リード
子が鼻にビーズを入れた。綿棒で取ろうとして奥に押し込んだ——こういう経過は小児救急外来でよく聞かれるパターンだ。異物の対処で最初にやるべきことは「取る」ではなく「確認する」であり、部位によって対処法はまったく異なる。
鼻腔の異物
鼻腔異物は2〜4歳ごろに多く、おもちゃの小部品やビーズが多い [1]。片側の鼻から悪臭を伴う鼻汁が続く場合は、異物が見落とされているサインのことがある。
家庭で試せる対処(kissing technique)
物体が鼻腔の入口付近に見えている場合に限り、「kissing technique」を1〜2回試すことができる。親が子の口を覆うように密着し、詰まっていないほうの鼻孔を指で押さえ、口から息を吹き込む。陽圧で異物が押し出されることがある。症例報告・症例集積8件をまとめたシステマティックレビューでは、成功率は約60%(152例中91例)で、有害事象の報告はなかった [2]。ただし、以下の場合は試さずに耳鼻科を受診する。
- 異物が見えない・奥にある
- 電池・磁石(化学熱傷・腸管損傷リスク。医療機関でも緊急の摘出対象とされる [1])
- kissing technique を2回行っても取れない
禁忌: 綿棒・ピンセットで盲目的に掻き出そうとすること。異物を奥に押し込み、副鼻腔・咽頭への移行を招く。
耳道の異物
小児の外耳道異物では食物・ビーズ・昆虫が多い。Schulze らの698例の分析では、球状の物や鼓膜に接している物は直視下での除去が失敗しやすく、除去に失敗すると合併症が増えることが示されている [3]。
昆虫が入った場合
虫が生きている場合、掻き出そうとすると刺されたり深く入ることがある。消毒用エタノールまたは温めたオリーブ油・ベビーオイルを数滴耳道に注入して虫の動きを止め、その後耳鼻科を受診するのが安全な選択肢だ。
硬い物体(ビーズ・豆・小石など)
触らずに耳鼻科受診。棉棒で押し込むと鼓膜損傷の可能性がある。
電池類
外耳道内でも電気分解による化学熱傷: 化学物質が組織に接触して生じる組織損傷が起きるリスクがある。即座に耳鼻科または救急受診が必要だ。
眼の異物と化学外傷
眼の対処は物質によって緊急度が大きく異なる。
砂・ほこり・まつ毛
まぶたを持ち上げながら流水で数分間洗眼する。こすることで角膜に傷がつく可能性があるため、こすらせない。洗眼後も異物感・充血が残る場合は眼科受診を検討する。
化学物質(洗剤・酸・アルカリ系液体)
眼の化学外傷で最初に行うことは「中和」ではなく「大量の流水で洗う」だ。酸性やアルカリ性の液で中和しようとすると、かえって眼を傷めるおそれがあるため避ける [6]。アルカリ性物質(漂白剤・石灰など)は酸より角膜: 眼球前面の透明な膜。化学物質による損傷は視力に影響するを深く侵食しやすく [6][7]、洗眼開始までの時間が予後を左右する [4][5]。水道水でよいのですぐに洗い始め、できるだけ長く流し続けることが勧められており [6]、医療機関では少なくとも30分間、眼表面の pH が中性(7.0〜7.4)に戻るまで洗眼を続ける [7]。自宅での応急処置としても、「少なくとも30分」を目安として流水洗眼を続けながら速やかに眼科または救急を受診する。
角膜異物(金属片・木片など)
拭き取ろうとすると角膜に傷がつく。流水洗眼の後、眼科に行く。
行動レベルへの落とし込み
- 鼻腔異物は異物が見えている場合のみ kissing technique を1〜2回試せる。見えない・電池・磁石なら耳鼻科直行が確実な選択肢だ。
- 眼に化学物質が入った場合の最初の行動は「流水で洗う」であり、中和液は使わない。洗眼後に眼科受診する流れを先に知っておくと焦りにくい。
- 耳に虫が入った場合は虫の動きを止めることが先で、無理に引っ張り出さない。
まとめ
耳・鼻・目の異物対処に共通するのは、「すぐに取ろうとする」前に「見て・確認する」という順番だ。特に眼の化学外傷は数分の遅れが予後に影響することがあるため、洗剤類を扱う場所での事故の場合は素早い洗眼を優先する。
References
- Kiger JR, Brenkert TE, Losek JD. Nasal foreign body removal in children. Pediatr Emerg Care. 2008;24(11):785–792. doi:10.1097/PEC.0b013e31818c2cb9. PMID: 19018225.
- Cook S, Burton M, Glasziou P. Efficacy and safety of the "mother's kiss" technique: a systematic review of case reports and case series. CMAJ. 2012;184(17):E904–E912. doi:10.1503/cmaj.111864. PMID: 23071371.
- Schulze SL, Kerschner J, Beste D. Pediatric external auditory canal foreign bodies: a review of 698 cases. Otolaryngol Head Neck Surg. 2002;127(1):73–78. doi:10.1067/mhn.2002.126724. PMID: 12161734.
- Burns FR, Paterson CA. Prompt irrigation of chemical eye injuries may avert severe damage. Occup Health Saf. 1989;58(4):33–36. PMID: 2733955.
- Kuckelkorn R, Schrage N, Keller G, Redbrake C. Emergency treatment of chemical and thermal eye burns. Acta Ophthalmol Scand. 2002;80(1):4–10. doi:10.1034/j.1600-0420.2002.800102.x. PMID: 11906296.
- American Academy of Ophthalmology. Chemical (Alkali and Acid) Injury of the Conjunctiva and Cornea. EyeWiki. 最終更新 2026-09-02(2026-09-18 閲覧). https://eyewiki.org/Chemical_(Alkali_and_Acid)_Injury_of_the_Conjunctiva_and_Cornea
- Patek GC, Bates A, Gurnani B. Ocular Burns. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026年1月31日更新. NBK459221. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459221/