リード
「自分が育てられたように、子どもを育ててしまうのではないか」。
この問いを、子を持った瞬間に初めて持つ人は多い。自分の親との記憶が心地よいものであれ、傷の残るものであれ、その記憶が子育ての場面で唐突に浮かび上がってくることがある。なぜ人は過去の育てられ方を無意識のうちに反復するのか、そしてその連鎖は断ち切れるのか — これは精神分析的な直感にとどまらず、1980年代から実証研究が積み上げてきた問いである。
愛着の世代間伝達とは何か
愛着研究の中核的な問いのひとつは、「乳幼児期の子どもと養育者の間に形成される愛着パターンが、世代をまたいで継承されるかどうか」だ。
メアリー・メイン(Mary Main)とルース・ゴールドウィン(Ruth Goldwyn)は 1984 年、親自身の愛着経験を評価するための面接法「成人愛着面接: Adult Attachment Interview; AAI。幼少期の養育者との記憶を語らせ、語り方の一貫性から愛着スタイルを分類する標準化された半構造化面接(Adult Attachment Interview; AAI)」の体系を開発した [1]。AAI では、幼少期の養育者との関係に関する記憶を語らせ、その内容よりも語り方の一貫性・一貫性の欠如を分析する。安定型(自律型)・軽視型・とらわれ型・未解決型という分類は、子どもの Strange Situation での愛着分類: 乳児が養育者と分離・再会する場面を構造化した実験で、乳児の行動パターンから愛着の質を評価する手法(安定型・回避型・アンビバレント型・無秩序型)と高い対応を示す。
この対応を量的に検証したのが、マリーヌス・ファン・アイゼンドールン(Marinus van IJzendoorn)の 1995 年のメタアナリシスだ。18 サンプル(N = 854)を対象に、親の AAI 分類と子の愛着分類の関連を検討し、両者の間に統計的に中程度の効果量(r ≈ .47 前後)を確認した [2]。親自身の愛着スタイルが、子どもとの愛着関係を有意に予測することが、独立した複数の研究で繰り返し示されたのである。
ただしこのメタアナリシスには、後に「伝達のギャップ(transmission gap)」と呼ばれる問題も指摘された。親の感受性(sensitivity)— 子どものシグナルへの適切な応答 — が、世代間伝達の主要な媒介変数として想定されたが、実際の研究では感受性だけでは伝達の半分程度しか説明できなかった [2]。残りの半分は、観察されなかった別の変数によって媒介されているとみられる。
30年分のデータが再較正した
2016 年、フェルハフ(Verhage)らは過去 3 十年間の研究を統合した大規模メタアナリシスを Psychological Bulletin に発表した [3]。95 サンプル(N = 4,819)を対象に愛着の世代間伝達を再検討した結果、安定型の伝達効果量は r = .31、未解決型では r = .21 であり、1995 年のメタアナリシスより効果量が小さくなっていた。これは時代と研究の精緻化による縮小であって、伝達そのものが否定されたわけではない。
世代間伝達のエビデンスは堅固だが、その程度は中程度だ、と理解するのが現時点での最も誠実な読み方だろう。
別のメタアナリシス(Fearon ら、2010 年)は、不安定型・無秩序型愛着が外在化問題行動と関連することを示した [4]。愛着の質は行動発達にも波及するが、因果の方向や媒介変数は複雑であり、「愛着が悪ければ行動問題が出る」という単純な一方向の話ではない。
「連鎖は断ち切れる」という実証的な根拠
世代間伝達の研究が保護者にとって持つ最も重要な含意は、「自分が育てられたように育てる必要はない」という点だ。
その根拠は、効果量の大きさそのものにある。先述の通り、親の AAI 分類と子の愛着分類の対応は中程度であり、相関係数にして 0.3 前後だ。これは分散の 10% 程度を説明するにすぎない。残りの 90% は、遺伝的要因・環境要因・養育者以外の関係・偶発的な経験など、他の変数によって決定されている。
さらに重要なのは、AAI 自体が「語りの一貫性」を評価するという性質だ。幼少期の記憶が困難なものであっても、それを「一貫して、感情と事実の両方を統合して語れる」人は「自律型」に分類され、子どもの安定型愛着と関連する。つまり、困難な経験があることではなく、その経験をどう意味づけているかが伝達の方向を決める。これは、過去の傷が世代間伝達の宿命的な連鎖ではないことを示す。
臨床的には、自身の愛着経験の整理や意味づけを支援する介入(アタッチメント・ベースドのペアレンティングプログラムなど)が、子どもの安定型愛着を増加させることが複数の研究で確認されている [3]。反省し、語り、関係を問い直すこと自体が、伝達のパターンを変え得る。
日々の場面で考えられること
世代間伝達の研究を実践的に役立てるとしたら、以下のような問いを自分に投げかけることが、一つの起点になるかもしれない。
「自分が子どもだった頃、誰に何を頼れたか」「怖い思いをしたとき、誰が応じてくれたか」「逆に、頼れなかった経験から自分はどんな癖を持ったか」— これらは精神分析的な「掘り起こし」ではなく、今の自分の反応パターンを観察するための参照点だ。
子が不機嫌に泣いていると、自分が子どもだった頃に「うるさい」と言われた記憶が戻ってきて、同じ言葉を言いたくなる、という経験を持つ人がいる。その反応が「自動的」であることに気づくだけで、行動の選択肢は広がる。記録をつける習慣 — 子どもへの自分の反応を含めた日常を記録すること — は、こうした自己観察の一助になり得る。
まとめ
愛着の世代間伝達は実証されている。しかしその効果量は中程度であり、世代間の連鎖は決定論的ではない。過去の困難な経験が、語られ意味づけられるなら、それは伝達の連鎖の中断につながる。
自分が育てられたように育てる必要はない。ただし、育てられ方が自分に与えた影響は、振り返る価値がある。
References
- Main M, Goldwyn R. Adult attachment scoring and classification system. Unpublished manuscript, University of California at Berkeley; 1984/1998. [手稿のため出版情報は後継論文 (Main M, Hesse E, Goldwyn R. In: Steele H, Steele M, eds. Clinical Applications of the Adult Attachment Interview. Guilford Press; 2008) を参照]
- van IJzendoorn MH. Adult attachment representations, parental responsiveness, and infant attachment: a meta-analysis on the predictive validity of the Adult Attachment Interview. Psychol Bull. 1995;117(3):387–403. PMID: 7777645. doi:10.1037/0033-2909.117.3.387
- Verhage ML, Schuengel C, Madigan S, et al. Narrowing the transmission gap: A synthesis of three decades of research on intergenerational transmission of attachment. Psychol Bull. 2016;142(4):337–366. PMID: 26653864. doi:10.1037/bul0000038
- Fearon RP, Bakermans-Kranenburg MJ, van IJzendoorn MH, Lapsley A-M, Roisman GI. The significance of insecure attachment and disorganization in the development of children's externalizing behavior: a meta-analytic study. Child Dev. 2010;81(2):435–456. doi:10.1111/j.1467-8624.2009.01405.x
- George C, Kaplan N, Main M. Adult Attachment Interview. Unpublished manuscript, University of California at Berkeley; 1984. [AAI プロトコル原典。上掲 Main & Goldwyn 1984 と同文脈]