離乳食で鉄を補う — 6ヶ月以降に何を、どれくらい食べさせればいいか

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対象
生後6〜12ヶ月児の保護者(離乳食中期〜後期)
文字数目安
1,900字
ステータス
ドラフト v1

リード

「鉄が大事」という言葉は乳幼児の栄養に関心がある親なら一度は目にする。しかし「なぜ大事か」の説明で終わっていることが多く、「では何を何g食べさせればいいのか」という実務的な問いに答える情報は意外と少ない。

本記事は、生後6ヶ月以降に鉄が不足しやすい理由を簡潔に示したうえで、食材の選び方・調理法・吸収を高める工夫という実践的な視点から整理する。

なぜ6ヶ月以降に鉄が不足しやすいのか

胎児は妊娠後期に母体から鉄を受け取り、生後4〜6ヶ月分の貯蔵鉄を蓄えて生まれてくる [1]。ところが生後6ヶ月前後になると、急激な身体発育と赤血球産生の加速によって鉄需要が跳ね上がる。母乳の鉄含量はもともと少なく(約0.2〜0.4 mg/L)、吸収率こそ高い(約50%)ものの絶対量として不十分になる時期が生後6ヶ月頃に訪れる [2]。

米国小児科学会(AAP)は「母乳栄養児において最も一般的な微量栄養素欠乏は鉄欠乏であり、生後6〜12ヶ月が最もリスクが高い」と明示している [3]。離乳食で鉄を補う必要があるのはこのためだ。

ヘム鉄と非ヘム鉄 — 吸収率の差を理解する

食品中の鉄には、動物性食品に含まれる「」と、植物性食品・乳製品に含まれる「」の2種類がある。

この2種類の最大の違いは吸収率だ。ヘム鉄の吸収率は約15〜35%であるのに対して、非ヘム鉄は約2〜20%と幅が広く、一般的に2〜3倍の差がある [4]。同じ量の鉄を含む食品でも、ヘム鉄源の方が体内に取り込まれる量がはるかに多い。

主な食材の鉄含有量(100gあたり)の目安は以下の通りだ(日本食品標準成分表 2020 年版参照)。

食材 鉄(mg/100g) 鉄の種類
鶏レバー 9.0 ヘム鉄
豚レバー 13.0 ヘム鉄
牛赤身(もも) 2.7 ヘム鉄
鶏ひき肉 1.0 ヘム鉄
小松菜 2.8 非ヘム鉄
ほうれん草 2.0 非ヘム鉄
木綿豆腐 1.5 非ヘム鉄

離乳食で手軽に使えるヘム鉄源として、鶏ひき肉や牛赤身の細かいすり下ろしはペーストにしやすく、初期〜中期から利用できる。鶏レバーは鉄量が非常に多いが、独特の臭みがあるため下処理(牛乳や水で血抜き)が必要だ。

吸収を高める・下げる組み合わせ

非ヘム鉄の吸収率は、同時に食べるものによって大きく変動する。

吸収を高める: ビタミンCとの同時摂取が最も効果的だ。ビタミンC 25mg(ブロッコリー約50g、またはトマト1/3個程度)を非ヘム鉄食材と同時に摂ると、非ヘム鉄の吸収率が2〜3倍上昇するとされる [5]。小松菜の炒め物にトマトを加える、豆腐の離乳食にパプリカを添えるといった組み合わせが実践的だ。

吸収を下げる: (緑茶・番茶)と(穀物・豆類の外皮)は非ヘム鉄の吸収を阻害することが知られている [5]。食事中の緑茶は鉄吸収に影響する可能性があり、食事には麦茶か白湯を合わせて、緑茶は食後30分以上あけてから飲む選択肢がある。また、牛乳の過剰摂取も鉄の吸収を阻害し腸管への影響が懸念される [3]。

目標量と現実的な食事例

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、6〜11ヶ月の乳児の鉄の目安量を5.0 mg/日(男児・ビタミンD依存性条件含む)に設定している [6]。

毎日5mg全てを離乳食から補う必要はない(母乳・ミルク経由の分も加算される)が、鉄リッチな食材を意識的に組み込むことが大切だ。

食事例(中期・1回食ベース):

離乳食の食材記録を続けると、鉄食材を「今週何回出したか」が振り返りやすくなる。週3〜4回、肉類か葉物野菜を組み合わせるルーティンをつくることが、現実的な目標設定の一つだ。

鉄強化食品の位置づけ

WHOが補完食の優先食材の一つとして挙げるのが、鉄強化乳児用シリアルだ [7]。特に鉄含量が安定していて扱いやすく、BLW系の手法を選んでいる場合でも、シリアルをスプーンで与えることで鉄不足を補う組み合わせが研究上の根拠がある(前記 P-2 参照)。

市販のベビーフードは製品によって鉄含量が大きく異なる。利用する場合は栄養成分表で鉄の含有量を確認する習慣が役立つ。

まとめ

生後6〜12ヶ月は鉄欠乏のリスクが最も高い時期であり、離乳食での積極的な補充が必要だ。ヘム鉄源(鶏ひき肉・牛赤身)を優先し、非ヘム鉄食材にはビタミンCを組み合わせる。食事中の緑茶を避け、牛乳の過剰摂取に注意する。複雑に考えすぎる必要はなく、週に数回の鉄リッチな食事をつくる仕組みを設計することが出発点になる。

9〜10ヶ月健診の際に簡易的な貧血スクリーニングを依頼できる自治体もあり、心配がある場合は小児科医に相談することができる [3]。


References

  1. Baker RD, Greer FR; Committee on Nutrition American Academy of Pediatrics. Diagnosis and prevention of iron deficiency and iron-deficiency anemia in infants and young children (0-3 years of age). Pediatrics. 2010;126(5):1040-1050. PMID: 20923825. doi:10.1542/peds.2010-2576
  2. WHO. Guiding principles for complementary feeding of the breastfed child. Geneva: WHO; 2003. ISBN 92-4-154614-X
  3. Baker RD, Greer FR; Committee on Nutrition American Academy of Pediatrics. Diagnosis and prevention of iron deficiency and iron-deficiency anemia in infants and young children (0-3 years of age). Pediatrics. 2010;126(5):1040-1050. PMID: 20923825. doi:10.1542/peds.2010-2576
  4. Hallberg L, Hulthén L. Prediction of dietary iron absorption: an algorithm for calculating absorption and bioavailability of dietary iron. Am J Clin Nutr. 2000;71(5):1147-1160. PMID: 10799377. doi:10.1093/ajcn/71.5.1147
  5. Teucher B, Olivares M, Cori H. Enhancers of iron absorption: ascorbic acid and other organic acids. Int J Vitam Nutr Res. 2004;74(6):403-419. PMID: 15743020. doi:10.1024/0300-9831.74.6.403
  6. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). 2019. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
  7. WHO. Guiding principles for complementary feeding of the breastfed child. Geneva: WHO; 2003. ISBN 92-4-154614-X