リード
「卵のIgEが陽性でした」と言われた瞬間、多くの親は「卵を食べさせてはいけない」と受け取る。
この受け取り方は、あながち間違いではないが、正確でもない。IgE陽性は「感作あり」を意味し、感作とは「その食物に対する抗体が血液中に検出できる状態」だ。しかし感作と「食べたときに症状が出る」こととは、同じではない。この差を理解することが、不要な食物除去を防ぎ、子どもの栄養と生活の質を守ることにつながる。
前提:感作と発症の乖離
特異的IgEが検出されることを「感作: 体内にアレルゲンに対するIgE抗体が産生されている状態。症状の有無とは必ずしも一致しない(sensitization)」と呼ぶ。感作がある子どもすべてに食物アレルギー症状が出るわけではなく、逆に感作がなくても(IgE非依存型の)症状が出る子もいる。
1歳児約2,800人を対象にしたオーストラリアの住民ベース研究(HealthNuts)では、皮膚テストで生卵白に感作していた子は16.5%、経口負荷試験で生卵アレルギーと確定したのは8.9%だった [1]。感作していた子のおよそ半数は、実際に食べても症状が出なかった計算になる。「IgE陽性=除去」という単純な判断は、一定割合の子どもから不必要に食物を遠ざけることになる。
欧州食物アレルギー・アナフィラキシーガイドライン(EAACI)は、IgE値のみによる食物除去指示を避け、臨床症状との照合と経口負荷試験(OFC)による確認を推奨している [2]。
本論
ImmunoCAP の判定クラス——数字が高いほど「食べると症状が出る」わけではない
特異的IgE検査: 特定のアレルゲンに反応するIgE抗体の血中濃度を測定する検査。ImmunoCAP法が標準的に用いられる(ImmunoCAP)の結果は、0〜6のクラスで示される。
- クラス0:0.35 UA/mL 未満(陰性)
- クラス1:0.35〜0.69 UA/mL
- クラス2:0.70〜3.49 UA/mL
- クラス3:3.5〜17.4 UA/mL
- クラス4:17.5〜49.9 UA/mL
- クラス5:50〜99.9 UA/mL
- クラス6:100 UA/mL 以上
クラスが高くなるほど、統計的には症状が出る確率は上がる。しかし個人単位での予測力には限界がある。
Calvani ら(2015)のシステマティックレビュー(37研究)は、卵白の特異的IgEや皮膚テストは感度: 検査が本当の陽性者を正しく陽性と判定する割合は高いが特異度: 検査が本当の陰性者を正しく陰性と判定する割合が低い、つまり「陽性」の中に食べられる子が多く混じると整理している [3]。一方で同レビューは、「この値以上なら負荷試験をしなくても生卵アレルギーの可能性が非常に高い」という目安も年齢別に挙げており、2歳未満では卵白IgE 1.7 UA/mL(クラス2)以上、2歳以上では7.3 UA/mL(クラス3)以上とされている [3]。ただしこうした目安は研究や対象集団によるばらつきが大きく、そのまま別の子に当てはまるとは限らない [7]。つまり、クラスの数字だけで「食べてはいけない」とも「食べて大丈夫」とも決められず、年齢・食物・これまでの症状と合わせて医師が判断する領域だ。
食物アレルギー診療ガイドライン(日本小児アレルギー学会 2021年版)も、IgE値のみを根拠とした除去は原則として行わないことを推奨している [4]。
経口負荷試験(OFC)——確定診断のゴールドスタンダード
「実際にその食物を食べたときに症状が出るかどうか」を直接確認する試験が、経口負荷試験(OFC: Oral Food Challenge) だ。IgE値だけでは測れない「その子の現在の閾値」を評価する、現時点での最も確実な方法だ [2,4]。
OFCは、段階的に食物を増量しながら症状の出現を観察する。入院OFCと外来OFCがあり、症状のリスク評価によって使い分けられる。日本では厚生労働科学研究班がまとめた「食物経口負荷試験の手引き2020」(日本小児アレルギー学会が公開を案内)に、適応・リスク評価・実施方法・結果判定が整理されている [5]。
OFCで「閾値」が分かると、「完全除去」か「少量は食べられる」かが明確になり、日常の食事管理が格段に具体的になる。また、乳幼児期の食物アレルギーの多くは年齢とともに耐性を獲得する。卵アレルギーでは、オーストラリアの住民ベースコホートで1歳時に負荷試験で確定した子の47%が、2歳までに自然寛解: 治療なしに症状が消失することしていた [6]。だからこそ、定期的な再評価(IgEの再検とOFCの計画)が重要だ [4]。
不必要な除去が持つリスク
除去を継続することは、一見安全に見えるが、リスクを持つ。主食・副食に幅広く使われる卵・牛乳・小麦の除去は、栄養バランスへの影響が無視できない。また、ピーナッツアレルギーの高リスク乳児640人を対象にしたLEAP試験(Du Toit et al., 2015)では、乳児期から医師の評価のもとでピーナッツを食べ続けた群の方が、避け続けた群より5歳時点のピーナッツアレルギーが大幅に少なかった(開始時の皮膚テスト陰性群で1.9%対13.7%)[8]。卵でも、焼いた卵を食べられる子では頻繁に食べていた方が耐性を獲得しやすかったという観察がある [6]。「食べないこと」が必ずしも安全側とは限らない。
「除去の根拠を主治医と確認する」という姿勢が、過剰な除去を防ぐための最初のステップだ。
行動レベルへの落とし込み
1. IgE陽性だけで食物を除去しない。主治医に「OFCの適応があるか」を確認する。 除去が必要なのか、OFCで閾値確認が必要なのかは、血液検査だけでは決まらない。
2. 除去が必要な場合は「完全除去か微量OKかの閾値」を明確にする。 「とりあえず全部やめる」より、医師が定めた閾値に基づく管理の方が、子どもの生活の質に直結する。
3. 1〜2年に1度はIgEを再検して「耐性獲得」の経過を追う。 乳幼児期の食物アレルギーは変化する。過去の結果だけで管理を継続しないことが重要だ。
症状の記録——「いつ」「何を食べて」「どんな症状が出たか」——を蓄積しておくと、受診時に医師が正確な評価をしやすくなる。特に軽微な症状は記憶に残りにくく、書き留めておいた記録が診断の精度を上げることがある。
まとめ
IgE陽性は感作であり、発症ではない。クラスの高さは確率の話であり、個人への確定的な予測ではない。経口負荷試験は「今この子がどのくらい食べられるか」を直接確認する、現時点で最も確実な方法だ。
除去は始めやすく、やめにくい。根拠に基づかない除去が何年も続くことを防ぐために、「この除去の根拠は何か」という問いを医師と共有することが、子どもの食の可能性を守ることにつながる。
References
- Osborne NJ, Koplin JJ, Martin PE, et al; HealthNuts Investigators. Prevalence of challenge-proven IgE-mediated food allergy using population-based sampling and predetermined challenge criteria in infants. J Allergy Clin Immunol. 2011;127(3):668–676. PMID: 21377036.
- Muraro A, Werfel T, Hoffmann-Sommergruber K, et al; EAACI Food Allergy and Anaphylaxis Guidelines Group. EAACI food allergy and anaphylaxis guidelines: diagnosis and management of food allergy. Allergy. 2014;69(8):1008–1025. PMID: 24909706.
- Calvani M, Arasi S, Bianchi A, et al. Is it possible to make a diagnosis of raw, heated, and baked egg allergy in children using cutoffs? A systematic review. Pediatr Allergy Immunol. 2015;26(6):509–521. PMID: 26102461.
- 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会. 食物アレルギー診療ガイドライン 2021. 協和企画; 2021.
- 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業)「食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立」研究班(研究代表者 海老澤元宏). 食物経口負荷試験の手引き2020. 2021年3月公開.
- Peters RL, Dharmage SC, Gurrin LC, et al; HealthNuts study. The natural history and clinical predictors of egg allergy in the first 2 years of life: a prospective, population-based cohort study. J Allergy Clin Immunol. 2014;133(2):485–491. PMID: 24373356.
- Peters RL, Gurrin LC, Allen KJ. The predictive value of skin prick testing for challenge-proven food allergy: a systematic review. Pediatr Allergy Immunol. 2012;23(4):347–352. PMID: 22136629.
- Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al; LEAP Study Team. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803–813. PMID: 25705822.