状は重症度に幅がある。症状を3段階に大まかに整理すると判断の目安になる。
軽症(経過観察で対応できることが多い)
- 口唇・口の周囲のかゆみ・発赤
- 顔面の部分的な蕁麻疹
- 目の軽い充血・浮腫
中等症(受診を検討する)
- 広範な蕁麻疹(体幹・四肢に拡大)
- 嘔吐・腹痛が繰り返し起こる
- 顔全体の腫れ
重症・アナフィラキシー(緊急対応が必要)
- 喉のしめつけ感・嗄声・喘鳴: 呼吸時にヒューヒュー、ゼーゼーと聞こえる雑音。気道が狭くなっているサインで、アレルギー反応では気道狭窄の指標になる(気道の症状)
- 呼吸困難・チアノーゼ
- 意識消失・ぐったりする
- 血圧低下
アナフィラキシー: 食物などのアレルゲンに反応して、皮膚・呼吸・循環など複数の臓器に同時に強い症状が出る急性反応。命に関わるため迅速な対応が必要は複数の臓器系に同時に症状が現れる急性の全身反応で、速やかなアドレナリン: 心臓・血管・気管支に作用するホルモン薬。アナフィラキシー時に血圧低下と気道狭窄を改善するための第一選択薬(エピペン)の投与と救急受診が必要だ [4]。エピペンを処方されている場合は、ためらわず使用する。
変わった常識——早期導入とアレルギー予防
かつて「アレルギーが出たことがある食材は除去する」「アトピーのある子はリスク食材の導入を遅らせる」という指針が主流だった。しかし現在この考え方は大きく変わっている。
2015年のLEAP試験(Du Toit et al.)は、ピーナッツアレルギーの高リスク乳児(湿疹またはすでに卵アレルギーがある乳児)において、4〜11ヶ月での早期摂取群では5歳時点でのピーナッツアレルギー発症率が1.9%に対し、回避群では13.7%と、81〜86%の発症抑制を示した [1]。
2017年のPETIT試験(Natsume et al.)は、湿疹のある日本人乳児への生後6ヶ月からの加熱卵タンパク少量摂取が、12ヶ月時点の卵アレルギー発症率を対照群比で63%低下させることを示した [2]。
これらのエビデンスは「怖いから遅らせる」という判断が、むしろアレルギー発症リスクを高める可能性を示している。ただし、これは「すべての乳児に無制限に試す」ことを意味しない。湿疹の重症度・家族歴・既存のアレルギー歴によってリスクが変わるため、リスクが高い場合はかかりつけ医に相談したうえで試す方針が推奨されている [5]。
経口負荷試験について
食物アレルギーが疑われる場合、自己判断での除去継続や自宅での「試し食べ」は避けた方がよい。確定診断には「経口負荷試験: 疑わしい食品を医療機関で段階的に少量から食べさせ、反応の有無を観察する検査。食物アレルギーの確定診断と安全摂取量決定に使われる」が用いられる——専門施設で段階的に当該食品を摂取させ、反応の有無を確認する検査だ。除去の必要がないと判明すれば除去食から解放され、摂取が確認できれば安全な量が明らかになる。
皮膚プリックテストや血清IgE値は補助的な指標であり、陽性であっても即「アレルギーがある」「除去が必要」とは限らない。診断は必ず医師との対話を通じて行う。
行動レベルへの落とし込み
- 初めての食材は少量から午前中に: 症状が出た場合に受診できる時間帯に試す
- アトピーや家族歴がある場合: 卵・ピーナッツの導入方針についてかかりつけ医に相談(「遅らせる」だけが選択肢ではない)
- アナフィラキシーの症状を覚えておく: 気道・血圧・意識に関わる症状が出た場合は救急受診かエピペン使用
- 症状の記録: 何を食べて・いつ・どんな症状が出たかを育児記録に残しておくと、受診時や負荷試験の際に直接役立つ
まとめ
食物アレルギーへの恐怖が食材の過剰除去につながることがある。しかし、適切な介入タイミングと症状の重症度の判断があれば、無用な回避を防ぎながら安全な食材導入を進められる。知識は恐怖を適切な判断に変える。
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References
- Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al.; LEAP Study Team. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803–813. doi:10.1056/NEJMoa1414850. PMID: 25705822.
- Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, et al.; PETIT Study Team. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017;389(10066):276–286. doi:10.1016/S0140-6736(16)31418-0. PMID: 27916234.
- Sampson HA. Food allergy: past, present and future. Allergol Int. 2016;65(4):363–369. doi:10.1016/j.alit.2016.08.006. PMID: 27645769.
- Turner PJ, Gowland MH, Sharma V, et al. Increase in anaphylaxis-related hospitalizations but no increase in fatalities: an analysis of United Kingdom national anaphylaxis data, 1992–2012. J Allergy Clin Immunol. 2015;135(4):956–963.e1. doi:10.1016/j.jaci.2014.10.021. PMID: 25468189.
- 日本小児アレルギー学会. 食物アレルギー診療ガイドライン 2021. 協和企画; 2021.
- Perkin MR, Logan K, Tseng A, et al.; EAT Study Team. Randomized trial of introduction of allergenic foods in breast-fed infants. N Engl J Med. 2016;374(18):1733–1743. doi:10.1056/NEJMoa1514210. PMID: 26943128.