「無視」と「グループ外し」は暴力である — 関係性攻撃の研究とデジタル化された問題

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対象
小学校中高学年の女児を持つ保護者(男児の保護者にも適用可能)
文字数目安
2,300字
ステータス
ドラフト v1

リード

「殴ってはいない」「物を取ったわけでもない」——そう言われると、何が起きているのかが見えにくくなる。無視する、グループから外す、陰口を言いふらす、招待しない。こうした行為は、身体的な攻撃ではないが、標的となった子どもに深刻なダメージを与えることが、発達心理学の研究で繰り返し示されてきた。

Crick と Grotpeter が 1995 年に発表した論文は、「(relational aggression)」という概念を明確に定義し、この種の攻撃が見落とされがちであると同時に、被害者の心理的健康に対して身体的攻撃と同等あるいはそれ以上の悪影響をもたらしうることを示した [1]。

この記事では、関係性攻撃の概念と、それがスマートフォンとSNSによってどのように変容・拡大しているかを整理する。

関係性攻撃とは何か

Crick & Grotpeter の定義

関係性攻撃とは、他者との関係を武器として使う攻撃行動のことだ。具体的には、「あの子と遊んだら仲間外れにする」という脅しや、特定の子どもをグループのやり取りから排除すること、意図的に無視すること、悪い噂を広めることなどが含まれる [1]。

Crick と Grotpeter の 1995 年の研究は、身体的攻撃と比べると女児において相対的に多く見られる攻撃形態としてこれを記述した。ただし後続の研究によって、男児にも関係性攻撃は存在し、「男子=身体的、女子=関係性」という単純な二項対立は修正されている [3]。Card らの 2008 年のメタアナリシスは、関係性攻撃の性差は小さく、男女両方に見られる行動パターンであることを示した [3]。

長期影響:被害者の内在化問題

Crick と Grotpeter の研究では、関係性攻撃の被害を受けた子どもは、孤独感・・社会的回避といった「内在化」問題と有意に相関することが示された [1]。身体的攻撃が外傷や恐怖という即時的なダメージを与えるのに対し、関係性攻撃は「自分は受け入れられない存在だ」という認知を形成することで、より長期にわたって自己評価を侵食する。

デジタル化された関係性攻撃

グループトーク「外し」の構造

スマートフォンとメッセージングアプリの普及は、関係性攻撃の回路を拡張した。学校の休み時間にしか起きなかったことが、24時間起きうるようになった。

グループ外しの典型的な形は、既存のグループから特定の一人だけを除いて新しいグループを作ること、既読をつけながら無視すること、グループ内でその子について語り合うことだ。物理的な排除より、当事者の目に見えない形でやり取りができる点が、デジタル環境での関係性攻撃の特徴だ [6]。

研究者はこの現象を「サイバー関係性攻撃(cyber-relational aggression)」として記述し始めており、これがリアルの関係性攻撃と同等またはそれ以上の心理的影響を持つことを示す研究が蓄積しつつある [6]。

記録が残ることの両刃性

デジタル上の関係性攻撃には、対面のそれと異なる側面がある。やり取りの記録が残るという点だ。これは、保護者や学校側が「証拠」として確認できるという意味では有利に働く。

しかし、被害を受けた子どもの視点からは、その記録はいつでも見返せる傷として機能する。「何度も読み返してしまう」という繰り返しの暴露が、心理的ダメージを増幅させることが報告されている。また、記録が残るために「あの時こう言った」「こう書いた」という形で関係がより複雑になることもある。

夜間のトラブル拡大

子どもが就寝時もスマートフォンを手元に置く環境では、夜間にトラブルが拡大するリスクがある。寝る前に届いたメッセージに夜通し反応し、翌朝に登校する段階では既に精神的に消耗している、というパターンが報告されている。Vannucci らの研究は、SNSの頻繁な使用が睡眠の質と不安感に悪影響を与えることを示しており [5]、夜間のデジタルアクセスの管理は、関係性攻撃の文脈だけでなく、精神的健康全般の観点から重要だ。

保護者にできること

「LINEを見せてほしい」問題

子どもの通信内容を確認したいという保護者の気持ちは自然だが、これは一方的にやると信頼関係を損なうリスクがある。「いつ見られてもおかしくない」という認識を子どもが持てるようルールを最初に設定しておく方が、「隠れた被害に気づけない」という問題への対処としてより持続可能だ。

具体的な形は、「夜9時以降はスマートフォンを親のところに置く」「グループトークに親も追加してもらう」などの取り決めを入学前または端末を渡す前に行うことだ。事後的に「見せろ」になるより、最初から「共有する前提」にしておく方が、子どもの心理的負担も小さい。

学校・スクールカウンセラーとの連携

関係性攻撃は、当事者だけで解決しようとすると悪化することが多い。子どもに「自分で解決しなさい」と任せることは、孤立感を深める可能性がある。

担任への伝え方は、「うちの子がいじめられています」という形より、「○○という状況があると聞きました。学校での様子を教えてもらえますか」という確認の形の方が連携しやすい。スクールカウンセラーがいる場合は、子ども自身が話せる場として活用することも選択肢だ。

行動レベルへの落とし込み

関係性攻撃の被害に子どもが遭っている可能性を感じたとき、保護者が最初にできることをいくつか示す。

子どもの話を遮らずに聞く。 「でも相手にも理由があるんじゃない?」「もっと自分から話しかけてみたら?」という介入は、話を聞くより先には行わない。まず、子どもが感じていることを言い切るまで聞く。

事実と感情を分けて整理する。 「誰が」「何をした/しなかった」という事実と、「それで自分はどう感じたか」を分けて話せるよう手助けする。感情が整理されると、次のステップ(誰かに相談するかどうか)を子ども自身が考えやすくなる。

「学校に行きたくない」の訴えを軽く見ない。 身体症状(腹痛・頭痛)や登校渋りは、関係性攻撃の被害が深刻になっているサインであることがある。この段階では専門家への相談を検討する。

まとめ

「無視」も「グループ外し」も、見えにくいだけで暴力だ。関係性攻撃は、被害者の自己評価に長期にわたって影響を与えることが研究で示されており、「子ども同士のこと」として静観することには限界がある。

デジタル環境はその回路を拡張した。24時間・記録が残る・いつでも見返せる、という条件は、同じ行為の心理的負荷を増幅させる。

保護者にできる最初のことは、「見えない暴力をちゃんと見える問題として扱う」という姿勢を子どもの前で示すことだ。


References

  1. Crick NR, Grotpeter JK. Relational aggression, gender, and social-psychological adjustment. Child Dev. 1995;66(3):710–722. doi:10.2307/1131945. PMID: 7743989
  2. Crick NR, Werner NE, Casas JF, et al. Childhood aggression and gender: a new look at an old problem. Nebr Symp Motiv. 1999;45:75–141. PMID: 10195839
  3. Card NA, Stucky BD, Sawalani GM, Little TD. Direct and indirect aggression during childhood and adolescence: a meta-analytic review of gender differences, intercorrelations, and relations to maladjustment. Child Dev. 2008;79(5):1185–1229. doi:10.1111/j.1467-8624.2008.01184.x. PMID: 18826521
  4. Underwood MK. Social Aggression among Girls. New York: Guilford Press; 2003.
  5. Vannucci A, Ohannessian CM. Social media use and anxiety in emerging adults. J Affect Disord. 2019;207:163–166. doi:10.1016/j.jad.2016.09.039. PMID: 27773882
  6. Kowalski RM, Limber SP, Agatston PW. Cyberbullying: Bullying in the Digital Age. 2nd ed. Malden: Wiley-Blackwell; 2012.